独立行政法人国立環境研究所としての新たな出発
高木 宏明
1.独立行政法人となって何が変わるのか
国立環境研究所は,4月から「独立行政法人国立環境研究所」として新たな出発をしました。これまでは,環境省の附属の研究機関でしたが,今後は,「独立行政法人国立環境研究所法」に基づく法人という位置づけに変わります。なお,国家公務員型の独立行政法人を選択しましたので,職員は国家公務員です。
環境省からは一歩独立した機関となりますが,環境研究と環境行政は密接な関係がありますので,環境省と連携しつつ環境研究を進めていくという点では,大きな変化はありません。
国立環境研究所の業務は,独立行政法人国立環境研究所法に基づき,環境保全に関する調査・研究及び環境保全に関する情報の収集・整理・提供の2本柱となります。
国立環境研究所は,環境大臣から示された「中期目標」に基づき,それを達成するための「中期計画」を策定し,4月2日に環境省の認可を得ました。今後は,この中期計画に基づき計画的に業務を遂行していくこととなります。中期計画の計画期間は,平成13~17年度の5年間です。
独立行政法人になると,環境省から交付される運営費交付金等による柔軟性・弾力性のある財務運営が可能になるほか,定員管理の自由度が向上し,組織体制も自由に変えられるなど,業務運営の柔軟性が増します。しかし,一方では,各事業年度の年度計画及び業務実績報告を作成し,公表することが義務づけられ,さらに,各事業年度の業務実績については,毎年度,環境省の「独立行政法人評価委員会」による評価を受けます。また,5カ年の計画期間が終了した段階では,中期目標の達成状況についての評価を受けることとなります。
このように,業務運営については研究所の創意工夫,研究についてはその着実な実施が求められています。
2.今後5年間にどのような研究を行うのか
国立環境研究所は,今後,持続可能な社会の実現を目指し,地球環境の保全,公害の防止,自然環境の保全及び良好な環境の創出の視点に立って,環境政策の立案に資する科学的知見の取得に配慮しつつ,学際的かつ総合的に質の高い環境研究を進めることとしています。また,廃棄物処理・資源化技術,環境測定分析技術等を中心として,環境技術の開発・普及にも取り組むこととしています。
これらの研究を実施するにあたって,重点研究分野を定めるとともに,大きく分けて4つのタイプの研究を実施することしています。
2-1 重点研究分野
国立環境研究所は,今後5年間には,表1の7つの重点研究分野における25の研究課題に重点を置いて研究を進めることとしています。中期計画においては,これらの研究分野について,5年間に行うべき研究の方向を定めています。
重点研究分野は,国立環境研究所が重点的に取り組む研究課題を外部に宣言しているということで,これに入らない研究は実施しないということではありません。将来のシーズを見いだす先導的・萌芽的な研究も重要と考えており,これらについても奨励していくことにしています。
2-2 今後の研究の構成
研究所は,今後,次の4つのタイプの研究を実施していくこととしています(図1)。
(1)重点特別研究プロジェクト
重点研究分野のうち,社会的要請も強く,研究の観点からも大きな課題を有している研究を重点特別研究プロジェクトとして総合的な研究を実施します。この5年間には,図1の6つのプロジェクトを実施します。これらの研究を実施するにあたっては,プロジェクトグループを編成するとともに,重点的に予算を配分することとしています。中期計画においては,各プロジェクトの5年間の研究の方向と到達目標を定めています。
(2)政策対応型調査・研究
重点研究分野のうち,環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案及び実施に必要な調査・研究を,政策対応型調査・研究として実施することとしています。この5年間には,図1にある循環型社会形成推進・廃棄物管理及び化学物質環境リスクの2つの分野の調査研究を実施します。これらの調査研究の実施にあたっては,2つの政策対応型研究センターを設置するとともに,重点的な予算配分を行うこととしています。中期計画においては,各調査研究の5年間の研究の方向と到達目標を定めています。
(3)基盤的調査・研究
重点研究分野に係る研究,環境研究の基盤となる研究及び長期的視点に立った研究を推進するとともに, 研究所の研究能力の維持向上を図るため,創造的,先導的な基盤的調査・研究の充実にも努めることとしています。
(4)知的研究基盤の整備
所内のさまざまな研究の効率的な実施や研究ネットワークの形成に資するため,図1にある4つの分野での知的研究基盤の整備を行うこととしています。中期計画では,その整備の方向と目標を定めています。
3.環境情報の収集・整理・提供として何を行うのか
