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日本固有種のゴニウム、Gonium viridistellatum(緑藻、ゴニウム科)

研究ノート

野崎 久義

 微細緑藻類の“日本固有種”の多くは新種として日本から1回だけ発見されただけのものである。その点、G. viridistellatumは日本からだけ2度発見されており日本固有種にふさわしいものと思う。本種は1977年に国立科学博物館の渡辺真之博士が沖縄県の材料を基に記載したものである(Watanabe 1977, Bull. Jap. Soc. Phycol. 25 [suppl., Mem.Iss. Yamada]:379)。遊泳群体の8細胞が中央に1個と周囲に7個、放射状に美しく配列されている点が特徴的である。(写真1〜3)。

 1985年頃、私は神奈川県で採集した材料よりG. viridistellatumと同じような8細胞の配列をした群体を分離・培養した。しかし、このGoniumはWatanabe(1977)の記載より細胞の密着の程度がかなり緩く(写真1)、別種の可能性も考えられた。微細藻類で新種を設立する場合はそのタイプ(holotype、完模式標本)が標本(specimen)ではなく図または写真の場合が多いので、高等植物の分類のようにタイプ標本を標本館から取り寄せ、自分の材料と比較し、正確な同定を行うことが通常できない。G. viridistellatumの場合もholotypeが図であった。ところが、当時の国立公害研究所の微生物系統保存施設のリスト(Watanabe & Kasai 1986)を見ると、G. viridistellatumの原記載で使用された沖縄産の3株が保存されていた。私は早速その株を取り寄せ、神奈川県産の株と比較観察した。その結果、神奈川県産(写真1)と沖縄県産(写真2、3)の株は形態的に連続的であり1つの形態種G. viridistellatumの範囲内にあると結論した(Nozaki 1989, Phycologia 28:77)。

 国立環境研究所微生物系統保存施設には現在でもG. viridistellatumの株が保存されている。この株がこの先何年後のどのような研究の対象になるかは分からないが、環境の変化等により、生きたこの“日本固有種”を保存株でしか見ることができなくならないことを祈る。

(のざき ひさよし、生物圏環境部環境微生物研究室)

写真1~3