ライダーネットワークでの同時連続観測とデータの解析・活用
Summary
2001年の春から、アジア地域の多地点でライダーによるエアロゾルの同時連続観測を行っています。観測データを収集・解析し、広域にわたるエアロゾルの大気科学研究を進展させています。さらに、数値モデルの計算結果を改善するデータ同化の取り組みなど、ライダーの観測データはさまざまな研究にも活用されています。
ライダーネットワークの展開
大気中のエアロゾル(浮遊微粒子)をターゲットとしたライダー観測は、国立環境研究所がまだ国立公害研究所と名乗っていた時代から行われ30年以上の歴史がありますが、アジア地域の多地点で同時に連続観測を行うようになったのは2001年の春からです。それから7年が経過し、観測地点も大幅に増えました。2008年4月現在、日本・韓国・中国・モンゴル・タイの計19カ所で国立環境研究所がシステム開発したライダーによる自動連続観測が行われています(図2)。全観測地点の観測データはインターネットを経由して国立環境研究所に届けられます。観測から1時間以内にライダーのホームページで、その基本解析画像を配信しています。
その基本解析画像のほかに、ライダーの信号を解析して上空に雲が存在するかどうかを判定し、晴天域や雲より下の高度に存在するエアロゾルの量を求めます。最後にそのエアロゾルが黄砂かそれ以外の大気汚染粒子なのかを分類し、観測地点上空のエアロゾル情報を算出しています。図3は、2007年5月の31日間について、ネットワークライダーのうち10地点分の観測結果を用い、いつ、どの高度に、どれくらい、エアロゾルが存在したかを示したものです。こうした観測とデータ処理により、各地に黄砂が飛来したタイミングやその量を特定できるようになりました。
また、大気汚染起源の微粒子が黄砂よりも低い高度に定常的に存在することも読み取ることができます。これらの情報は、エアロゾルの分布やその輸送を表現する数値モデルの検証などに広く活用されています。
さらに、より多くの方々にライダーによる観測結果を見ていただくために、ライダーで観測された地上付近の黄砂の推定濃度を、環境省が発信する「黄砂飛来情報」にリアルタイムで提供しています(図4)。
データ同化への応用
黄砂を含むエアロゾルの空間分布を計算機によって計算する数値モデルが開発されています。国立環境研究所では九州大学が開発した数値モデル“CFORS”に対して、ライダーにより観測された黄砂の実際の分布をインプットすることにより、数値モデルにおける黄砂量の計算を改善する「データ同化」という手法に取り組んでいます。
“CFORS”の中にはもともと、アジア大陸の砂漠域で強風が吹くとそこから黄砂が飛散して風下へ輸送されるようなメカニズムが組み込まれています。ここに、風下側のライダーによって実際に観測された黄砂の量を情報として加えた上で数値計算をし直すと、観測結果と一致するように砂漠における黄砂の初期飛散量をより正確な結果に修正することが可能になります(図5)。また、あらゆる地点の上空における黄砂量の推定なども改善されます。
このようにしてライダーデータを用いて数値モデルの精度を改善させることができます。これによって、特に飛散量が多い発生源地域を特定して、黄砂発生量の低減化のための対策を効率よく施すための情報提供も可能になります。