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砂漠化と人間活動の相互影響評価に関する研究

プロジェクト研究の紹介

宮崎 忠国

 砂漠化という言葉は、土壌荒廃という意味も含めて「不適切な人間活動に起因する乾燥・半乾燥並びに乾性半湿潤地域ににみられる土地の荒廃現象をさす言葉である」と定義されている。国連環境計画(UNEP)では過去3回にわたって、世界の砂漠化の状況を報告している。1977年の報告では、人間活動によってもたらされた砂漠は約900万km2で、その面積は陸地の約6%に当たり、7,850万の人口が深刻な砂漠化の影響を受けている。土地の荒廃は、乾燥地、半乾燥地だけでも年間約52,500km2の速度で進行していると報告している。1984年の報告によると、1977年以降も砂漠化は年間約6万km2の速度で進行し続け、深刻な砂漠化の影響を受けている農村人口は約1億3,500万人であると報告している。1991年にまとめられた報告では、砂漠化の影響を受けている土地は世界で約3,600万km2であり、世界の陸地の1/4に相当し、世界人口の約1/6が砂漠化の影響を受けている。また、世界の放牧地では、年間、45,000〜58,000km2の土地が失われていると推定されている。さらに、降雨依存農地の 35,000〜40,000km2、潅漑農地の10,000〜13,000km2が砂漠化によって失われていると報告している。

 砂漠化の原因は大きく分けると、自然的要因と人為的要因に分けることができる。自然的要因としては、気候変動による乾性化や干ばつによって砂漠化や土壌荒廃が進行することで、例えば、1968〜1973年にかけて西アフリカを襲った大干ばつはサハラ砂漠を拡大し、これによって10万人以上の人が死んでいる。人為的要因としては、人口の急激な増加に伴う耕作地の拡大や酷使、薪炭としての樹木の伐採、羊や牛などの過放牧による土地の不適切な利用などがある。中国黄土高原の砂漠化やインドの半乾燥地での砂漠化などがこの例である。

 このような急激な砂漠の拡大に対して、砂漠化進行の防止、土地の変化メカニズム、人間活動と砂漠化などに関する科学的知見の提供を各方面から求められている。このため、国立環境研究所では、本格的な砂漠化研究を開始するに当たり、平成2年度、3年度と2年間にわたって「乾燥地・半乾燥地の砂漠化に伴う環境影響予測に関する予備的研究」を行った。この研究では、我が国として行うべき砂漠研究の検討、研究対象地域の選出、共同研究機関の選定、具体的な砂漠化研究内容の検討、砂漠化問題研究シンポジウムの開催、各種の文献、資料の収集などを行い、当研究所で行う砂漠化研究の方向づけを行った。

 2年間の予備的研究の結果を踏まえ、平成4年度から地球環境研究総合推進費による以下のような本格的な砂漠化研究をスタートさせた。

 「砂漠化と人間活動の相互影響評価に関する研究」

 (1)乾燥・半乾燥地域における砂漠化に及ぼす人間活動の影響評価に関する研究

 (2)半乾燥・半湿潤地域における砂漠化に及ぼす人間活動の影響評価に関する研究

 (3)砂漠化と人間活動の相互影響評価に関する国際比較研究

 本研究では、国立環境研究所、農業環境技術研究所、農業総合研究所、東京大学、京都大学、東京都立大学などの研究機関がプロジェクトチームを構成しインド、中国、北アフリカ等の砂漠地帯を研究対象に研究を進めている。

 テーマ(1)では、インド西部タール砂漠を研究対象地域として、国立環境研究所が中心となり、インドの中央乾燥地研究所(Central Arid Zone Research Institute)の研究協力を得て、(1)植物生態学的研究、(2)水文学的研究、(3)リモートセンシングを利用した広域環境調査、(4)社会経済的研究を行う。インドは、その国土の1/3をサバンナ、ステップ、砂漠気候に支配され、古くから人間に利用されてきたため、砂漠化の問題は広範囲かつ深刻であり、インドの荒廃土地の総面積は170万km2であり国土の半分以上を占めている。砂漠化の原因としては、過放牧、森林の伐採、農耕地の不適切な利用、潅漑水管理の不徹底などが考えられる。テーマ(2)では、中国東北部内蒙古自治区周辺の半乾燥・半湿潤地域において、中国地理研究所等と共同で、(1)人間活動が土地資源に及ぼす影響評価に関する研究(農業環境技術研究所担当)、(2)砂漠化を引き起こす社会経済的要因に関する研究(農業総合研究所担当)を行う。ここでも、砂漠化の原因は不適切な土地利用など人為的要因によると考えられている。テーマ(3)では、国立環境研究所、東京大学、京都大学、東京都立大学などが共同で、北アフリカ、インド、中国、タイの世界の代表的な砂漠化地域や土壌荒廃地域を対象に、人間活動と砂漠化の相互影響を調査し、砂漠化進行における自然的要因と人為的要因の国際比較研究を行う。

 本プロジェクトはこれまでの砂漠研究と異なり、ただ単に自然科学的な調査を行うばかりでなく、人間活動と砂漠化進行の相互影響を研究するところに特色がある。砂漠地帯が拡がれば、地球温暖化、異常気象、世界的な食料危機など地球規模的な環境問題や社会問題が起こってくると予想される。本砂漠化研究においても、こうした地球規模での環境問題を考えつつ、地域の自然的、社会経済的状況に即した環境管理計画的な研究を進める予定で、この砂漠化研究の成果は砂漠化危険地域における環境保全や持続的発展のための基礎的な知見として大きな役割を果たすものと期待されている。

(みやざき ただくに、地球環境研究グループ森林現象・砂漠化研究チーム)

インドタール砂漠の移動砂丘の写真