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黄砂の研究をめぐって

 黄砂を始め,地球規模の温暖化や気候変動予測に重大な影響を及ぼしている全球的エアロゾルに関する調査研究を進めるため,1995年から国際共同研究として地球大気化学国際協同研究計画(IGAC)の中でエアロゾルの性状特性研究がスタートするなど,砂塵系エアロゾルに関する研究が今注目されています。

NIES・JAMSTEC・NASA・APEX

世界では

 IGACの中で進められているエアロゾルの性状特性研究はACE(Aerosol Characterization Experi-ment)と呼ばれ,1995年にはACE-Iとしてオーストラリア周辺の海域上を,1997年からはACE-IIが大西洋上をフィールドとして行われました。砂塵系エアロゾルの代表格であるサハラダストもその対象物質でした。そして,黄砂を重要な対象物質としたACE-ASIAが1999年~2002年まで行われました。ACE-ASIAでは,米国NASAやNCAR(The National Center for Atmospheric Research)の観測用飛行機や観測船,衛星による組織的調査が黄砂の発生する春季を中心に行われたほか,中国,韓国,日本の研究者もそれぞれ独自の観測を行い,データの共有化を図りました。

 飛来回数・量の増加傾向を示す近年の黄砂現象について,発生原因を含めた環境問題として対処することも必要であるという認識が各国政府レベルで広まり,黄砂対策も含めた大きな枠組み形成のための話合いが日中韓三国環境大臣会合や国連のUNEP,アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP),砂漠化対処条約(UNCCD)において積極的に行われ,現在GEF(Global Environment Facility)プロジェクトの重要課題として取り上げられるようになってきました。

日本では

 黄砂現象は,視程障害を起こし交通網へ影響を及ぼす現象として,また雲核形成物質として,あるいは海底堆積物への寄与など,古くから気象学分野や地球化学分野で研究対象となってきました。しかし,環境科学的見地からの研究が始まったのは,世界的にもそう古くありません。

 日本で黄砂を対象とした環境科学分野のプロジェクト研究が本格的に始まったのは2000年以降です。文部科学技術省科学技術振興調整費によるADEC(Aeolian Dust Experiment on Climate Impact)プロジェクト(2000~2004年度)が開始され,気象研究所が中心となってタクラマカン砂漠をフィールドとして風送ダストの舞上がり機構や大気中への供給量調査,風送時の放射強制力評価を行っています。また,文部科学技術省科学研究費による特定領域研究「東アジア地域におけるエアロゾルの大気環境インパクト」でも,黄砂を含む東アジア地域で発生するエアロゾル全体の放射収支や海域への影響評価の研究を進めています。黄砂問題は地球規模での温暖化影響のほか,地域的大気汚染の観点や砂漠化問題とも関連しており,環境省でも黄砂に関するプロジェクトを推進しています。

 その他,黄砂の発生源が中国およびモンゴルの砂漠・乾燥地帯であることから,従来から行われてきた政府間ベースあるいはNPOやNGO活動による砂漠化防止・植林活動等と関連する部分があります。最近そのような活動目的に黄砂発生の防止対策という考えが加わりつつあり,発生源対策に直結する技術開発の萌芽も見逃せません。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では,本環境儀で紹介した中国との環境技術共同研究のほかACE-ASIA等に参加し,研究者が個々に黄砂の研究を行ってきました。その成果は内外の学会誌に多数の黄砂に関する論文として発表され,黄砂研究の核となる研究機関として評価されています。そして,近年の黄砂現象の増加の究明のため,2001年から環境省地球環境研究総合推進費による大型プロジェクト「北東アジア地域の黄砂による環境影響の解明」を本格的に立ち上げました。このプロジェクトの特徴は,中国内陸部で発生する黄砂のうち,

a.ゴビ砂漠と黄土高原地域から発生する黄砂を対象とし,

b.大気環境基準値を超える黄砂現象がどのような輸送機構で地上にもたらされるのかを解明すること,および

c.北東アジア地域の生活環境に影響を与える黄砂の発生地を特定し,対策につながるような情報提供やモデルを構築することを目的としています。

 つまり,プロジェクト全体をあるテーマで括るのではなく,対象地域ごとに研究重点を変えて対応しようという地域密着型の研究方針を立てていることです。

 それゆえ,北京に影響を及ぼす黄砂については,中国政府も身近な問題として共同研究成果に強い期待を寄せています。中国との共同研究では多点ネットワーク観測が重要で,国立環境研究所が持ち込んだ中国初のライダー連続観測が威力を発揮しています。そのような最新の共同観測体制の円滑な運営には観測手法の統一化が重要であり,本プロジェクトの側面としてJICA支援のもとモニタリング技術の移転など国際貢献も併せて行っています。もちろん,他プロジェクトと同じく地球規模の温暖化影響に有用なデータも多く得られており,世界の黄砂研究グループとの活発な交流を行っているのはいうまでもありません。

黄土(黄砂の堆積層)のサンプリング現場で