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研究者に聞く!!

Interview

福島路生(左)と亀山 哲(右)の写真
福島路生(写真左)
アジア自然共生研究グループ 流域生態系研究室主任研究員

亀山 哲(写真右)
アジア自然共生研究グループ 流域生態系研究室主任研究員

 将来によりよい流域環境を残すために考えなければならないことは、これまでの治水・利水という目的に加え、環境という視点をしっかりと認識することです。そのためには、科学的なデータとその解析結果に基づいて議論する必要があります。今回は、人為的な河川改変が河川生態系に及ぼす影響を研究している亀山さんと福島さんに、研究の背景や進め方、成果、今後の展開などについてお聞きしました。

魚類とその生息環境の多様性で見る河川の健全性

1:タテとヨコのつながりの分断

  • Q: 最初に、研究者を志した動機をお聞かせください。
    亀山: 私は雨の少ない香川県の出身です。子どもの頃から、川には水を管理する堰が当然のように造られ、自然の川がなくなっていく現実に直面してきました。次第に、自然豊かな川と地域の人たちの暮らしが天秤にかけられているジレンマに関心が大きくなり、「どうすればこの2つの折り合いをつけることができるか?」ということに興味を持ち始めました。そして、最終的に大学院の博士課程では流域生態系管理を専攻することにしました。
     大きなショックを受けたのは、1994年に釧路湿原に調査に訪れたとき、あまりにも幼少からのイメージとかけ離れていたことでした。大自然の原野をイメージしていたのですが、行ってみたら川が真っ直ぐで魚もいない。ここにこそ流域を考える大きな課題があると思い、川の直線化と湿原植生への影響に関する研究を始めました。その後、学位を取得し、本格的に研究者として歩むことになりました。

    福島: 釣りが好きで自然に憧れていた私は1980年代初めに北海道大学に進学し、入学後釣りのサークルに入りました。原付バイクで道内各地を回り釣りを楽しんだのですが、同じ川に再び訪れるとダムができていたり川が真っ直ぐになっていたりで釣りにならず、悲しい思いをしたことが何度かあります。川の自然が急速に変わりつつあることに危機感を感じ、「(ダムによる)水力発電は果たして自然にやさしくクリーンなのか?」という疑問を持つようになりました。
     大学院ではイトウという日本では北海道にしか生息しない希少な淡水魚の生態について研究しました。その後、より専門的な生態学、水産学の勉強をするために北米に留学し、サケについて研究しました。それ以来、魚類を介した人為影響の研究を続けています。
  • Q: 人為的な河川改変が河川生態系に及ぼす影響について、研究に取り組んだ理由を教えていただけますか。
    亀山: いい流域を未来に残したいと思ったら、生態系が豊かで、人間の社会・文化活動も持続的に行える、いわば調和の取れた流域を目指すことが必要です。しかし現状の河川管理は、資源や利水、経済効果を優先してダムを造るといったように人間の経済活動を優先しがちな傾向があります。こうした人間社会の価値観を中心に流域が変えられていくことに対し、警鐘を鳴らせればと思って取り組むことにしました。
  • Q: 河川生態系に影響を及ぼす人為的な改変にはどのようなものがあるのですか。
    福島: 河川横断構造物と河川の直線化などがあげられます。河川横断構造物とはダムのように上流から下流までのつながりを分断するもので、回遊魚の移動を妨げます。また、河川の直線化は、洪水を速やかに海に流し、排水を促進するために、本来曲がって流れる川を真っ直ぐに改修するものです。曲がって流れる川には、浅く流れの速い瀬と、深く流れがゆったりした淵が形成されます。瀬には藻類や水生昆虫が育ち、魚に餌を提供します。サケの仲間には産卵場所にもなります。一方、淵は魚にとって瀬から流れる餌を効率よく捕る場所であり、また隠れ家、越冬などに使われます。しかし河川が直線化されるとそのような地形は失われます。
  • Q: :河川生態系を維持する上で重要なことは何ですか。
    亀山: 自然の流域が本来持つ、生態学的なタテのつながりとヨコのつながりをしっかり保つことです。この2つのつながりがしっかり維持されていることが、健全な流域の基本だと考えています。
     タテのつながりとは流域の上流・中流・下流を結ぶ生態系相互作用のことを意味します。流域の各部分がその地理的・地形的条件に応じた形で、生物の生活史をしっかりと支え、維持する必要があります。上流・中流・下流の河川が連続して流れることが流域本来の姿です。しかし、ダムなどで川が分断されると流域はつながりを断たれて健全さを失い、さまざまな形で生態系に影響が出ます。
     ヨコのつながりとは、川の水の流れる部分と陸域の氾濫原、またはそこに存在する河畔林部分との生態学的なつながりのことを言います。川と陸地は相互に栄養物質を受け渡す関係にあります。しかし、河道の直線化などによって川が改修されて護岸が進み河畔林が失われると、この関係は崩れ、生態系の物質循環や食物連鎖に影響を及ぼします。

