研究者に聞く!!
Interview
松井一郎(写真左)
大気圏環境研究領域 遠隔計測研究室主任研究員
杉本伸夫(写真中央)
大気圏環境研究領域 遠隔計測研究室長
清水 厚(写真右)
アジア自然共生研究グループ アジア広域大気研究室
大気圏環境研究領域 遠隔計測研究室主任研究員
杉本伸夫(写真中央)
大気圏環境研究領域 遠隔計測研究室長
清水 厚(写真右)
アジア自然共生研究グループ アジア広域大気研究室
1970年代後半から、国立環境研究所ではライダー(レーザーレーダー)の研究が始まり、観測手法の研究と装置の技術開発を重ねてきました。現在、日本、中国、韓国、タイ、モンゴルにライダーを設置し、ネットワーク観測を行っています。今回はこの観測に携わる杉本さん、松井さん、清水さんに、ネットワークの目的や成果、今後の見通しなどについてお聞きしました。
ライダー観測技術の進歩とエアロゾルの動態解明
1: レーザー光でエアロゾルを捉える
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Q: まず最初に、研究者になられたいきさつをお聞かせいただけますか。杉本: 私は大学で半導体物理を専攻していました。研究所に入ったのは偶然のようなものですが、レーザーを使った計測という点では似通ったところがありました。レーザーを外に射出して大気を計測するというのは、当時の私には思いもよらなかったことで、非常に新鮮な興味を感じました。
松井: 研究所でライダーの研究をしていた清水浩先生が大学時代、私の大学の先生と同じ研究室にいた縁で、大学4年生のときに研究所で卒業研究に取り組みました。偶然、ライダー研究で人手を必要としていたため、そのまま研究所に残ることにしました。
清水: 高校生のときに『資源物理学入門』(槌田敦著、NHK出版)という本に出会い、物事の捉え方、考え方について強い衝撃を受けました。大学で地球物理学を志したのもこの本の内容に近い部分があると思ったからで、その後大学院から研究所へと進むまで、ずっと影響を受けていると感じています。 -
Q: ところで、皆さんの研究ではライダーという装置を使用されていますが、これはどのような原理の装置なのですか。杉本: ライダーはレーザー光を用いたレーダー装置で、レーザーレーダーとも呼ばれています。レーザー光を上空に向けて射出し、空気の分子や空気中に浮遊する微小粒子(エアロゾル)などに当たり散乱されて戻ってくる光の信号を受けます(図1)。
図1 ライダーの測定原理
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Q: エアロゾルの高さ分布が測れるのですね。杉本: そうです。非常に短い時間に強力なレーザー光を射出し、散乱の時間応答を測定します。散乱体(エアロゾル)までの距離に応じて応答時間が違いますので、時間応答の波形を解析することで、どの高さにどれだけの散乱体があるのかがわかります。
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Q: 粒子の大きさや形もわかるのですか。杉本: 2つ以上のレーザーの波長を使ったり、偏光を利用することで、粒子の大きさや形状の推定が可能になります。エアロゾルの散乱は粒径が光の波長よりも大きい場合に強いので、ライダーでは主にサブミクロン(0.1μm~1μm)の粒径のエアロゾルを測定しています。現在使っているライダーでは、偏光特性を利用して硝酸塩や硫酸塩など大気汚染性の球形のエアロゾルと非球形の黄砂を分離し、それぞれの高度分布を求めることができます。
2:ネットワークの基本は連続観測
北京の日中友好環境保全センターに設置されているライダー
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Q:現在、ライダーネットワークを構築していますが、これはどういったものなのでしょうか。杉本: 自動で連続観測するライダーを日本、中国、韓国、タイ、モンゴルの計十数カ所に設置し、リアルタイムで観測したデータを解析して東アジア地域のエアロゾルの量や動態を把握するものです。現在は、エアロゾルの中でも黄砂をメインのターゲットにしています。
このネットワークを構築するとき重要視したことは連続観測です。連続観測に本格的に取り組んだのは1996年からです。このとき、自動で通年の連続観測ができる小型ライダーを開発し、つくばで連続観測を始めました。当時は、通年にわたって稼働し観測し続ける装置が完成したことに驚かれたものです。これがきっかけになり、ライダーネットワークを展開するという将来計画が現実味を帯びてきました。 -
