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地球環境研究センター,3つの柱

ネットワーク

大坪 國順

 地球環境問題解決のための出発点は,問題について共通の認識をもつことであると指摘されているが,個別の地球環境問題について共通の認識をもつことは難しい状態が続いている。かえって,自国や自分の所属するセクターが不利にならないよう地球環境の不確実性の議論が繰り返されている。今,科学者に求められているものは,この不確実性を少なくすること,現在わかっている総体に基づいて何が最も確かに言えるかを提示することである。そのための研究の組織化あるいは効率化の機運が高まり,地球環境研究の総合化(企画調整),支援,モニタリングの3つの任務を期待された地球環境研究センターが1990年10月に発足したわけである。当センターのスタッフは研究職と行政職の寄り合いで,「研究者の発想で,行政の継続性を」がスローガンである。以下,当センターの各事業について何を目指して活動しているかに重点を置いて紹介する。

 市川惇信初代センター長により,当センターの企画調整機能として,「地球環境研究の現状は数百のジグソーパズルにおいて,数十個のピースが分かっているのに過ぎない状態に相当する。いま手に持っているピースをどこにおくか,次にどのピースを採り上げるかは互いに他のピースの形を見ながら決めるほかはない。センターはジクソーパスルの台の役割をする。」という方針が出された。その方針に基づき,毎年開催する地球環境研究者交流会議を中核として,世界の一流の科学者を分野横断的に集めて,最新の知識で次の研究テーマを探すための“研究者の広場”を作ってきた。次のステップはジクソーパズルの現況の提示である。この数年にジクソーパズルのピースは増え,連結されたピースの面積が増加した。現在のジクソーパズルの完成度を提示するとともに,残されたピースのどれとどれがつながりそうか,つながらないかを整理して提示する任務である。総合化のもう一つの重要な任務は,地球環境政策の実施もしくはその基盤作りであるが,人的パワーの不足もあって実施については所内からの併任者に全面的な協力をあおいでいる。

 地球環境研究の支援業務としては,データベース事業とスーパーコンピュータ資源の配分がある。データベース事業では,「今,地球はどうなっているか?」「これから地球はどこへ行くのか?」といった疑問に科学的に答えるためのデータを世界中から効率的に集めて画像情報や地図情報として分かりやすく見やすい形に整備したり,あるいはそのようなデータはどこにあり,どうするれば入手できるかという情報(情報源情報)を整備して,希望に応じて無料で提供している。これらの事業の遂行には世界のネットワークの中で動く必要があり,当センターは国連環境計画の地球資源情報データベース(Global Resource Information Database: GRID)のつくばセンターとして活動している。GRIDのデータは無償で提供が受けられ,基本的には写真−1のように地図情報として整備されている。

 スーパーコンピュータは,数十年後の地球の気候を予測する大気大循環モデルや衛星から送られて来る電気信号を気温,オゾン濃度などの分布に変換する研究には不可欠な研究設備である。当センターのスーパーコンピュータは地球環境研究に携わる国内外の研究者にオープンであり,コンピュータ資源の配分は一種の研究費の配分とも考えられるため,研究を効率的に推進するために地球環境の不確実性の低減に大きな貢献が期待できる研究に対して資源を優先的に配分している。

 当センターの初代観測第1係長は,地球環境モニタリングを地球の定期健康診断に例えた。彼の言によれば,地球は人間の身勝手とも思われる活動のために様々な病魔の脅威にさらされている。例えば「宇宙服綻び病」(オゾン層破壊),「地球温暖病」など。その他にも発見されていない病魔がせまっているかもしれない。新たな病気を早期に発見したり,症状の現れている病気の経過を把握するための定期健康診断が地球環境モニタリングというわけである。どのような診断項目をどのような検査方法で測れば地球の健康診断ができるかは全ての病気に対して解明できているわけではない。成層圏オゾンや陸水の汚染問題など一部については,その手法が確立されて世界的な観測ネットワークが動いている。当センターではそのようなモニタリングは“長期モニタリング”として位置付けてネットワークに参画している。まだ手法が確立されていないものに対しては,“試験モニタリング”として位置付け健康診断手法の確立を目指して平成7年度現在6つの事業を展開している。これらの事業は,所内の研究者を中核に所内外の協力を得て推進されている。その他,人工衛星を利用してオゾン層の監視・調査研究を行う衛星観測プロジェクトにも,衛星観測チーム,高層大気研究室とともに取り組んでいる。

 地球環境研究センターの業務の詳細については,地球環境研究センター年報を参照されたい。また毎月発行される地球環境研究センターニュースにも日頃の活動を紹介している。特に50号記念号である1995年1月号(Vol.5 No.10)は,設立当初の経緯からこの5年間の活動内容,将来の期待まで多彩な記事の内容になっており,センターの活動に興味をお持ちのお方には一読をお勧めする。年報・ニュースを希望される方は,下記宛先までその旨連絡頂きたい。定期配布も可能である。

GRIDデータの出力例:家畜からの年間メタンの排出量分布(提供:GRID-ジュネーブ)

(おおつぼ くにのり,地球環境研究センター研究管理官)

連絡先:

〒305 茨城県つくば市小野川16の2
国立環境研究所 地球環境研究センター 交流係
Fax: 0298-58-2645
e-mail: cgercomm@nies.go.jp