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HarmoNIES No.4

環境を再現し、化学物質の動きを解き明かす

Published on March 2022

環境を再現し、化学物質の動きを解き明かす
 
− シミュレーションで化学物質を追いかける
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 目の前の川の水を手ですくってみた時、その水に含まれる微量な成分がどこから来てどこへ行くのか、知ることはできるのだろうか。 遠くの工場から流れてきたのかもしれないし、降ったばかりの雨に混じっていたのかもしれない。 とにかく、現実に起きていることの「すべてを測る」ことは不可能なのである。



キーワード:G-CIEMS、化学物質、環境化学、環境モデリング、多媒体動態モデル、曝露評価

 

”そうすることで、例えば河川中の農薬の濃度が 季節ごとにどのように変化するかを シミュレーションしたり、原発事故由来の放射性物質の動きを把握したりすることができる。”



    例えば、目の前に流れる小さな川の水を両手ですくってみたとして、その水に含まれている微量な成分が、どこから来てどこへ行くのかを正確に知るためには、途方もなく膨大で細かい調査が必要だ。はるか遠くの工場から流れてきているのかもしれないし、ついさっきまで降っていた雨に混じっていたのかもしれない。下流では湖に流れ込んだり、川底に溜まったり、魚に取り込まれたりするかもしれない。とはいえ現実的には、起きていることを“全部を測る”ことは不可能だ。



    学生時代からプログラミングが好きで、アリが巣にエサを集める様子をシミュレーションしてみたことが入り口となって、いまは環境中の化学物質をシミュレーションで追いかけている今泉さんにお話を伺った。まず、化学物質がいかに身近なものか考えてみよう。



化学物質—良き相棒、隠れた短所

写真1: モデル分析のためデータ処理をしている今泉さん

    普段あまり意識していないかもしれないが、私たちは生活でたくさんの化学物質を使い、少しずつ環境に流している。例えばこの数日を思い出してほしい。歯磨き粉、シャンプーやリンス、石鹸、ヘアスプレーを使っただろうか。人工甘味料や香料を使った食品を口にしたかもしれない。これら日常のアイテムには化学物質が使われている。他にも燃料、塗料、殺虫剤、消毒薬というふうに、例を挙げるだけでもキリがないほどの種類の化学物質が使用され生活を支えてくれている。だから化学物質は生活に欠かせない良き相棒であるのは間違いない。
 
 
    しかし時おり、その相棒の
秘密の短所が見つかることがあるという。吸い込んだり、飲み込んだり、触ったりしているうちに、頭が痛くなったり、目が痛くなったり、時にはガンなどの重い病気になったり、遺伝に悪い影響を与えることもあるのだそうだ。もしその化学物質が環境中に溶け出したり空気中に広がったりしてしまうと、全く別の場所で知らない誰かや動植物にも影響を及ぼしてしまうかもしれない。これはとても深刻に受け止めなければいけないことだと思う。取り返しのつかないことになってしまう前に、悪さをしている化学物質がどこから来て、どこへ行くのかを知る必要がある。


    そこで今泉さんは、みんなの暮らしと環境を守るために、環境中にどのように化学物質が広がり、分布していくのかをシミュレーションする方法を開発している。


化学物質の動きを探るシミュレーション

    それにしても環境中の化学物質の動きをどうしたら知ることができるのか?化学物質はとても小さく、もちろん目に見えるサイズではない。水に溶けてしまったり大気中に広がってしまったりすると、目に見える形で追うことはできない(図1)。それならどうやって調べるのか?この質問の答えを探るため、モデルという考え方を使うのだと今泉さんは言う。どういうことかというと、コンピュータ上に身の回りの空間を模擬的に作り、化学物質の環境中での動きを計算する。いわばコンピュータの中に“モデル環境”を作ってしまうのだ。 



    環境といっても、例えば大気、海や川、土、砂や泥などいろいろある。それぞれを箱に見立てて(図2)、箱の外側との出入りと比べて化学物質の動きを計算する、環境全体のモデルである(G-CIEMS)。箱を細かくすることで空間的な広がりを計算することが可能になるのだそうだ。この
モデルの予測計算により、調査していない地域でも化学物質の動きを追いかけることができる。そうすることで、例えば河川中の農薬の濃度が季節ごとにどのように変化するかをシミュレーションしたり、原発事故由来の放射性物質の動きを把握したりすることができる。素晴らしい。しかし、知りたい化学物質の種類によってその広がり方はさまざまである。そのため知りたい化学物質にふさわしいのが環境全体のモデルなのか、それとも特に大気に特化したモデルなのか、沿岸海域のモデルなのか、というふうに特に注目する“環境”を選ぶことも重要で、それらを複数組み合わせて計算する必要がある場合もあるのだそうだ。 



モデル研究のこれから

    化学物質はすでに数万以上の種類がある。しかも新たに自然界から発見されたり、人間が意図して作り出したり、または偶然に副産物として発生したりして、その種類は増え続けている。これからもずっと増え続けるだろう。私たちにとって良き相棒となっていま使用されているそれら化学物質のうち誰かの秘密の悪い一面がいつか露わになるかは、今のところ誰にもわからない。また悪さをしているのがどの化学物質なのかわからない場合さえあるという。いずれにしろ今泉さんは、今後も無限に種類が増えていくとも思える化学物質の、できればすべてのトータルリスクを把握することを目指して研究に励んでおられるのだ。


多媒体環境動態予測モデル「G-CIEMS」

放出された化学物質は、大気、河川、湖沼、土壌などのさまざまな環境中を移動する。どれだけの物質がいつ、どこで環境中に放出されるかを把握することがとても重要となる。
「G-CIEMS(Grid-Catchment Integrated Environmental Modeling System)」は、GIS(地理情報システム)データに基づくモデルで、大気と河川といったような複数の媒体間の移動と媒体内での移動を同時に計算し、各地点やそれぞれの媒体の物質濃度を推定することができる(図3)。 
 

図3: G-CIEMSの計算結果の例 | プレチラクロール=除草剤の動的変化

Webkis-Plus (化学物質データベース)

化学物質データベースWebkis-Plusでは、化学物質安全性情報提供システムに登録されている化学物質や環境省などが公開している資料について、リスクに関する情報や分析方法を様々な方法で検索できる。法規制等、曝露関連、健康影響、生態影響試験、リスク評価・有害性、分析法の6つのカテゴリーから、さらに詳しく階層的に分類されている(図4・5)。

https://www.nies.go.jp/kisplus/

図4・5: Webkis-plusのデータ出力
の例 | プレチラクロール=除草剤
https://www.nies.go.jp/kisplus/

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