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2014年6月30日

サンゴ礁を守り、再生するために

Interview 研究者に聞く

山野博哉の写真
山野博哉 / 生物・生態系環境研究センター
生物多様性保全計画研究室 室長

 海の中で最も多くの生物が集まり、生物多様性に富む生態系であるサンゴ礁が深刻な危機に直面しています。この問題には地球温暖化などの環境の変化が大きく関わっていると考えられています。生物・生態系環境研究センター 生物多様性保全計画研究室室長の山野博哉さんは、サンゴが衰退した原因を探り、サンゴを保全するために、研究に取り組んでいます。

サンゴは動物、植物、鉱物の性質を持つ

Q:サンゴはどんな生き物なのですか。

山野:サンゴは樹木のように枝分かれしているものもあり、一見、植物のように見えるのですが、実は動物です。イソギンチャクやクラゲの仲間で、刺胞動物(腔腸動物)に分類されています。サンゴには、サンゴ礁を作る造礁サンゴ(イシサンゴ)と宝飾品として利用される宝石サンゴがあり、ともに刺胞動物です。造礁サンゴは浅い海にすんで成長が早いのに対して、宝石サンゴは深い海でゆっくりと成長します。

Q:サンゴはどのように成長するのですか。

写真1 サンゴの標本(スボミキクメイシ)
サンゴの標本(スボミキクメイシ)
一つひとつの穴にサンゴの個体(図2)がいて、分裂して群体となります。

山野:個体がどんどん分裂し、群体を作りながら成長します。1つの群体には数百から数千、大きなものでは数万の個体が集まっています(右 スボミキクメイシの標本写真)。さらに、造礁サンゴは石灰質の石の骨格を作ります。生きている群体の下に骨格を作り、成長とともに骨格が大きくなっていきます。

Q:サンゴはどのように生きているのでしょうか。

山野:造礁サンゴは、体内に小さな藻(褐虫藻)をたくさんすまわせています。褐虫藻は、植物プランクトンの一種で、活発に光合成をしています。造礁サンゴは体内の褐虫藻の光合成によってエネルギーの多くを得ています。サンゴは「動物」ですが、光合成をするなど「植物」としての性質を持ち、さらに石灰質で「鉱物」としての性質も持つおもしろい生き物です。

Q:造礁サンゴはなぜ浅い海にいるのでしょう。

山野:造礁サンゴは、体内の褐虫藻の光合成のために光が必要です。このため、光が届く浅い海に生息しています。水深20mくらいまでには、様々な種類のサンゴが分布しています。澄んだ海でしたら、水深80mくらいまで造礁サンゴが見られます。私たちが研究対象としているのは、この造礁サンゴです。以下サンゴといえば、造礁サンゴを指します。

サンゴとサンゴ礁

Q:サンゴとサンゴ礁は違うのですか。

山野:「サンゴ」は動物の一匹一匹、または群体の1つ1つを指します。「サンゴ礁」はサンゴが石灰質の骨格を積み重ねて海面近くまで高まりを作る地形を指します。サンゴ礁を作る造礁サンゴの群体の骨格の形は、枝状、塊状、テーブル状など、生息場所の環境に応じて様々です。生きているサンゴは表面を覆っているだけで、群体の形は石の骨格によって作られます。この石の骨格がどんどん積み重なって、サンゴ礁という巨大な地形を作り上げています(図1、図2)。

図1 サンゴの生活史
サンゴには卵と精子を一斉に放出して海面で受精するタイプ(放卵放精型)と、体内で受精し成熟したプラヌラ幼生を放出するタイプ(幼生保育型)の2タイプがあります。プラヌラ幼生は、海流によって遠くまで運ばれ、定着して成長します。
波利井佐紀(琉球大学)提供
図2 造礁サンゴの骨格と軟体部の構造
サンゴの個体はイソギンチャクなどの刺胞動物と同じ構造をしていますが、炭酸カルシウムでできた骨格を作って成長し、分裂して増えて、個体が集まった群体となります(スボミキクメイシの写真を参照してください)。
西平・Veron (1995) を改変

Q:サンゴは世界中にいるのですか。

山野:サンゴは水温が30℃くらいまでの暖かい海が最も生息に適しています。そのため、熱帯や亜熱帯の海岸に多く分布しています。世界で一番サンゴの種類が多いのは、インドネシア、フィリピン、ニューギニアに囲まれた海域で、450種以上のサンゴが分布しています。この海域から離れるにしたがって、サンゴの種類は減少することが知られています。また、インド洋と太平洋には基本的に同じ種類のサンゴが分布していますが、大西洋には違う種類のサンゴが分布しており、種類も少なくなっています(図3)。