Q:ライダーネットワークの構築が始まったのはいつ頃のことですか。杉本: 2001年です。自動で連続観測するライダーができたこと、多くの場所でライダーを使った観測をすれば面白い情報が得られる、といった理由から始めることにしました。
つくば以外に最初に設置したのは北京です。日中友好環境保全センターが実施している黄砂研究プロジェクトでライダー観測を行いたいという話から設置することになりました。2001年2月に、重さ300kgある装置を10個ほどの段ボールに分け、携行物品として私が一回で全部運び組み立てました。そして、同年3月から観測を始めました。また、それと同時期に長崎大学にも自動の連続観測ライダーを設置し、つくば、長崎、北京の3地点で黄砂を観測することができるようになり、今のライダーネットワークの基礎ができたのです。その後、ネットワークの拠点を徐々に増やしていきました。 -
Q:それにしても、一人で運ぶには300kgは重いですね。杉本: ライダーは私たちが日本で作り現地に設置するので、もっと軽くコンパクトにする必要がありました。そこで、2001年10月にタイにはじめてライダーを設置することになったとき、30cm×60cmの板に載り、重さ100kgとそれまでより遙かに小さく軽いライダーを作りました。このライダーは6カ月間故障もなく連続稼働したので、私たちのライダーの優秀さが広く認められました。しかし、小さく作りすぎたために観測の障害となる電気的な雑音を拾いやすいなどの予想しなかった問題が発生しました。
松井: 大きなものを小さくすることが必須の場合は、部品数を減らしたり、できるだけ小さな部品を選定するなど、いろいろ工夫しなければなりません。現在のライダーは、電気的な雑音の低減を考慮して部品の配列を工夫するなどしたため最初にタイに設置したものより大きくなっています。
私は海洋地球研究船「みらい」にライダーを搭載し洋上のエアロゾルの立体分布を観測するプロジェクトにかかわっていましたが、「みらい」に搭載したライダーもタイと同じ仕様にしました。 -
Q:ライダーを小型・軽量化したことで地上以外でも利用できるようになったのですか。杉本: 「みらい」に搭載したライダーは当時日本で計画された衛星搭載ライダー“ELISE”の地上検証のために作られたものです。2003年には、飛行機にライダーを搭載しエアロゾルを観測するプロジェクトにも参加しています。
3: 観測にまつわるエピソード
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Q: アジア各地にライダーを設置していると、いろんなエピソードがあるのでは。松井: まず、ライダーは私たちが独自に研究開発したもので既製品ではありません。ですから、現地に運ぶとき、輸出輸入検査のための申請書類を作るのが大変です。なにしろ、既製品だと普通にある説明パンフレットもありませんから。
杉本: 南の方ではライダーの中に虫が入ったりクモの巣が張ったりすることが頻繁に起き、そのせいか、ときどき原因不明で信号がおかしくなることがあります。タイでは、ライダーを設置している観測所の中にヘビが入り込んでいることもありました。
松井: そうなんです。ヘビが観測所の周りに近寄らないようにするため、最近は観測所の施設内に犬がいます。 -
Q: 北の方では何かありますか。松井: 中国やモンゴルではライダーが砂まみれになることがあります。それからモンゴルは、砂漠にライダーを設置していることもあり、私たち研究者の食環境が日本と大きく異なります。ほとんど羊肉で、見るのも嫌になりました。
杉本: 北海道大学に設置したライダーはレーザーが凍って壊れたことがあります。ライダーにはレーザーを冷却するための冷却水が入っているのですが、半日ほど停電したときに冷却水が凍り、レーザー内部の高価なレーザー結晶が壊れてしまったのです。また、レーザー照射と受信用の天井の観測窓ガラスが日本では1枚ですが、中国北部のフフホトに日本と同じ仕様のライダーを設置したところ、結露を起こし測定できなくなり、二重ガラスに改良しました。このような教訓を生かしてモンゴルに設置したライダーシステムではすべて、観測窓ガラスを2枚にしました。
4:数値モデルの精度向上に成果
