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海洋の二酸化炭素吸収に関する研究をめぐって

 海洋が地球全体の炭素循環にどのように関わっているかを理解するための観測研究が世界で進められています。観測成果の活用によって,気候予測モデルの精度向上をめざしています。

図:世界の海洋CO2モニタリング航路

世界では

 広大な海洋の観測をカバーするため,世界気候研究計画(WCRP:World Climate Research Programme),地球圏−生物圏国際共同研究計画(IGBP:International Geosphere-Biosphere Programme)のもとで,世界海洋循環実験計画(WOCE:World Ocean Circulation Experiment)と全球海洋フラックス合同研究計画(JGOFS:Joint Global Ocean Flux Study )という国際共同研究の一環として海洋CO2観測が進められました。一つは大洋の断面観測であり,海洋表層から深層に至るCO2分布を明らかにする観測が,両プログラムの協力で進められました。海洋表層のCO2観測は,海洋観測船による観測の他,貨物船などの観測を加えてデータ蓄積が図られてきました。2002年からはEUの研究グループが共同で大西洋3航路の貨物船と南極観測補給船での表層CO2観測を本格開始しましたが,この研究には国立環境研究所が協力しています。また,太平洋でも貨物船利用の新たな観測が米国・カナダ・オーストラリアの研究機関で検討されていて,その実現が期待されています。

 観測データの多くは,米国のCO2情報分析センター(CDIAC:Carbon Dioxide Information Analysis Center)のOceanCO2ページから,多くの研究者が活用できるようになってきました。

日本では

 わが国では,大学と各省庁機関が相当な数の海洋観測船を運用しており,国際的な海洋観測研究プログラムに貢献してきました。CO2研究も,多くの観測船で行われています。海洋表層観測では,気象庁や東京大学の観測船による測定データが国際的データベースで公開され,世界の解析研究に貢献しています。日本−パナマ航路では1999〜2000年に気象庁・交通エコモ財団の観測が行われました。本誌で紹介した国立環境研究所による太平洋の貨物船を利用する観測は,大気海洋研究者との共同研究にも利用されています。大洋断面観測では,2003年にわが国最大の研究船海洋科学技術センター「みらい」による南半球一周航海が実現することになり,この分野への大きな国際貢献となると期待されます。

 わが国には,とくに太平洋の観測を分担することが国際的に求められ,国内の海洋研究機関はCO2観測分野の協力体制づくりを進めています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では,地球環境研究センターのモニタリング観測と連携して,自然の炭素吸収源の測定を継続的に行うとともに,得られたデータの解析と国際協力を通じて,陸域・海洋吸収源の実態把握と今後の変動予測をめざしています。

炭素吸収源に関する重点プロジェクト

 自然の炭素吸収源の作用を明らかにすることは,将来の温暖化の影響評価と対策の必要性の検討に重要です。このため,大気・陸域・海洋の観測研究を行っており,海洋吸収に関する研究は,地球環境研究センターの地球環境モニタリング事業と連携して行っています。

 1.大気中酸素濃度および炭素同位体比を指標にしたグローバルな陸域・海洋二酸化炭素吸収量の変動解析に関する研究

 沖縄県の波照間島と北海道の落石岬にある大気観測所で自動採取している大気および豪州・北米航路の定期船舶で採取している大気について,大気中CO2の炭素・酸素同位体測定を行っています。また,最近は酸素窒素比の測定も始めました。いずれも自然のCO2吸収源が今後の気候変動でどう変化するかを解明する手がかりを得ようとするものです。

 2.太平洋域の人為起源二酸化炭素の海洋吸収量解明に関する研究

 太平洋の定期貨物船による観測データの解析からCO2吸収の分布と変動を把握する研究を続けています。観測データはデータベースとして公開し,国際的な利用研究の促進をめざします。海洋のCO2吸収分布の表現には「気候値」と呼ばれる長期平均値がまず重要であり,そのためには長期の安定した観測継続が必要です。さらに,年々の変動を太平洋という広域で明らかにするには,できるだけ高頻度の観測を面的に展開しなくてはなりません。このことを太平洋諸国の国際共同で実現するために,中核となる観測を継続しています。

写真:海洋CO2観測協力船