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地球が有限であることを実感する時代

【巻頭言】

中根 英昭

 およそ46億年前に地球が誕生し,酸素分子とオゾン層が作られて有害紫外線が遮蔽され,森や草原が広がって,動物が棲めるようになり,約500万年という時間を経て人類が生存するようになりました。そして,人類は何度も自らの生活範囲が有限であることを経験し,有限の世界の中で生きる知恵を発達させてきました。その有限性は,海,山,河など自然の境界によるものでした。人類が地球そのものの有限性を実感し始めたのは,つい最近のことです。

 自然と人間の関係について言えば,人間と無関係に自然が存在した時間が圧倒的に長いことは厳然たる事実です。従って,「自然共生」という言葉を使う時も,実際には,人間が自然と共に生きさせていただいているということだと思います。さすがに「自然を征服・支配してコントロールするべきだ」と声高に主張されることは少なくなってきましたが,人工環境を創造しそれに守られながらここまで繁栄してきた人間は,自然を忘れ,あるいは自然の機能のみに注目しがちです。しかし,私達は自然を知り尽くしてはいません。今,私達が知っている限られた自然の機能のみを前提として自然改変に突き進むのではなく,人間が自然を破壊あるいは改変する前の自然を地球上で保全することの大切さを強調したいと思います。同時に,人工環境が人間の生存に不可欠であることは事実であり,既に改変された自然がたくさんある現状から再出発するしかありません。十分に狭くなった地球の上で,これらの共存を実現することが「自然共生」の基盤になる,そして持続可能な社会の基盤になると思います。

 地球が有限であることの社会的な側面について考えて見たいと思います。私達が社会生活を営む上で大切にしてきた伝統や知恵,規範,社会制度などは有限な世界の中のもので,今後も大切です。と同時に,これらは,その社会の外部が無限の世界であるという暗黙の仮定を伴ったものでした。このような狭い社会で作られた,地球の有限性を知らない考え方や社会制度が,人間の実感できる範囲を越えて拡張しました。地球が有限な大きさの球体であることを人間が頭で理解するようになった後も,それを知らないかのように拡張していきました。無限の自然,無限の「自然の恵み」,尽きないフロンティアを持った地球を前提とした考え方や社会制度が広がったのです。今,私達は,資源,食料や経済を通して地球の有限性を否応なく感じさせられています。昨年の夏,原油価格は1年前の2倍近くにまで急騰し,農産物価格も急騰しました。投資すべき新たなフロンティアを見失った「マネー」は意図的に作った投資先になだれ込んでいきました。そして,然るべくして経済危機が現実のものとなりました。私達は,社会・経済的な意味での地球の有限性に伴う病理を実感したと言えます。

 最近,科学技術の力で地球の有限性を感じることができるようになりました。数値シミュレーションです。気候変動については,私達がCO2の排出を減らさなければ気温がどの地域でどれだけ上がりどこで雨が多くなるかなどを,地球シミュレータを使った計算結果が実感させてくれています。アジア自然共生研究プログラムでも,東アジアスケールや北半球スケールの大気汚染物質や黄砂の流れなど,より詳しいシミュレーションを精力的に行ってきました。シミュレーションは様々な環境問題の全体像や将来の姿を実感させてくれます。シミュレーションを通して地球が有限であることを実感しながら,持続可能な社会の建設を目指して私達は決断しつつ前に進む時代になってきています。それだけに,モデルの妥当性の検証,シミュレーションモデルの適用範囲や結果の不確実性について明らかにすることが必要です。それを担う研究者の役割がますます重要になってきていること,このことも実感させられます。

 

(なかね ひであき,アジア自然共生研究グループ長)

執筆者プロフィール

中根 英昭

 昨年4月より,武蔵野市から研究所まで電車とバスで通勤しています。あと1年半の中期計画,2年半の研究所での勤務という限られた時間内に何が出来るか,砂時計を横目で見ながら仕事をしています。趣味は卓球。

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