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ナノ粒子健康影響実験棟

研究施設の紹介

小林 隆弘

 平成17年6月17日にナノ粒子健康影響実験棟の竣工披露が行われました(竣工式典テープカット,写真1)。大気環境中にはナノ粒子といわれる極めて小さい粒子(粒径が10~100ナノメートル,1ナノメートルは10-9メートル)が存在します。ディーゼル自動車から排出されるナノ粒子はこの大気環境中のナノ粒子の主要な成分であると考えられています。ナノ粒子はどのようなときにどれくらい生じてくるのか,化学的,物理的性質はどのようなものか,人の健康や環境中の生物にどのような影響を及ぼすのかなどについて,わからないことが非常に多い粒子です。ナノ粒子健康影響実験棟(写真2)は,人の健康に及ぼす影響やその機構および運転条件により排出されてくるナノ粒子の物理,化学的性状について明らかにしていくことを目的にして新設されました。

竣工披露式典の写真
写真1 ナノ粒子健康影響実験棟テープカット
左から,小林光環境省環境管理局長(当時),近藤次郎元国立公害研究所所長(環境テクノロジーセンター会長),大塚柳太郎理事長,能勢和子環境大臣政務官(当時),不破敬一郎元国立公害研究所所長,高野裕久環境健康研究領域長
建物外観の写真
写真2 ナノ粒子健康影響実験棟外観

 ディーゼル排気中のナノ粒子は,酸素と二酸化炭素との交換を行う肺胞に沈着する割合が高いこと,沈着したナノ粒子は毛細血管に入り全身に影響を及ぼす可能性があること,重量に対して表面積が大きいため毒性が強くなる可能性があること,燃焼を介して出てくる粒子であることから反応性の高い化学物質を含んでいる可能性が大きいことなどが考えられ,ナノ粒子が健康に及ぼす影響について心配が生じています。ナノ粒子健康影響実験棟では,このような心配に対する答えを早急に出し,対策に結びつける研究を行っていきます。健康影響に関しては,これまでのディーゼル排気や微小粒子状物質の生体影響や疫学調査,物理・化学的性状,体内動態の結果を踏まえ生体影響の指標を選択し(図1),早急に検討を行う計画です。細胞を用い遺伝子発現などを見る包括的な検討,酸化ストレスや炎症惹起,呼吸器系,免疫・アレルギー系,循環系,凝固線溶系(血液を固まらせたり,溶かしたりする仕組み),脳・神経系,生殖・内分泌系,次世代への影響など,さまざまな研究を行う計画です。

概念図
図1 ナノ粒子の生体影響指標と選択の視点

 ナノ粒子健康影響実験棟は,地上6階建て,延べ床面積2272平方メートルあります。1階に,ナノ粒子を排出するディーゼルエンジン(写真3)とそのコントロールシステム,2階に,排気ガスを希釈し,ナノ粒子の凝集等を制御する希釈トンネルとそこから吸入曝露チャンバーへの取り込み部(写真4),3階に,ナノ粒子を実験動物に曝露する吸入チャンバー室があります(写真5)。4,5階に実験動物飼育室,6階に機械室のような構成になっています。

ディーゼルエンジンの写真
写真3 ディーゼルエンジン-ダイナモ
配管の写真
写真4 希釈トンネル-チャンバー取り入れ口
曝露チャンバーの写真
写真5 曝露チャンバー

 本施設は,種々のモードの過渡運転が可能なエンジンや制御装置を備えており,ナノ粒子を発生させる最も適した運転条件での運転が可能となっています。さらに,発生したナノ粒子が凝集により大きくなることをできるだけ防ぐため,排気をすぐに大量の空気で希釈できるような配置の工夫や,希釈トンネルから取り入れたナノ粒子がすぐに曝露チャンバーに導入されるような配管の工夫をしています。こうした装置と配管等の工夫により,ディーゼル排気中のナノ粒子をエンジンから排出された状態に近い状態で,直接,動物に曝露することが可能な施設となっています。 このような実験施設の整備は,我が国において初めての試みであり,また,国際的にも注目を集める施設であります。 当施設を最大限に活用し有意義な研究知見が世界に発信できればと思っております。

(こばやし たかひろ,PM2.5・DEP研究プロジェクトサブリーダー)

執筆者プロフィール:

大気環境中のガスや粒子の生体に及ぼす影響の研究をずっとやっています。異分野のひとと研究を進める機会が増え,分野が違うと攻め方が違う点も多くたいへん面白いなと思う日々です。若いひとといろいろ話しをしたり,釣りや山歩きをする時間をできるだけつくりたいと思っています。