2:流域分断マップの作成

主な河川横断構造物の写真
主な河川横断構造物。左がダムで、右が砂防堰堤。
  • Q:この研究を進めるに当たっては、最初に何が必要とされたのでしょうか。
    亀山: 日本全国規模で、流域が「いつ、どこで」ダムなどの河川横断構造物によって分断されたのかを空間的に把握することです。まず、これらをデジタル情報として整理し、次のステップで流域が分断された年代とその集水域を示した日本全国流域分断マップを作成し始めました。マップは2000年に作成を始め、2002年に完成しました(図1)
図1 日本全国流域分断マップ
  • Q:流域分断マップはどう作るのですか。
    亀山: 対象とする範囲が広く、膨大な数値情報を扱うためにGISを用いました(コラム参照)。最初に、国土数値情報や北海道庁の河川横断構造物のデータを組み合わせ、名称や位置、竣工年、サイズ、形式などから構成されるダムデータベースを作ります。このダムデータベースと、流域のネットワークデータ(水系内の細かなすべての集水域に対して上流と下流の関係を与え、流域全体の河川のつながりを解析可能とした空間情報)の両方をインプットデータとし、GISを用いて空間的に解析することで流域分断マップを作ります。
  • Q:データベースに収められているダムの数はどの程度あるのですか。
    福島: 全国規模では国土交通省が管理する約3100基の高さ15m以上の大型のダム、また北海道については1000基以上の砂防ダムのデータを収録しています。ただ、国土数値情報の地点データの多くはダム湖の中心に地点データがありました。私たちの研究ではダム構造物自体に地点データがあることが望ましかったので、デジタルの地形図と国土数値情報のポイントデータをGIS上で重ね合わせ、ずれを1カ所ずつ補正しました。
  • Q:データの整備に苦労されたのですね。
    亀山: もちろん、私たち2人ですべてのことをしている訳ではありません。魚類のデータベースが完成するまでにも、さまざまな人の支援がありました。まず、魚類を調査・同定した人がいるのはもちろんのこと、その調査結果を長年保管している人がいたことによって、一次資料の散逸が防げるわけです。また、デジタル化の際には、その人たちから快く了承していただかなければ作業は進められません。そして最終的に、複雑なデータを入力・整理・チェックしていただける人たちが居てくれ、解析に進むことができます。
  • Q:魚のデータベースも整備されたのですか。
    亀山: 国土交通省の「河川水辺の国勢調査」から調査地点、魚種、捕獲数などのデータをダウンロードしたほか、北海道で独自に行われた魚類調査から同様のデータを整理しています。私が使用した魚類調査地点は全国で5364地点です。

    福島: 北海道の魚類データについては、過去50年あまりに実施された魚類調査に関する文献を収集しました。文献の多くが公共事業を実施する際に行われた環境アセスメントの報告書で、その中に収録されている約7000件の調査結果からデータを抽出、既存の魚類データと一体化しました。
  • Q:データベースを作成するに当たって、北海道のデータを別途追加していますが、北海道に注目した特別な理由があるのですか。
    福島: すべての河川が道内で完結していることに加え、回遊魚が多いからです。北海道には60~70種ほどの淡水魚が生息しますが、そのうちの半数近くが海と川を行き来するいわゆる「通し回遊魚」です。通し回遊魚が多いことはダムによる潜在的な影響が大きいであろうと考え、北海道に注目しました。
    もちろん私たち2人が北海道大学の出身で道内の河川に精通していることも理由の1つです。