図3 世界のサンゴ礁分布
サンゴ礁の分布は、最寒月の平均水温が18°C 以上の暖かい海域とほぼ一致しています。温帯では、サンゴはサンゴ礁を作らなくなります。日本はサンゴとサンゴ礁の分布の北限域にあたります。
Reef Base のデータより作成

Q:日本ではサンゴはどのように分布していますか。

山野:日本はサンゴとサンゴ礁の分布の北限にあたります。サンゴ分布の中心である熱帯・亜熱帯域から黒潮が流れてくるため、同じ緯度の他の地域に比べて多くの種類のサンゴが分布していることが特徴です。琉球列島から九州、四国、本州に沿って、北へ行くほどサンゴの種類は減少し、太平洋側では千葉県、日本海側では新潟県までサンゴの生息が確認されています(図4)。また、これまでサンゴ礁の北限は、日本では鹿児島県の種子島、世界では大西洋のバミューダ諸島とされていましたが、最近、私たちは北九州の壱岐と対馬にサンゴ礁が形成されていることを確認しました。

図4 日本のサンゴ礁の変化
南北に長い日本では、水温上昇によって、南では白化、北では分布北上が観察されます。図中の数字は過去100年の水温上昇を示す。

サンゴ礁は生物多様性の場

Q:サンゴ礁にはどのような生物がいますか。

写真2 サンゴ礁は生物多様性の場(沖縄県)
サンゴ礁は生物多様性の場(沖縄県)

山野:サンゴ礁は海の中で最も多くの生き物がすむといわれていています。サンゴ礁は藻類など小さな生物に隠れ場所となるすみかやエサを与えます。するとそこには、それらの小さな生物をエサとする大きな魚やエビなどが集まります(左写真)。

Q:サンゴ礁はなぜ重要なのですか。

写真3 サンゴ礁は人間が居住する場(ツバル・フォンガファレ島
サンゴ礁は人間が居住する場(ツバル・フォンガファレ島)
茅根 創(東京大学教授)撮影

山野:サンゴ礁の面積は地球表面の約0.1%しかありませんが、9万種もの生物がいるとされ、生物多様性が高いのが特徴です。このように多くの生命を育むサンゴ礁は、生物多様性から見ればとても重要な場所であるため、「海の熱帯林」と呼ばれることもあります。また、サンゴ礁では漁業が営まれ、人間に食料を提供していますし、美しいサンゴ礁は旅行者を引きつける観光資源でもあります。さらには、国土のすべてがサンゴ礁でできている国もあります(左写真)。このようにサンゴ礁は、人間の生活とも非常に深い関わりがあるのです(図5)。

図5 サンゴの機能と減少要因
サンゴは、褐虫藻と共生しています。成長してサンゴ礁を形成し、そのサンゴ礁は多様な生き物のすみかとなると同時に、人間の居住場所も提供します。また、褐虫藻は光合成を行って、他の生物の食べ物を提供しており、サンゴ礁にすむ魚などの生き物は人間にとって漁業資源となります。現在、サンゴ礁は、地球温暖化などのグローバルな要因と、土砂流入などローカルな要因の両方の影響を受けて衰退しています。
茅根 創(東京大学教授)提供

サンゴ礁に魅せられて

Q:研究を始めたきっかけは何ですか。

山野:私は学生時代に自然地理学を専攻しており、環境に対応したサンゴの分布や過去数千年間のサンゴ礁のでき方などを研究していました。初めてサンゴ礁で泳いだときに、岸から沖へと海水の流れの強さに応じてサンゴの分布が変化していることに興味を持ったのが研究を始めたきっかけです。
 最初は現在の海水の流れとサンゴの分布の関係を調べていましたが、だんだん時間を遡り、航空機から撮影された写真を使って過去数十年のサンゴ分布の変化を見たり、サンゴ礁を掘削したサンプル(コア)(図8)を解析して過去6000年のサンゴ礁のでき方を明らかにしたりしました。国立環境研究所に来てからは、サンゴ礁の生態系変動の観測と解析を行っています。学生のとき以来、20年以上ずっとサンゴ礁に魅せられています。

図8 サンゴ礁のフィールド調査
国立環境研究所では、サンゴ分布のモニタリングを行っています。モニタリングでは、毎年、同じ地点で同じ区画のサンゴを定量的に調査しています。左の写真は、サンゴ礁の上に「コドラート」と呼ばれる、塩ビ管とタコ糸で作った1m 四方の枠を置いて、水中カメラで撮影しているところです。写真と水中でのスケッチにより、サンゴの分布を記録します。過去に遡ってサンゴ礁の変化を調べるには、垂直方向のサンプル(コア)を分析する方法があります。右の写真は、コアを採取するために掘削しているところです。沖縄では、5m掘削すると、約6000年前のサンゴが採取できます。