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Q: ライダーネットワークで得たデータはどのように活用されているのですか。清水: 私たちは九州大学応用力学研究所の鵜野伊津志教授と共同で研究しており、九州大学がつくった黄砂を予報するための数値モデル“CFORS”がライダーの実測データと合うかどうか検証しています。数値モデルでもある程度正確な予報が可能ですが、そこに「データ同化」という手法を通じてライダーネットワークで得た高さ方向の観測データが入ると、観測地点での黄砂の量から発生源での黄砂発生量をより正確に推定することができるようになります。数値モデルとライダーの実測データを組み合わせてモデルを良くし、モデルの中の発生源をより正しく表現することにライダーネットワークの実測データが適用できることがわかったのは、観測とモデルの融合という観点から大きな成果だと言えます。データ同化の手法が黄砂の濃度にも適用できることが実証されたわけです。
杉本: 九州大学とのこのようなデータ同化手法に関する共同研究は、さまざまな大気汚染物質にまで適用できる可能性があり、新しい研究領域として発展させたいと考えています。また、地球規模でのエアロゾルの動態については、東京大学気候システム研究センターで開発された“SPRINTARS”という数値モデルの検証や同化にライダーネットワークのデータを使う研究も進んでいます。 -
Q: 数値モデルとはどういうものですか。清水: 風や温度、気圧に関するデータを計算機に入れ、それらが物理法則に則って時間の経過とともにどう変化するかを示したものです。例えば“CFORS”では、風、温度、気圧に関する情報のほか、どこに砂漠があるなどといった地表の情報も持っており、砂漠に吹く風の強さに応じてどの程度黄砂が発生するか、さらに重力や雨によってどの程度黄砂が落下するか、といった仕組みも組み込まれています。これにより、何日後にどこの高度何メートルあたりで、どの程度の濃度の黄砂が来るという計算ができます。データ同化の手法を使えば、さらに計算の精度を上げることができます。
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Q: モデルの検証以外では何かありますか。清水: ライダーの観測データを使い、全観測時間のうち黄砂がどれだけの時間検出されたかという統計や、どの地点でどの高度に雲が分布しているのかという解析に利用することができます。黄砂の総観測時間は地球環境に対するエアロゾルの影響、雲の分布は地球温暖化に深く関係します。
5: 今後のライダー観測の展望
晴天時の観測拠点(モンゴル・サインシャンド)。左側のコンテナ内にライダーがある。円内は同じ場所における黄砂飛来時の様子。
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Q:ライダーの観測データを使った研究は、どのように発展していくのでしょうか。杉本: まず、エアロゾルの動態解明では今後、ますます地球規模でのデータが重要になります。そのため、ヨーロッパやアメリカのライダー研究者グループが作っているライダーネットワークと連携し、それぞれのデータの相互共有を行うという計画があります。また、NASA(米国航空宇宙局)の衛星搭載ライダー“CALIPSO”が、2006年夏より宇宙からエアロゾルを観測しています。“CALIPSO”の観測データはグローバルなエアロゾルの動態を捉えるのに非常に有効ですので、各地で“CALIPSO”のデータを使った研究が盛んになってきました。ただ、衛星搭載ライダーは地球規模での観測に向いているものの、特定の地域を観測するには測定頻度が限られていること、観測時間が決まっていることから、地上のライダーとの連携が重要であると考えています。
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Q:今後のライダーネットワークの展開についてはどうお考えですか。杉本: 拠点数に関しては、中国以外はほぼ網羅できたと思います。日本を中心にした東アジア地域のエアロゾルの動態は、現時点でも捉えられると考えています。しかし、今後研究を進めていく上で2つの課題があります。
1つ目の課題はデータの精度管理です。観測データ が正しいことが解析の大前提なので、データ処理においてもその確かさをチェックしていますが、ライダー装置についてもより精度の高いデータが取れるように改良しなければなりません。
