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「どこへ行く,国環研」

笹野 泰弘

 衛星観測研究チーム総合研究官として,環境庁による「衛星からの成層圏オゾン層の観測」ILASプロジェクトに長い間かかわってきたが,この4月1日付で大気圏環境部長を拝命し,新たに大気圏環境研究を推し進める役割をも担うことになった。10年ほど前の改組以前は大気環境部大気物理研究室に所属していたし,これまでも研究を通じて大気圏環境部の他の研究者とのつながりがなかったわけではない。しかし,いざ部長として部全体の研究活動を見直してみると,これまで衛星観測という井戸の中で狭い空ばかりを見上げていたことに気づかされる。大気環境研究の状況,今後の在り方について,改めて勉強をし直しているところである。

 さて,行政改革の一環としての独立行政法人化に向けて,国立環境研究所は変わろうとしている。当研究所として大事な時に部長職を仰せつかったと思っている。これまでにも増して大気環境研究だけでなくより広い立場から,将来の研究所のあるべき姿,国民の負託にこたえ得る研究所像といったものを追求することが求められているからである。

 独立行政法人化のねらいは,国民に対して提供するサービスその他の業務の質と業務運営の効率を高めることにあると言われる。研究所の場合,その提供するサービスとは何か。国立環境研究所に求め続けられる行政・社会ニーズは,「環境問題の実態を正確に把握し,その原因を究明し,解決への道筋を見つけだすことであり,また,将来起こり得る環境問題を予見し,未然防止のための方策を明らかにしていく」ことだと思う。このことは,これまで国立環境研究所に期待され,また果たしてきた役割であるし,独立行政法人となっても基本的に何ら変更の余地のないものであろう。

 言葉を換えれば,環境分野での「問題解決型」の研究と「問題発見型」の研究が求められていると言える。前者には,極めて短期の内に解決を迫られる問題もあれば,地球環境問題に見るように長期に渡るものもある。この種の問題解決型研究では研究目的,達成目標,期限を明確に絞ったプロジェクト研究としての進め方が重要になろう。一方,問題発見型の研究は,先見的,予見的研究である。もちろん,プロジェクト研究の中からそのような研究の種が生まれる可能性を否定するものではないが,一般には,科学者,研究者の「環境」に対する深い洞察と,地道な基礎研究の中からこそ生まれる確率が高い。目先の問題の解決にとらわれる余り,研究者の自由な発想,知的創造活動の場を制限するようなことがあってはならない。

 江崎玲於奈氏によれば,「研究者には新しい知識を追求するタイプと,人々の役に立つことを考えるタイプとがあるが,今後は双方の能力を備えた人材が必要になる」という。このことは,まさに環境研究に携わる研究者に当てはまる。環境行政や社会の真のニーズにこたえていくためには,この両方の能力とそして意欲を兼ね備えていることが必須ではないだろうか。さらに,独立行政法人という,我々には経験のない新しい組織運営体制のもとで,研究者本来の特質である知的興味に基づく自由な発想の展開をどう保証し,かつ国民納税者に対する責務をいかに果たしていくのか。そういう研究の場は与えられるものではなく,自ら作り上げていくこととなる。その実現は,研究者個々人の能力にかかっている。

 我々はこれから,国環研をどの港へ着けようというのか。どの大海原にこぎ出させようというのか。

(ささの やすひろ,大気圏環境部長)

執筆者プロフィール:

1952年生まれ。東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻(修士課程)修了。博士(理学)。国立公害研究所(当時)へ奉職以来の趣味の移り変わり:読書→水泳→テニス→写真撮影→?