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「湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究」の概要

Summary

 湖沼において難分解性の溶存有機物が増加していることを裏づけるため,まず溶存有機物の特性や起源を把握する手法を確立しました。さらに湖水中の溶存有機物の質的,量的変化が水道水源としての湖沼水質に及ぼす影響を調べました。

1.湖水中に蓄積する難分解性有機物の発生原因の解明

(1)溶存有機物分画手法の開発

 複雑で不均質な混合体である溶存有機物の特性を把握するため,溶存有機物を分画し,それぞれの画分の分布と特性を把握しました。

 まず分画の基礎となる物質として,天然水中の溶存有機物の30〜80%を占める典型的な難分解性溶存有機物であるフミン物質を選択しました。

 フミン物質は難分解性で疎水性の有機酸であることから,易分解性—難分解性,疎水性—親水性,酸性—アルカリ(塩基)性の3つの切り口を使い,溶存有機物の分画手法を開発しました(5ページ,図2参照)。

 まず最初にサンプルをろ過した水を生分解試験で易分解性—難分解性の違いにより分画します。次に,ここで分画されたものを,樹脂吸着分画手法を用いて,疎水性—親水性,酸性—塩基性の違いにより分画します。

 樹脂吸着分画手法では,非イオン性樹脂,強酸性陽イオン交換樹脂,強塩基性陰イオン交換樹脂の3つを用います(図4)。これにより溶存有機物は,フミン物質,疎水性塩基物質,疎水性中性物質,親水性酸,親水性塩基物質,親水性中性物質の6つに分画されます。ただし,多くの天然水や排水サンプルには疎水性塩基物質がほとんど存在しないことがわかったことから,研究では分画の手順を効率的で汚染されにくくするため,疎水性塩基物質と親水性塩基物質をまとめて塩基物質とし,5つに分画する手法を確立しました。

図4 樹脂吸着分画手法の概略図

(2)湖水,河川水および起源の明白な流域水の溶存有機物特性

 霞ヶ浦湖水,霞ヶ浦に流入する主要河川の水,霞ヶ浦流域内の起源の明らかなサンプル(具体的には,森林渓流水,畑地浸透水,田面流入水,田面流出水,生活雑排水,下水処理水)および霞ヶ浦由来の溶存有機物のモデルサンプルとしてヨシの繁茂する池の水とアオコを形成する典型的な藍藻類ミクロキスティスの培養後の培地を,溶存有機物分画手法を使って,フミン物質,疎水性中性物質,塩基物質,親水性酸,親水性中性物質の5つに分画しました。

 この結果,図5に示すように,すべてのサンプルでフミン物質と親水性酸が卓越しており,湖水や河川水,流域水中の溶存有機物の大部分が有機酸であることが明らかになりました。

 ただし,フミン物質と親水性酸の比率はサンプルの起源により異なっていました。森林渓流水や畑地浸透水ではフミン物質が65%以上と卓越しましたが,河川水ではフミン物質と親水性酸が同じ程度存在しました。一方,湖水や生活雑排水,下水処理水,池水では親水性酸が卓越しました。とくに池水で親水性酸がフミン物質より卓越しているのは意外で,色のついた水だからといって主要な溶存有機物がフミン物質であるとは限らないことがわかりました。

 さらに,霞ヶ浦湖水の溶存有機物分布がどのサンプルに類似しているかを明らかにするため,サンプルを類別化する統計的な手法であるクラスター解析を行いました。その結果,溶存有機物分画分布に関する限りでは,湖水にもっとも近いのは下水処理水であることもわかりました(図6)。

 これらの実験は,易分解性—難分解性の区別を行っていない生分解試験前のものですが,同様の実験を生分解試験後のサンプルについても行ったところ,生分解試験前と同様にすべてのサンプルでフミン物質と親水性酸が卓越していることがわかりました。このような結果から,湖水や河川水,流域水中の難分解性溶存有機物はフミン物質と親水性酸であることが明らかになりました。

2.溶存有機物のトリハロメタン生成能

 フミン物質がトリハロメタン生成の主要な原因物質であるかどうかを明らかにするため,霞ヶ浦湖水の溶存有機物,フミン物質,親水性画分(親水性酸+塩基物質+親水性中性物質)についてトリハロメタン生成能(THMFP)を測定しました。

 図7に示したのが,典型的な例として霞ヶ浦土浦入りのサンプリング地点の結果です。この図からわかるように,溶存有機物,フミン物質,親水性画分のTHMFPはそれぞれ28,27,31μgTHM/mgCで,親水性画分のTHMFPはフミン物質よりも大きいことが明らかになりました。他のサンプリング地点でも同様な結果が出ています。霞ヶ浦では親水性画分の方がフミン物質よりも約2倍DOC濃度が高いことから考えても,トリハロメタンの原因物質としては親水性画分の方がフミン物質よりも重要だと考えられます。フミン物質がトリハロメタン生成の主要な原因物質であるかどうかを明らかにするため,霞ヶ浦湖水の溶存有機物,フミン物質,親水性画分(親水性酸+塩基物質+親水性中性物質)についてトリハロメタン生成能(THMFP)を測定しました。

 図7に示したのが,典型的な例として霞ヶ浦土浦入りのサンプリング地点の結果です。この図からわかるように,溶存有機物,フミン物質,親水性画分のTHMFPはそれぞれ28,27,31μgTHM/mgCで,親水性画分のTHMFPはフミン物質よりも大きいことが明らかになりました。他のサンプリング地点でも同様な結果が出ています。霞ヶ浦では親水性画分の方がフミン物質よりも約2倍DOC濃度が高いことから考えても,トリハロメタンの原因物質としては親水性画分の方がフミン物質よりも重要だと考えられます。

図5 湖水,流入河川水,起源の明白な流域水サンプルの溶存有機物分画分布
エラーバーは標準偏差を表わす
図6 溶存有機物分画分布データから得られたクラスター分析樹状図
数字(距離)は類似度の相対的度合(平方距離)を表わす
図7 霞ヶ浦湖水の溶存有機物,フミン物質および親水性画分のトリハロメタン生成能(THMFP)
図中の●は測定値の範囲,上下の横線は10%と90%の値,青色ボックスの上端と下端は25%と75%の値、ボックス内のラインは平均値。
THMFPの単位はμg/mgC(炭素量1mgあたり何μgのトリハロメタンが生成されるかを表わす量)