Q:研究のねらいは何ですか。

山野:現在、サンゴ礁は地球温暖化など環境の変化の影響を受けて急速に衰退しており、その保全が急がれています。そこで私は、サンゴ分布の変化を引き起こす要因を明らかにし、保全対策を立てることを目的に研究を進めています。
 それと同時に、サンゴの分布状況のモニタリングと予測を通じて、地球温暖化などすぐに止められない環境の変化に私たちが適応するための基礎的な情報提供を行えるように取り組んでいます。調査は、研究者だけでなくNPOやダイバーの方々とも一緒に行い、広く情報を集めるとともに、広く成果を知っていただいています。

サンゴ礁の減少

Q:サンゴ礁はどんな状況ですか。

山野:今、サンゴ礁は壊滅的な状況にさらされています。国際自然保護連合(IUCN)などの調査によると、世界の3分の1のサンゴの種類で絶滅の危険性が高まっているといわれています。

Q:サンゴ礁が衰退するとどのような影響があるのですか。

山野:先ほども述べたようにサンゴ礁には多くの生き物がすんでいます。もしもサンゴが死んでしまうとサンゴ礁をすみかにする生物だけでなく、サンゴ礁にすむ生物を食べる生物も姿を消してしまうことになり、生態系バランスが崩れてしまいます。そして、人間にとっては漁業資源、観光資源が失われてしまうことになります。中でも、ツバルやモルディブのようなサンゴ礁でできた国は深刻な影響を受けると思います。

Q:サンゴが減った原因は何ですか。

山野:1998年に世界資源研究所が発行した「Reefs at Risk」という調査報告によれば、世界のサンゴ礁の58%が危機にさらされているとのことです。沿岸開発、生物資源の乱獲、ダイナマイト漁などの破壊的漁法の実施、海洋汚染、森林伐開や農地開発に起因する表土流出などの人間の活動に加え、ハリケーンによる破壊、サンゴを食べるオニヒトデの大量発生や高水温による白化現象などもサンゴを死滅させる原因となっています(図5)。この報告書は2011年に改訂され、そこでは世界のサンゴ礁の75%が危機的な状況にあると報告されました。

Q:日本でも同じような原因で減っているのですか。

山野:はい。陸から大量の土砂が海に流入して海水が濁り、サンゴに土砂がたまると、サンゴの中の褐虫藻が光合成できなくなったり、サンゴが窒息してしまったりしてサンゴが死んでしまいます。また、サンゴの天敵であるオニヒトデの大量発生もサンゴに被害を与えています。オニヒトデの大量発生は海へ流れ込む有機物が以前より増えているからだと考えられています。サンゴの白化現象も深刻です。これには、地球温暖化など気候変動が大きく関与していると考えられています。

Q:白化現象とは何ですか。

山野:サンゴの白化現象とは、サンゴが褐虫藻を失うことにより起こります。褐虫藻を失うとサンゴの白い骨格が透けて見え、白くなるため白化現象と呼ばれます。環境が回復すれば、サンゴは褐虫藻を再び獲得して健全な状態に戻りますが、白化した状態が長く続くと、サンゴは褐虫藻からの光合成生産物を受け取ることができなくなり、死んでしまいます(下写真)。

写真4-1 水温上昇とサンゴの白化(沖縄)
水温上昇とサンゴの白化(沖縄)
波利井佐紀(琉球大学)撮影
写真4-2 高水温により褐虫藻が抜け出して白化したサンゴ
高水温により褐虫藻が抜け出して白化したサンゴ(1998年)

Q:どうして白化が起こるのですか。

山野:サンゴの白化が起きる原因には、水温の変化や強い光、紫外線、低い塩分などが考えられています。中でも原因としてよくあげられるのが高水温です。サンゴに適した水温は25℃から28℃といわれていますが、水温が30℃を超える状態が長期間続くと褐虫藻に異常が起こり、白化を引き起こします。温暖化による長期的な海水温の上昇に加え、エルニーニョなどの気候的な原因により短期的な海水温の上昇が引き起こされます。1997年から1998年にかけてエルニーニョの影響で全世界的に海水温が上昇し、大規模な白化現象が起こりました。

Q:地球温暖化がサンゴに大きな影響を及ぼしているのですね。

山野:はい。しかしそれだけではありません。もう一つやっかいな問題として、二酸化炭素が海水に溶け込んで起こる海洋酸性化があります。海洋酸性化が起こると、サンゴの石灰化が阻害されます。つまり二酸化炭素の増加もサンゴにとって大きな脅威なのです。

