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日本国内の113湖沼におけるCOD環境基準の達成状況

論文紹介

天野耕二,福島武彦,相崎守弘

 水環境学会誌,15(7),465-471,(1992年)

 湖沼のCOD(化学的酸素要求量)環境基準の達成率の低さと改善傾向の乏しさは1970年代から指摘されているにもかかわらず,環境白書に毎年掲載されているような「達成率の経年変化のグラフ」以外に定量的な達成状況の評価はほとんどなされていない。本論文では,日本の湖沼におけるCOD環境基準の達成状況と基準達成にかかわる水質特性について初めて定量的な評価を試みた。対象としたデータは環境庁水質保全局監修の水質年鑑に掲載されている酸性法 COD濃度(1988年度現在で環境基準点として指定されている113湖沼の197地点における1978年度から1988年度までの水質データ)である。

 環境基準の達成については,各環境基準地点ごとに年間75%値(濃度の低い方から並べて75%の位置にある値)を年間代表値として基準値と比較することにより判断されている。しかし,基準点として指定されてある各々の地点ごとに「これまで何年くらい基準を達成できたのか?」,あるいは「基準値との開き具合はどの程度か?」といった基本的な問いに対しては,あまり答えられていない。

 そこで,197の環境基準点について,最近11年間における超過年度率(基準を超えた年度の割合)と,最近11年間の年間75%値の平均が基準値の何倍になっているかという値を計算した。環境基準を超えている場合でもいろいろな状況が考えられ,惜しいところで超えているのか,はるかに超えているのかを評価する必要があるためである。

 図に「11年間における基準超過年度の割合」と「基準値を1としたときの11年間における平均値」という二つの観点からみた評価結果を示す。このような観点から,環境基準点を四つのカテゴリーに分類してみた。カテゴリーIは毎年基準を達成している40地点で全く問題はない。カテゴリーIIはこの 11年間にわずかに1〜2年だけ基準を越える年があった22地点であり,完全達成まであと一息と言える。カテゴリーIIIはこの11年間に3年以上基準超過がみられたが,11年間の平均値は基準値の2倍以内に収まっている85地点である。全基準点の内半数近くがこのカテゴリーIIIである。カテゴリーIV はこの11年間に毎年基準を越えてなおかつ11年間の平均値が基準値の2倍以上になっている絶望的な50地点である。

 時系列データの直線回帰による経年変化傾向の一次近似的な評価も行った。有意に変化していない(横ばい傾向あるいは不規則な変動傾向をもつと思われる)地点が約8割を占めたが,カテゴリーIVでは悪化傾向を示す地点が多くみられた。 さらに,各地点におけるCODの年間最小値を外来性CODの便宜的な指標と仮定して,CODを流域由来のものと内部生産由来のものに分離してみた。カテゴリーI・IIよりもカテゴリーIII・IVの方が内部生産性 CODの比率が高い地点が多い傾向がみられ,達成状況の悪い湖沼の方が湖内の内部生産が比較的大きいことがわかった。特に,内部生産CODだけでも環境基準を超えてしまう湖沼では,外来性CODを100%カットしても環境基準を達成できないという難問に直面し,内部生産CODの増大に寄与している窒素・リンなどの栄養塩負荷量についても考慮する必要がでてくる。

 全国で63の環境基準未達成湖沼(過去11年間の平均)の中で18の湖沼においてCOD75%値の低下傾向がみられたことがわずかな救いとなっているが,基準値との開き具合を考えると達成率の向上は容易なことではない。本論文で提示した多面的な評価手法が今後の環境基準達成に向けて活用されることを期待したい。

(あまの こうじ, 社会環境システム部資源管理研究室)

図  超過年度数と基準値を1としたときの値からみた達成状況の評価