コラム「海洋のCO2吸収メカニズム」
大気と海洋の表層の間にはガス濃度に差がなくても,世界の海洋で年間約90億tの炭素がCO2としてガス交換されています。これは,大気中に存在し,5400年という半減期で放射壊変する炭素の放射性同位体14Cの海水濃度から決められたもので,比較的正確な推定値です。
一定量の空気と海水を密閉したビンに入れてよく振ると,海水と空気は平衡状態になり濃度差がなくなります。このときガスの交換はあっても,大気から海水への移動量と海水から大気への移動量は等しく,正味の移動は起こらないことになります。実際の海洋は熱帯から寒帯まで広い気候帯に分布し,水温・塩分のような海水の物理的環境,表層海洋の生物生産の大きさなどがさまざまに異なります。これらが大気−海洋のCO2濃度の差を作り,風が存在すると,大気−海洋間でCO2の実質的な移動が起こります。その移動は,大気と海洋の濃度差に比例して大きくなります。
大気の場合,CO2の濃度は主成分である窒素と酸素を含む全分子数に対するCO2の分子数の比,分率(百万分の1=ppm)で表現します。海水の場合,大気との濃度差を表現するときには,溶存するガス状CO2の圧力,分圧で表現します。分圧の単位は通常μatm(百万分の1気圧)です。大気の分率に気圧をかけると分圧になるので,分圧の差を求めることができます。大気と海洋の移動はこの分圧差に比例して起こります。大気の分圧が高ければ大気から海洋に移動が起こり,海洋の分圧が高ければ逆の移動が起こるので,気体交換は大気−海洋間のCO2濃度差を解消する作用を示します。
海洋表層のCO2分圧は,CO2分圧の高い亜表層の海水との混合で上昇,植物プランクトンの光合成による無機炭素の利用で低下します。水温変化や炭酸カルシウム(円石藻,有孔虫のようなプランクトンの殻)形成でも変化します。