写真5 海洋酸性化によりソフトコーラルに変化
海洋酸性化によりソフトコーラルに変化
井上志保理(東京大学)提供

サンゴ礁を守る

Q:サンゴ礁を守るためにはどうすればいいのでしょうか。

山野:当面の方策として、海洋保護区の設定や、土砂の流出など地域的な環境負荷を減らすなどの保全策や、サンゴ増殖・移植などの再生策が考えられています。また、サンゴ自身が環境の変化に適応する可能性も指摘されており研究の進展が期待されます。長期的にはサンゴ礁を守るために世界各国が協力して活動しなければなりません。そのため、国際サンゴ礁イニシアチブという体制が1995年にできました。日本ではそのための施設として環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターが沖縄県石垣市に設置されています。

Q:国立環境研究所ではどのような活動をしていますか。

山野:サンゴ礁やサンゴの様子を海を潜って調査したり、人工衛星のデータを用いてサンゴの分布状況を解析したり、新しくボートを使った観測システムを開発したりしてサンゴ分布のデータベースをつくっています。このデータベースから、サンゴ礁の異変をみつけることができます。
 サンゴが減少した原因なども探っています。これまで、沖縄では高水温による白化現象によってサンゴが大幅に減少してしまったことや、九州から北では水温が上昇してサンゴの分布が北上していることを明らかにしてきました(図4、図6)。また、土砂の流出など陸からの負荷がサンゴに及ぼす影響についても実証しました。

図6 水温上昇によるサンゴの白化
2007年夏の高水温により、日本で最大規模のサンゴ礁を有する石西礁湖でも、サンゴの白化現象が起こりました。衛星画像や空中写真の解析から、サンゴが1/3に減少したことが明らかになりました。
左の画像は、2003年(白化が起きる前)のサンゴの状態を、右の画像は、2008年(白化が起きた後)の状態を示しています。サンゴの状態を3つに分け、緑色の部分は健全なサンゴの比率が50-100%、黄色は5-50%、ピンク色は5%以下であることを表しています。左右を比べてみると、2003年には緑色だった部分が、2008年に黄色またはピンク色に変わり、緑色が少なくなっていることがわかります。これは、白化により、健全なサンゴが減少したことを示しています。
環境省提供

Q:これからサンゴ礁はどうなってしまうのでしょうか。

山野:大規模なサンゴの白化現象の報告は1980年代以降急激に増加しており、この増加は地球温暖化によるものだという説があります。地球温暖化のシミュレーションにより予想される今後の海水温の上昇と、過去にサンゴの白化を引き起こした海水温をあわせて考えると、今後サンゴの白化の頻度はますます高くなり、毎年白化するのではないかと心配されています。また、二酸化炭素が海に溶け込んで起こる海洋酸性化の影響は今後大きくなることが予想されます。
 私たちは、将来の地球環境を予測する気候モデルの出力結果を使い、地球温暖化と海洋酸性化によるサンゴの分布の変化予測をしています。それによれば、温暖化シナリオの1つである多元化社会シナリオの下では、海水温上昇よりも海洋酸性化の影響の方がはるかに大きく、日本近海でサンゴが生息できる領域が将来大幅に少なくなるという結果が得られました(図7)。

図7 サンゴ分布の将来予測
将来の日本近海の潜在的なサンゴ分布可能域を予測した結果を示しています。予測には、IPCC 報告書に貢献した、炭素循環を含む4 つの気候モデルを用いたシミュレーション結果を用いました。

サンゴ礁を保全するために必要なこと

Q:将来サンゴ礁がなくなってしまうのですか。

山野:それは私たちの環境意識と活動にかかっています。二酸化炭素の排出を減らすシナリオで予測したところ、地球温暖化と海洋酸性化の影響はかなり低減されることがわかりました。また、沖縄県で行われているモニタリングの結果から、陸からの負荷の少ないサンゴ礁で、1998年の大規模白化からサンゴが回復していることもわかってきました。二酸化炭素排出を減らすとともに、陸からの負荷など、サンゴにとってのストレスを減らすことが必要です。

Q:今後どのように研究を進めたいですか。

山野:サンゴ礁の変化は徐々に明らかになっていますので、予測の精度を上げるとともに、保全や適応に向けた具体的な行動につながる研究を進めていきたいです。例えば、サンゴ分布のデータベースが充実すれば、どの海域を優先的に保全すべきかを解析することができます。将来予測については、モニタリングの結果に基づいて予測精度を上げる必要があるでしょう。
 また、陸からの負荷を減らすためには、サンゴを調べるだけでなく、人々の社会を知る必要があります。サンゴ礁は、さまざまな分野との学際的な調査研究活動の場です。どうすればサンゴ礁を維持できるのか、その可能性を明らかにし、具体的な対策につなげていきたいと思っています。

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