ライダーによる対流圏エアロゾル観測研究の動向
研究をめぐって
ライダーネットワークは東アジアだけでなく、世界各地で展開されており、現在各地のネットワークと連携してデータを共有する計画が進められています。 これに加え、衛星搭載ライダーから得られたデータを利用した研究も進められており、エアロゾルの全球的な立体分布を解明する研究が進みつつあります。
世界では
ライダーネットワークによるエアロゾルの観測は、国立環境研究所を中心に展開する東アジアのネットワークだけでなく、欧州の“EARLINET(European Aerosol Research Lidar Network)”や米国NASAが展開する“MPLNET(Micropulse Lidar Network)”など、世界的に行われています。これらのネットワークと連携してデータを共有することによって、地球規模の観測ネットワークを構築する計画がWMO(世界気象機関)のGAW(Global Atmosphere Watch:全球大気監視)の下で進められています。
このネットワークは“GALION (GAW Aerosol Lidar Observation Network)”と命名されています。GALIONという名前は、ドイツ語で船首に取り付けられる像を意味するGalionsfigurを掛けたものです。GALIONによって、対流圏エアロゾルの地球規模の分布の解析や気候モデルの検証のためのデータが得られることが期待されています。
一方、衛星搭載ライダー“CALIPSO”が2006年4月に打ち上げられ、エアロゾルや雲の分布を宇宙から継続的に観測しています。衛星搭載ライダーは、雲、エアロゾルの全球的かつ立体的な分布に関するインパクトの大きな新しいデータを提供しています。
また現在、日本の航空宇宙研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同で、大気放射観測衛星“EarthCARE”の開発を進めています。これは、高スペクトル分解ライダーと雲レーダーと画像センサー、赤外放射計を同時に搭載する衛星で、2013年の打ち上げが計画されています。
日本では
日本の大学や研究機関でもライダーによるエアロゾルの観測に関する研究が行われています。
例えば、東京海洋大学や気象研究所ではラマン散乱ライダーによる観測研究が行われています。また、気象庁は岩手県の綾里でラマン散乱ライダーを定常的に運用しています。とくに、東京海洋大学における研究では、3波長のライダーが開発され、黄砂や森林火災によるエアロゾルの光学的特性が詳しく研究されています。
一方、首都大学東京や名古屋大学は、熱帯域におけるライダー観測を行っています。このほか、ライダー技術に関する研究が情報通信研究機構や首都大学東京、千葉大学などで行われています。
国立環境研究所では
ライダーネットワークを大学や研究機関、環境省、地方自治体との協力の下に東アジアに展開し、黄砂や大気汚染現象の解析、エアロゾル分布の季節変化・年々変化の特徴を解析しているほか、化学輸送モデルの検証、同化への利用の研究を進めています。黄砂についてはADB(アジア開発銀行)/GEF(地球環境ファシリティー)のマスタープランに基づいて日・中・韓・モンゴルのモニタリングネットワークを構成しています。黄砂については九州大学との共同研究によって、ライダーネットワークデータを用いたモデルの同化システムが開発され、黄砂現象の全体像を高い精度で把握することが可能となりました。
地球規模のエアロゾル分布に関する研究では、“GALION”へのデータの提供、エアロゾル気候モデルの検証、同化のためのデータ処理手法の研究を進めているほか、衛星搭載ライダー“CALIPSO”のデータを利用した研究も行っています。また、ESAとJAXAが共同で開発中の“EarthCARE”に搭載されるライダーの解析アルゴリズムの開発にも参加しています。
これからの対流圏エアロゾルの観測研究では、地上観測ネットワーク、衛星観測、エアロゾル気候モデルの連携が重要です。将来のライダーネットワークには、衛星観測では得られない物理量を測定することも求められます。そこで現在、多波長の高スペクトル分解ライダーの開発研究を進めています。
このライダーは、後方散乱係数を3波長で、消散係数を2波長で、偏光解消度を2波長でそれぞれ独立に測定します。これによって、大気汚染性の硫酸塩などのエアロゾル、光吸収性の煤、海塩粒子、黄砂などを識別してそれぞれの濃度分布を推定することができます。開発するライダーでは、このような高機能の測定と連続自動運転を両立させることを目指しています。また、測定される物理量をすべて有効に利用する汎用性の高いデータ解析手法を確立することも目標としています。