ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

米国ニューヨーク市コロンビア大学での研修活動をふり返って

【海外調査研究日誌】

徐 開欽

 2005年4月1日より1年間客員研究員として,米国コロンビア大学(Columbia University)で派遣研修機会を与えていただき,充実した研修生活を送ることができました。コロンビア大学は,1754年に(アメリカ建国よりも早く)創立された,全米で5番目に古い,ニューヨーク市マンハッタンにある私立総合大学です。同大学には,150の国から7,200人以上の留学生および学者・客員研究員等を含む2万3千人が通っています。特記事項として,昨年までのコロンビア大学関係者のノーベル賞受賞者数は実に76名もいるそうです(ちょっとびっくり!)

 研修期間中の主な研究活動は,メインキャンパスにある地球環境工学科(EEE)とそこから約30km離れた国際気候・社会研究所(IRI)の2カ所で行っていました(写真)。EEEとIRIでは,主に気候変動と地球環境・開発途上国の環境問題,特に水資源,農業環境等について研究しており,独自の気候変動や人間・自然要因による複雑な水文プロセス変化に関するデータベースと研究ノウハウを持っています。ホストのUpmanu Lall教授は丁度EEEの学科長,IRI水資源分野のリーダーも兼任していました。同教授の研究グループメンバーには,客員研究員,助手,ポスドク・フェロー,博士・修士学生等含め総勢20名以上いました。国籍もアメリカ,スイス,インド,オーストラリア,ブラジル,韓国,中国,フィリッピン,イスラエル,パレスチナ等多様です。研究課題として開発途上国の持続可能な流域管理,特に,ブラジル,インド,スリランカ,フィリピン,チリ等の気候変動と水資源予測について検討を行っており,その多くは気候変動が水資源にどう影響しているかというものです。自分自身の研修テーマは,Lall教授を始め研究者との交流を通じて,コロンビア大学にあるデータベースとノウハウを活かしながら,これまで出来なかった新しい研究課題に挑戦することにしました。新たに長江流域の長期月平均流量データを収集し,3ヵ月前の海面気象パラメーターを用いて,洪水期の三峡ダムサイトの水資源量の予測手法を開発しました。また,米国の分散型排水処理と再利用の政策的動向についても取り組んでみました。詳細な研究活動と得られた主な成果については,「2005 年度研究職員派遣研修成果報告」と付録をご参照ください。

 コロンビア大学では学科を跨る研究交流活動が盛んで講演会・セミナーの開催が毎週のように行われています。私も,セミナーのほか,各自の研究内容の紹介討議,アメリカ地理学会GSA年会やAGU Fall meetingの研究発表等に参加しました。また,ハーバード大学環境センターPeter Rogers教授の招へいにより,“長江流域の生物地球化学と水文気象学プロセスに関する研究(Biogeochemical Processes and Hydroclimatology of the Yangtze River Basin)”と題して講演を行いました。研究活動や学会,講演等を通じて,コロンビア大を始め,ハーバード大やマサチューセッツ工科大,コーネル大,カリフォルニア大の教授や研究者等といい関係を構築することができました。  研修中に感じたことは,まず,アメリカの研究者が議論好きで,自分の研究成果の発表・アピールは大変上手なことです。例えば,ごく普通の結果でも彼らはこの結果を旨く解釈し,別の大きな結論へ引き伸ばす努力をし,大きなスコープにつなげる構想力がきわめて高いことも感じました。さらに,日本の大学や研究所の制度と違うところとして,博士号を取得して間もない助手(Assistant Professor)でも,マスター・ドクター学生の指導の資格を与えている点です。また,研究資金が豊富です。例えばコロンビア大学では,卒業生や大物資産家等から,年間大体3億ドルの寄付金が集まってきています。そのほかの収入も多数あり,研究条件と環境が格段に良いと感じられました。  ふり返ってみると,限られた一年間でしたが,新しい研究課題への挑戦,学会・講演等活動を通じた関連研究者との交流,意見交換など,充実した研修でした。今後は,この貴重な経験とネットワークを活かし,少しでもアジア自然共生研究プロジェクトとバイオエコ技術研究推進に微力ながら貢献できればと思っています。

左上:コロンビア大学メインキャンパスにて/右下:IRI研究施設

 (じょ かいきん アジア自然共生研究グループ環境技術評価システム研究室)

執筆者プロフィール:

1963年中国福建省尤渓県生まれ。83年武漢水利電力学院(現武漢大学・工学部)卒業,84年10月に中国政府派遣の留学生として東北大学工学部土木工学科研究生,87年同修士,90年同博士課程を修了。その後東北大学工学研究科助手・助教授を経て,97年9月から国立環境研究所水土壌圏環境研究領域主任研究員,独法化後流域環境研究チーム主任研究員,現在アジア自然共生研究グループ環境技術評価システム研究室主任研究員,循環型社会・廃棄物研究センターバイオエコ技術研究室主任研究員を兼務。趣味は旅行,囲碁・卓球・水泳・ボーリング等。いつも楽しいこと,面白いことを探し続けています。この場をお借りして,ご指導いただいたLall教授やお世話になった関係者の皆様に心から感謝申し上げます。