2つ目の課題は測定する物理量を増やすことです。現在のライダーは測定のために3つの受信チャンネルを持っていますが、ここにさらにラマン散乱(空気中の分子が持つ固有エネルギーの分だけ波長がずれて返ってくる散乱)の信号を受ける受信チャンネルを増やすことによって、ブラックカーボン(煤)のような太陽光をよく吸収するエアロゾルがどの程度存在するのかをより正確に推定できるようになります。今後、このように装置の改良を進める必要があります。 -
Q:最後に、これからの研究計画などについて教えていただけますでしょうか。杉本: 2008年度から3年計画で、まったく新しい次世代ライダーの開発を始めました。このライダーでは、観測に使うチャンネルが7つになります。レーザー光の波長はこれまでの532nmと1064nmの2つのほか、355nmも使うことを考えています。532nmと355nmの波長では光の散乱のほか減衰に関する情報も取得します。増えた情報を有効に利用して多種類のエアロゾルの濃度分布を種類別に推定する新しい解析手法の開発も同時に進める計画です。
コラム
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ライダーによるエアロゾル観測国立環境研究所でライダー研究が始まった当初、主な観測ターゲットは大気汚染エアロゾルと大気境界層(地上付近で空気がよく混合する層)の高度など大気汚染に関係する大気の構造でした。現在は、黄砂や長距離輸送される各種のエアロゾルの動態を連続観測により捉えることが主な目的です。エアロゾルの連続観測が始まったのは1996年のことで、科学技術庁の地球温暖化に関する研究プロジェクトに参画し対流圏(高度0~約15kmの大気)中のエアロゾルを長期連続観測することでその分布と動態を把握したことがきっかけでした。エアロゾルには硫酸塩エアロゾルや硝酸塩エアロゾル、黄砂のような鉱物性エアロゾル、有機炭素性エアロゾルなどがありますが、2つの工夫で、黄砂とそれ以外のエアロゾルの判別と粒子のサイズの判定を行っています。
1つ目の工夫は、波長が532nmの緑色レーザーと1064nmの赤外線の2波長のレーザーを用いてライダー測定を行うことです。これによって粒子の大きさを判別することが可能になりました。
2つ目の工夫は、エアロゾルで散乱された光の偏光の変化(偏光解消度)を測定することです。送信されるレーザー光は直線偏光しています。丸い粒子に当たって散乱したときは偏光が保存されて戻ってくるのに対し、黄砂のように非球形の粒子で散乱すると偏光が乱され偏光の垂直成分が表れて戻ってきます。偏光解消度とは偏光の水平成分に対する垂直成分の割合のことで、これを測定することで、粒子が球形のエアロゾルか黄砂のように角張っているかがはっきり見分けられます。ライダーネットワークのライダーでは、532nmの緑色レーザー光で偏光解消度を測定しています。
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広く活用されるライダー観測データ国立環境研究所が運用するライダーネットワークのうち、日本の富山、島根、長崎、新潟、東京の5カ所のライダーは環境省の黄砂モニタリング事業の中で設置されたものです。国立環境研究所ではこれらの地点を含む観測データをリアルタイムに収集し、一括して解析しています。リアルタイムで導出した黄砂濃度の解析データは環境省に提供され、環境省がウェブサイト上で発信している「黄砂飛来情報」に活用されています。また、ライダーネットワークからリアルタイムに収集・処理した観測データは、国立環境研究所が発信する「環境GIS」の「東アジア広域大気汚染マップ」(仮称)でも公開する計画です。
ライダーの観測データをネットワークでリアルタイムに収集し、情報を提供しているのは、世界的に見ても国立環境研究所だけです。ネットワークとリアルタイムという長所を生かし、ライダーの観測データは研究以外にも広く活用されています。
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ライダー装置の変遷国立環境研究所では1970年代後半からライダー観測の研究がスタートしました。初期には計測車にライダーを搭載し、排煙の拡散や大気境界層の構造に関する計測の可能性について研究が行われました。このとき使用されたライダーは、家庭用冷蔵庫1台ほどの大きさをした当時のミニコンピューターに信号波形を取り込むものでしたが、ミニコンピューターはメインメモリが64KB、直径30cm程もあるハードディスクの容量が1MBと、現在からは考えられない性能でした。これだけでは信号を記録できなかったため、データはオープンリールの磁気テープに記録するようになっていました。1979年には大型のライダーが製作され、エアロゾルの分布や大気境界層の構造に関する測定などさまざまな研究が行われました。