3: 魚種により異なるダムの影響

釧路湿原に流入する久著呂川の中流部の写真
釧路湿原に流入する久著呂川の中流部。河道が直線化された結果、河床の急激な低下と河岸の崩壊を招いた(2002年撮影)。
  • Q: データベースの整備が終わった後、研究はどういうプロセスで進めたのですか。
    亀山: この後の作業は集約されたデータの解析と北海道での現地調査の2つがあります。ここでは、どちらかを先に実施するというよりは並行しながら行う形になります。北海道での現地調査はシーズンが限定されるためタイミングを見計らって現地に赴き、調査を行いました。
  • Q: 生態系への影響はどのように評価したのですか。
    福島: 先ほどの数千件の魚類調査の地点図を流域分断マップに重ね合わせ、すべての地点について調査年と分断年の前後関係から、「調査時に下流にダムがあり、海と分断されていたか?」を決定しました。そして各調査で獲れた魚類の種数を、ダムの有無、調査地点の標高、などさまざまな要因と合わせて統計モデルを用いて解析し、最終的にダムの影響をモデルから推定しました。
  • Q: 統計モデルとは一体どのようなものなのですか。
    福島: ある地点の魚類の種数は、その標高や気温・降水量などの気象条件、また緯度・経度、流域面積の大小、などさまざまな環境要因、さらにダムの有無という人為的要因によって決定されると考えます。数千もの魚類の種数とこれら要因のデータの組み合わせがありますので、どの要因が種数に対してプラスに働くか、マイナスに働くか、その強弱はどの程度か、ということを数式で表すことができます。それをここではモデルと呼びます。でき上がったモデルで、実際には魚類調査の行われていない地点の種数を、その場所の環境要因から推定した結果が、淡水魚類の種の多様度マップになります(図2)。
図2 北海道における淡水魚類の種の多様度マップ
  • Q: このほかに明らかになったことは何かありますか。
    福島: 実際に現地を調べてわかったことですが、魚種ごとにダムの影響の実態が異なることでした。例えばサクラマスやアメマスは、魚道のあるダムで分断されてもその上流で生息が確認された地点がいくつかありました。しかし魚道がないダムの上流ではサクラマスはまったく確認できず、アメマスもそれに近い状態でした。遊泳力の乏しいウキゴリの仲間やエゾハナカジカに至っては、魚道の有無に関係なくダムの上流でまったく生息が確認できませんでした。多くの魚道、特に古いものは、水産資源として価値の高いサケマス類を想定して設計されているので、その効果が種により異なるのでしょう。
     さらに、ダムの建設は外来魚の分布を広める結果ももたらしました。オオクチバスなどに代表される外国産の魚類のほか、日本在来の魚でもその川には本来分布しないものが、いまでは各地のダム湖にごく普通に見られます。

    亀山:淡水魚類の生態系の評価という意味では、統計モデルを用いて26の絶滅危惧淡水魚類の種類ごとに、生息確率(川の棲みやすさ)を推定し、その結果をGISを用い日本全国の約9000地点でデジタルマップにしました。私が魚類の生息地解析に使用したデータはダムのほかに、川の水質、その地点の気温、標高、傾斜、集水面積、などです。対象とする魚ごとに、ダムの有無や分断後の年数、また生息条件に合う水質や地形・気温などのデータを統計的に取捨選択することで予測モデルができ上がり、解析を行うことができます。入力データとして過去の情報をインプットし、その結果と現在の結果を比較すれば、魚の棲みやすさの変化が定量化できます。
     例えば絶滅危惧種の1つにメダカがいます。メダカは一般的に、本州より南の比較的標高の低い地域で、昔はごく普通に見られたといわれています。メダカの生息確率を示す2002年の予測結果では、やはり西日本の平野部を中心に高めの値となっています(図3左上)。しかし、1977年と2002年の比較では、都市近郊部を中心に生息確率が小さくなった地点が多く見られました(図3右下、関東地域の拡大図)。
     私の用いたパラメータだけでメダカの生息環境は、すべて説明できるものではありません。例えば農薬などの影響も無視できない要因です。しかし、広く日本全体というスケールで捉えた場合、メダカにとってはこの期間、棲みにくくなった河川が増えたという予測ができます。
図3 メダカの生息確率マップ
  • Q: ダムによる分断の影響はわかりました。では、河川の直線化による河川環境の変化についてはどのように調べたのですか。
    福島:まず、北海道を流れる1級河川と2級河川のうち流路長が10km以上の159河川を対象に、大正時代と2000年代の地形図からそれぞれ、河川のラインをデジタル化し、それらをGIS上で重ね合わせました。こうすることによって、2つの時代間でどこでどの程度、流路がずれるかを定量化することができました。その結果、ほとんどの川の中下流域で、河川が直線化されていることがわかりました。その影響が淡水魚にどう表れるのかを明らかにするのが次の課題です。