環境の保全に関する知識の国民への普及を図るとともに,政府等の環境政策及び企業,民間活動における自主的な環境保全に関する取組を支援するため,国内外の環境関連情報を収集,整備し,これらの情報を容易に利用できるよう,国際的な連携も図りつつ,インターネット等を通じて提供することとしています。
このため,体系的な収集整理や各データの相互の利用や総合化,解析等が可能となるようデータベース化を進めるとともに,地理情報システム(GIS)を活用した環境情報システムの整備など,国民にわかりやすい情報提供手法の開発・導入に努めることとしています。
4.どのような組織体制になるのか
中期計画を的確に実施するために,国立環境研究所は,以下から構成される新たな組織体制となります(図2)。
・基盤的調査・研究を推進するためのコアラボラトリーとしての「研究領域」
・重点特別研究プロジェクトを確実に実施するための6つの「重点特別研究プロジェクトグループ」
・環境行政の新たなニーズに対応した政策の立案及び実施を研究面から支援する「循環型社会形成推進・廃棄物研究センター」及び「化学物質環境リスク研究センター」の2つの「政策対応型研究センター」
・地球環境のモニタリング,地球環境研究の総合化及び支援などを行う「地球環境研究センター」
・環境保全に関する情報の収集,整理及び提供を行う「環境情報センター」
・知的研究基盤(地球環境モニタリング等を除く)の整備を行う「環境研究基盤技術ラボラトリー」 これらの組織は,5年の間においても,状況の変化があれば,必要に応じ見直しを行っていくことになります。
5.おわりに
独立行政法人として新たな出発をしましたが,前例のない新しい経験ですので,とまどいも多々あります。独立行政法人のメリットを最大限に生かして,着実に環境研究を推進していきたいと思っておりますので,今後とも,皆様方からのご支援,ご指導をいただければ幸いです。
なお,独立行政法人国立環境研究所中期計画及び平成13年度年度計画については,当研究所のホームページ(http://www.nies.go.jp)でご覧になれます。
執筆者プロフィール
1974年に環境庁に入庁しました。職種は土木(衛生工学)です。本庁勤務のほか,愛知県,厚生省,通産省工業技術院,自治省関係団体,OECD日本政府代表部(パリ)など自治体や他省庁,海外と幅広く経験してきました。環境庁の広報室長を務めたあと4年ほど環境庁を離れ,国連大学高等研究所(UNU/IAS)客員フェロー,アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)事務局長などを務めてきました。昨年7月に国立環境研究所に異動し,独立行政法人化の作業に深くかかわってきました。やっと発足にこぎ着けたというのが,今の感想です。
目次
- 独立行政法人国立環境研究所発足にあたって
- 地球温暖化研究プロジェクトのめざすもの重点特別研究プロジェクト:地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト
- 観測とモデルから成層圏オゾン層変動を解明する重点特別研究プロジェクト:成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明プロジェクト
- 内分泌かく乱化学物質・ダイオキシンのリスク評価と管理重点特別研究プロジェクト:内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト
- 「生物多様性の減少機構と保全プロジェクト」が目指すもの重点特別研究プロジェクト:生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクト
- 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理に関する研究重点特別研究プロジェクト:東アジア流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト
- PM2.5・DEP研究プロジェクトの背景,目的と研究課題重点特別研究プロジェクト:大気中微小粒子状物質・ディーゼル排気粒子等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト
- 循環型社会形成推進・廃棄物研究センターの今後循環型社会形成推進・廃棄物研究センター
- 化学物質環境リスク研究センターが果たす役割化学物質環境リスク研究センター
- 地球環境モニタリングのCOEと地球環境保全の世論形成を目指す地球環境研究センター
- 環境情報センターの業務展望環境情報センター
- 環境研究基盤技術ラボラトリー環境研究基盤技術ラボラトリー
- 新刊紹介
- 表彰・人事異動
- 編集後記