また、大気を観測する装置には連続運転が必要であるという考えが研究開始当初からあり、そのために1979年には連続観測できなおかつ小型のライダーの原型が開発されました。このライダーは大気汚染の程度に関わる重要なパラメーターの1つである大気境界層の高さの観測を目的とするものでした。ライダーで受信した信号の出力には、ペンで紙の上に波形を描くペンレコーダーが使われ、波形から大気境界層の高さを読み取りました。
その後、ライダーの小型化と連続観測のための技術開発を進めていった結果、遠隔地での自動観測が可能になり、ライダーネットワークが現実のものとなりました。また、ライダーを船舶や航空機に搭載する観測研究も可能になりました。
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データ同化とは何か以前から、ライダーネットワークの観測データは数値モデルの検証に使われてきましたが、最近はデータ同化にも利用されるようになりました。
データ同化とは数値モデルに観測データを反映させることです。黄砂の数値モデルの場合、強い風が吹いたら砂が飛び上がり、風に乗って流れてくる、といったメカニズムを考慮したパラメーターが入っており、同化を行わなくてもある程度正確な予報を出すことができます。しかし、多地点で長期間にわたり連続観測するライダーネットワークの実測データを数値モデルに取り込んで計算をし直すことにより、例えば発生源での黄砂発生量をより正確に推定できるようになります。また、数値モデルの中で予測(予報)された黄砂の分布が正しかったのかどうか、発生源での黄砂発生量をどの程度調節すると下流で観測されたデータ通りに黄砂が飛んでくるようになるのか、といったモデル検証的研究も九州大学と共同して進めています。
データ同化の研究では、数値モデルと実際の観測データを組み合わせてモデルを良くし、モデルの中の発生源をより正しく推定するために使えることが、大きな成果として確認できました。
黄砂の数値モデルにライダーの観測データを反映させると、個々の地点から発生する黄砂の絶対量が変化します。図で表すとアジア大陸の乾燥地帯で黄砂が発生するという点では同化前と同化後で大きな違いがありませんが、実測データを反映させ同化すると、砂漠の各地域ごとに発生量が修正され、その修正が下流側での黄砂分布にも反映されるようになるので、エアロゾルの動態がより確かに推定できるようになります。
こうしたことからデータ同化は、発生源対策を重点的に行う必要がある地域はどこかなど、政策判断に役立つ情報を得るためにも重要だといえます。
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衛星搭載ライダーと地上ライダーネットワークNASAラングレー研究センターで開発された人工衛星搭載ライダー(CALIPSOライダー)は、2006年4月28日に打ち上げられ、現在、雲とエアロゾルの測定が継続的に行われています。衛星搭載ライダーは、雲、エアロゾルの鉛直構造を全球的に測定できるという従来の衛星センサーにはない大きな特徴を持っています。図はサハラ砂漠からアメリカ大陸へ輸送されるダストエアロゾルの断面をCALIPSOライダーが捉えた例です。
国立環境研究所を中心に東アジアで展開されているライダーネットワークは、黄砂や大気汚染エアロゾルの発生、輸送を詳細に捉えることができるので、CALIPSOライダーの検証においても非常に有用です。一方、CALIPSOライダーは、地上ネットワークがカバーする領域よりもさらに広い範囲のエアロゾルの輸送の追跡が可能です。衛星搭載ライダーと地上ライダーネットワークには相補的な利点があるので、両者の観測結果を合わせることによってエアロゾルのより詳細な動態把握に関する研究が進められています。
※劉兆岩さんは1997~2001年に、ポスドク研究員として国立環境研究所に在籍し、高スペクトル分解ライダー手法や当時日本で計画されていた衛星搭載ライダー“ELISE”のデータ解析手法などの研究を担当していました。