4:科学的根拠に基づき環境への影響を評価

  • Q: 現在、メコン川でも同様の研究プロジェクトに取り組んでいるとお聞きしていますが、日本と違って何か難しい面はありますか。
    亀山: メコン川は中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの6カ国を流れるアジア最大の国際河川です。各国で主義主張の違いなどがあるため、同じ未来像を今の段階で各国が描いているわけではありません。とくに流域の開発行為に対しては利害関係が絡むために、関係国間の交渉と調整が不可欠です。そのとき、他国民であるわれわれが、たとえ科学的な調査結果に基づくと言えども、ベストの解を実際の流域管理に反映させることには、実際難しい現実があります。このような状況の中で、私は研究者として、特に中立的な立場から客観的に現地の状況に向き合うことを心がけています。

    福島:一番の問題は、統一された魚類の分布データや統計がないに等しいことです。メコン流域6カ国の漁獲データなどを仮に統合できたとしても、日本で行ったような解析は無理でしょう。
     ですので、メコンではまったく異なるアプローチからダムの魚類への潜在的な影響を見ようとしています。それは、耳石という頭部にある骨に蓄積された微量な化学物質から、一匹一匹の魚の誕生から捕獲されるまでの間の環境の変化、つまり回遊の履歴を見ることです。これが定量的に示されれば、今後建設されるであろうダムがメコンの魚類と漁業に及ぼす影響が予測できるのです。
  • Q: 最後に、日本・海外に限らず研究成果の活用についてお考えがあればお聞かせください。
    亀山: これまで多くの場合、流域の開発サイドと環境保全サイドが1つのテーブルにつき、将来の流域像について対等な立場で議論する機会が非常に少なかったと思います。しかし1997年に、日本では環境影響評価法が施行され、アセスメントの実施と地域住民への情報公開が義務づけられました。これが契機となり、両者が1つのテーブルにつくような状況が少しずつ生まれています。
     このとき多くの場合、現状の環境維持を望むグループは、議論の根拠とする情報やデータをあまり持っていないことが多いものです。議論の場ですから、ニュートラルな立場から示されたデータや研究成果を使い、それを基に両者が公平に議論すべきです。そしていかなる場合も、どのような流域の未来像を選択するかは、現在の当事者が責任を持って決定しなければなりません。
     また一方、研究成果やモニタリング結果に基づいて真摯な議論を行うことも重要ですが、人の行う将来予測と実際の生態学的応答が上手く一致しないことが往々に見られます。最近よく聞かれる「順応的管理」は、このような状況から生まれた発想です。保全や再生を目指す流域の具体像がある程度固まった段階で、その時点でベターだと考えられる管理方法にまず着手するというのも、一つの確かなアプローチです。
     ただこの管理を行う上では、実施する事業の事前と事後の状況を比較し、その影響を客観的に評価する体制を予め定めておく必要があります。人々が望む流域の未来像は、時代背景や地域特性、または国内外の状況などによって多種多様です。その時代と流域に応じた、中立的でより良い環境評価方法を模索することが、自分としては流域管理に関わる研究者の一つの貢献かつ義務だと考えています。

コラム

  • Space for River とは
     河川環境管理や応用生態工学の中では「川や湖のダイナミズムの再生のために、川のための空間を確保すること」という意味で“Space for River”という言葉が使われます。

     “Space for River”の考えが最初に生まれたのはオランダです。1990年代前半、オランダは2度の大洪水を経験しました。そしてこの原因を、長年にわたり人間が川幅を狭めてきたことにあるとし、川にもっと空間を与える 政策“Policy on Room for the River 1996”と洪水予防法“Flood Protection Act 1996”が生まれました。これがその後、“Space for River”というスローガンにつながり、ヨーロッパを中心に広まりました。

     治水と利水を最優先に河川管理が行われていた過去の日本では、長年、流域に降った雨はいち早く海まで流下させ、その要所要所で人間が最適に利用してきました。しかし、1997年の河川法改正以降、環境に配慮した河川管理を考える上で、流域一貫の統合的な管理という概念が再認識され始めました。ここで見直されたのが、「健全な川を作るのは川そのものである」という考え方です。生態系の保全や再生を行う上では、川の再生力を人間が妨げず、あるときはそれを支えるべきである、という発想が重視されました。

     川のタテ・ヨコ方向の連続性を確保し、生態学的相互作用を取り戻すためには、出水規模に応じて河川水が自由に動くことが必要です。そしてその結果として、長期的に川が一定の幅で蛇行を繰り返すためには、河川が本来占有していた空間を川に再度戻してあげることが最も根本的かつ重要であると近年は認識されています。
  • 河川横断構造物の現状
     河川のタテのつながりを分断する河川横断構造物には、大きな貯水池を持ち家庭・工業・農業用水の供給や発電、また洪水対策などを想定したダム、土砂流出を調節する砂防堰堤、流域の森林の維持・造成を目的にした治山堰堤、河川や湖沼から農業用水を取水する取水堰(頭首工)、河口堰、などがあります。

