環境と健康にやさしいライフスタイル
巻頭言
日本医師会副会長 小泉 明
1950年代から慣れ親しんできた「成人病」が数年前から「生活習慣病」と呼ばれ,この新しい呼称がいま急速に定着している。生活習慣と同時にライフスタイルという言葉も頻繁に用いられ,現実にこの両者はほとんど同じ意味と考えられる。
「生活習慣病」ではライフスタイルを健康との関連で論じている。その中でも喫煙は最も多く研究され,生活習慣病予防の目玉として論議されてきた。喫煙を筆頭に7つの生活習慣を取り上げ,その健康度との関連を長年月にわたり調査したカリフォルニア大学教授Breslowらの研究は,この分野の数ある疫学研究の中でも代表的なものに数えられている。Breslowらのいう「7つの健康習慣」は,「喫煙をしない」,「飲酒を適度にするか又は全くしない」,「定期的にかなり激しい運動をする」,「適正体重を保つ」,「7~8時間の睡眠をとる」,「毎日朝食をとる」及び「不要な間食をしない」である。
Breslowらは,上記の7つの健康習慣をより多く実行していて,いわばライフスタイルの良い集団と,その悪い集団を9年間追跡し,死亡率に数倍の差があることを見いだした。
健康度の評価では,7つの健康習慣のうち好ましい習慣が3つ以下の45歳男性群では,同年齢の男性群で好ましい習慣を6つ以上持つ男性群と比べて,平均余命が11年も短かったと報告している。
ライフスタイルとの関連として,環境については健康よりも早くからそのことが指摘されてきた。「地球にやさしいライフスタイル」のスローガンが示すように,温暖化ガスを象徴として,今日の我々のライフスタイルの中に,地球環境の悪化に結びつくものが多く,その地球規模の影響が憂慮されている。
ここで注目されるのは,健康にやさしいライフスタイルが環境にもやさしいということである。自動車を遠ざけて徒歩を主とすれば,化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出を防ぎ,合わせて運動不足も解消する。
思えばいま問題になっているライフスタイルは,文明化・機械化を主軸とした生活上の利便の追求に派生したものである。環境面と健康面に共通して生じたライフスタイルの問題は,文明化・機械化の進路に大幅な軌道修正を求めている。
執筆者プロフィール:
昭和24年東京大学医学部医学科卒業,昭和47年東京大学医学部教授,昭和61年日本医学会副会長,平成2年国立環境研究所所長,平成4年産業医科大学学長,平成10年日本医師会副会長