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ゼオライト上での二酸化硫黄(SO2)の酸化反応−黄砂粒子と酸性雨のかかわり−

経常研究の紹介

内山 政弘

 日本上空に西風が吹くとき中国大陸からは土壌粒子が常に飛来して来るといわれている。土壌粒子濃度が極端に濃くなると黄砂現象が観測される。この中国大陸からの土壌粒子はモンモリロナイト、バーミキュライトなど様々な粘土鉱物が凝集したものと推定されている。

 近年酸性雨が問題となり、大気中のSO2の酸化経路として不均一反応が興味を持たれている。そこで大気中での粘土鉱物のSO2酸化能の検討を行うことにした。実験では黄砂粒子中に確認されている粘土鉱物を用いるべきであるが、素性のよいもの(SO4含量の少ないもの)が、入手できなかった。

 一方、粘土鉱物の一種であるゼオライトを排ガス中のSO2低減用触媒として用いるとSO2はSO4として除去される。これはゼオライトにSO2の酸化能があることを示し、さらに他の粘土鉱物にもSO2酸化能があることを予想させる。そこで、合成ゼオライト(少なくとも排ガス中では活性である)を用いてSO2の酸化反応を試みた。

 ゼオライトには多くの種類があるが、Y型及び他の粘土鉱物に伴ってしばしば産出するNa-モルデナイトとその水素イオン置換体であるH-モルデナイトを用いた。ところで、大気中でエアロゾルが関与する反応では相対湿度が重要であるといわれている。つまり、高湿度下でエアロゾルの表面に水膜が形成され、その中で溶液反応が起こっている可能性が指摘されている。そこで、ここではゼオライト上への水分の吸着量にも注意を払って実験を行った。

 表に結果を示す。露点14℃の水蒸気に対する室温でのM20上の吸着水の表面被覆率は0.8であった。表は相対湿度が低いときにはSO3→SO4の反応が遅く、この過程に水蒸気の効果が大きいことを示している。なお、H-モルデナイト(Na2O含量が少ない)は活性を示さなかったので表には示していない。

 さて前述のようにして反応が液相で進行しているとすると、SO2の表面酸化反応というよりは中和反応のようにも考えられる。つまり粒子の細孔に毛管凝集により生成した液相中でゼオライトから溶出してきたNa2Oと気相から溶解したSO2とが酸塩基中和反応を起こしている可能性がある。触媒的にSO2が酸化しているか否かを調べるために、Na2O含量が少ないHY4.8を用いて98%以上の湿度で反応を行った。ゼオライトから蒸留水に抽出されるSO4濃度とNa濃度の経時変化を測定したところ、生成するSO4濃度は2時間程度でNa濃度の2倍以上となった。溶出したNa濃度と、これを完全に中和するSO4濃度の比は2:1となるはずであるから、この事実はSO2が触媒的に酸化されていることを示している。なお、抽出液中のK、Mg、Ca、NH4は検出限界以下であった。

 塩基性であるNa-モルデナイトと異なり、骨格の組成及び結晶構造が同一であるH-モルデナイトで反応が進行しないのはSO2の吸着が少ないことによると思われる。反応場にアルカリ金属が必須であるにしても風化過程により生成する粘土鉱物は多量のNaあるいはMgを含んでいるので、大気中の硫酸イオンの生成に土壌エアロゾルが寄与している可能性がある。

 中国東北部ではSO2の排出量に比べて雨の酸性度が高いことが知られている。これは、黄砂の中に多量に含まれているCaCO3がSO2と反応しCaSO4を生成するためと考えられている。もし、黄砂の主成分である粘土鉱物がSO2の酸化に活性であるとすると、これによって黄砂中でこのCaCO3→CaSO4の過程が促進されている可能性がある。今後は実際の黄砂成分により近い鉱物とCaCO3の混合物を用いてSO2の酸化能を検討したいと考えている。

(うちやま まさひろ、大気圏環境部大気動態研究室)

表 室温でゼオライト上に20ppmのSO2から生成する硫酸(SO42-)及び亜硫酸(SO32-)イオンの生成速度

触媒
(Na2Owt%)
生成量
(μmol/g h)
相対湿度
(%)
  SO42- SO32-  
M10 (8) 1 4 0.0
M15 (5.9) 1 17 0.0
M20 (5) 3 139 0.0
HY4.8 (0.5) 23 36 0.0
M10 (8) 27 1 >98
M15 (5.9) 12 n.d. >98
M20 (5) 102 n.d. >98
HY4.8 (0.5) 32 8 >98
HY5.6 (3.8) 26 5 >98

M:Na-モルデナイト、HY:Y型ゼオライト; n.d.:検出限界以下