     日本のダム建設の歴史は古く、香川県の金倉川をせき止めて飛鳥時代に満濃池を造ったほどです。現在、ダムは全国で約3100基、砂防堰堤で5万5000基近くあるとされています。しかし、治山堰堤や農業用取水堰の数は、全国はおろか都道府県単位でも十分に把握されていないため、正確な数や位置を知ることが困難な状況です。
北海道での現地調査の様子。背中に背負っているのが、魚を捕獲するための電気ショッカー。
  • 北海道での現地調査
     北海道の魚類データとして1000を超える文献から約7000件の調査データを抽出しましたが、地図上に調査地点を重ねると、ほとんど調査がされていない空白地帯がありました。日高地方もその1つでした。そこで2001-2002年に、日高地方を流れる川の現地調査を実施しました。調査対象とした川は36本で、調査地点は125カ所にのぼります。調査地点は下流側にダムがある箇所とない箇所、ダムに魚道がある箇所とない所というようにコントラストを持たせ、その組み合わせに応じどのような影響が魚に表れるかを調べました。

     この調査では、各地点にいる魚種と生息密度、体サイズなどを、実際に魚を捕まえて調べ、計測後すべて川に放流しました。確実に、また効率よく魚を捕まえるため、投網と電気ショッカーを併用します。電気ショッカーとは電気で魚を一時的に気絶させて捕獲する装置で、使用するためには北海道からの許可が必要です。また2003年には、分断の前と後の状況を比較するために、ダム建設以前に魚類調査された地点をデータベースから抽出し、4河川44地点を再調査しました。
  • ベニザケになるヒメマス
     サケ科サケ属の一種で、一生淡水で暮らすヒメマスという魚がいます。ヒメマスはもともと北海道の阿寒湖とチミケップ湖が原産で、全長は20~30cmほど。現在は北海道のほか本州の湖にも広く移植されていますが、多くはダムや自然の滝などによって海との交流の途絶えた湖にいます。

     実は、ヒメマスを海につながった北海道の川に放流すると降海し、その一部が数年後、体の大きなベニザケとなって再びもとの川に戻ってきます。ヒメマスはベニザケが陸封化され次第に小型化した魚です。かつては北海道にもベニザケが生息していましたが、氷河期以降の地球の温暖化とともに餌となるプランクトンを湖の中だけで十分にとることができるようになったことから陸封化されました。

     海洋と河川の生物生産のバランスは緯度に応じて変化します。分布の南限に生息するサケ科魚類ではしばしば、イワナやヤマメなどのように陸封された個体群を持つものが見られます。同じ種でも緯度が変われば、生活史の戦略は一様ではありません。
  • GISの活用と解析
     エリアが広範囲に及ぶ本研究で大きな役割を果たしたのがGISです。GISはGeographic Information Systemの略で、地理情報システムと呼ばれています。広範囲な地理情報を扱う研究、環境保全策の検討、影響評価方法の決定に必要不可欠なものとなりました。

     GISは紙で扱っていた河川や道路といった地理情報や生物生息情報をデジタル化し、コンピュータで空間的な解析を行うものです。データフォーマットも共通化される傾向にあることから、複数のデータを組み合わせることも可能で、情報の付加価値をさらに高めることができます。

     GISを有効利用するカギは、データベースの構築、目的に適した解析、解析結果のマッピングと公開、という3つを上手く循環させることを意識してシステムを構築することにあります。とくに、ここで重要なのがデータベースの構築です。官庁などの行政機関や研究機関が整備しているGISデータの入手やダウンロードは比較的簡単にできます。しかし、この他の紙ベースでしか残っていない情報は人手と時間というコストを膨大に使ってデジタル化する必要があります。これら2つのデータを統合することで、GISデータベースを充実させます。本研究で構築したダムのデータベースや魚類データベースは、日本で類を見ない情報量の多いものになりました。

     データベースを構築後に解析を実施し、その結果をマッピングすることには、成果がひと目でわかるというメリットがあり、GISの醍醐味だといえます。本研究で作成したオリジナルの流域分断マップや魚の棲みやすさマップも、GISの解析結果をマッピングしたものです。
基本的なGISを使った研究・意思決定のフロー図
基本的なGISを使った研究・意思決定のフロー