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2015年12月28日

将来のライフスタイルを描く

特集 社会の持続可能性と個人の幸福
【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「持続可能社会転換方策研究プログラム」から】

田崎 智宏

 平成23年度から5年間の計画で、「持続可能なライフスタイルと消費への転換に関する研究」と題した研究プロジェクトを実施しています。平成26年2月号にて、持続可能なライフスタイルと消費をめぐるこれまでの議論やこれからのライフスタイルの変化を中心に本プロジェクトの研究結果の紹介をしました。本稿では、将来のライフスタイルを描く研究レビューの成果と実際に我々が上記研究プロジェクトで採用した方法を紹介します。本稿で方法をとりあげるのは、2つの理由があります。一つは、研究においては結果だけでなく、それを得るための方法も重要と考えられていることに関係します。方法によって、得られた結果の正確性や信頼性が異なったり、新たな知見が得られたりするようになるのですが、将来のライフスタイルを描く方法論はまだ十分に発達していません。方法論の研究も大切なのです。もう一つは、変化が大きく先行きが見通しにくい世の中、将来を描く方法論を知ることで、読者の皆様が将来を考えるうえで役立つことがあるだろうと考えました。

将来を扱うこと

 将来はこれから先に起こることですので、それを100%明らかにするということは不可能です。それにも関わらず、将来を探る試みが数多く行われてきました。将来のライフスタイルを描く研究方法の前に、将来を扱う研究についてお話します。

 将来を扱う研究で明らかにしようとすること、すなわち問いの立て方は大別すれば3つあります。「何が起こるか」「何が起こりえるか」「何が起こるべきか」の3つです。最初の問いである「何が起こるか」ということに100%答えることは難しくても、部分的に「何が起こるか」を理解するだけでも、全く何も知らないよりは将来に備えることができます。「何が起こるか」を明らかにすることを「予測」といいます。予測の場合、基本的には、世の中の多くの物事はこれまでどおりである、あるいはこれまでどおりに変化すると考えます。例えば、人口予測であれば、一人の女性が生涯に産む子供の合計数の平均、いわゆる合計特殊出生率が減少していますので、その減少の時系列変化のカーブを将来にあてはめるなどして、将来の人口予測を行います。将来の見通しが難しい場合には、幅をもって推計することが行われます。このように明らかにする事柄によっては、それなりの精度で将来を見通すことができます。突然の大きな変化がなければです。

 しかしながら、将来のライフスタイルを考えることは、人口予測よりもはるかに難しい試みです。その理由の一つは、ライフスタイルというものが複数の内容で構成されているためです。例えば、衣食住と言葉があるように、何を着るか、何を食べるか、どのようなところに住むか、これらを総体的に捉えることになります。将来のライフスタイルを検討するのが難しいもう一つの理由は、ライフスタイルが多様だからです。着るもの、食べるもの、いろいろな選択肢があり、いろいろな好みがあります。世代によっても好みや価値観が異なります。多様であっても、その決定因が把握できれば、まだ予測の可能性があります。しかしながら、あなたのライフスタイルや好み・価値観を決定した要因をあなた自身説明できるでしょうか。それは容易でないことがすぐに分かるはずです。

 したがって、「何が起こるか」という予測はほぼ不可能で、「何が起こりえるか」あるいは「何が起こるべきか」というアプローチに頼らざるを得ません。我々の研究プロジェクトでは、「何が起こりえるか」というアプローチで、将来のライフスタイルを検討してきました。

 なお、皆様が将来を考えたり、話し合ったりするときにおいても、上記の3つの問いの立て方を意識することは有用だと思います。

将来のライフスタイルの提示の仕方

 将来のライフスタイルを描く試みは、我々の研究プロジェクトが最初ではありませんが、そのような研究はそう多くはありません(例えば、欧州の研究プロジェクトであるSPREAD、NPOのForum for the Future (FfF)と英国の小売業者であるセンズベリーズ社ならびに世界的な消費財メーカーであるユニリーバ社、Levi Strauss社、英国エネルギー研究センター、木村ら、石田らによるものがあります)。このような研究を我々がレビューしたところ、大別して、3つがあることがわかりました。

 1つ目は「賛同アプローチ」というべきもので、望ましいライフスタイルの方向性を提示し,生活者の賛同を求めていくものです。「何が起こるべきか」ということをベースに、規範的に将来のライフスタイルを提示することになります。例えば、環境によいライフスタイルを提示することです。

 2つ目は「個別定量化・具体化アプローチ」というべきもので、いくつかのライフスタイルを提示したうえで,それぞれの環境負荷を定量化し、それぞれのライフスタイルを具体化するものです。主要な要因に着目し、それらがこうなるとこのようなライフスタイルが増えてくる、主流化してくるというように、探索的に将来のライフスタイルを提示するものです。「何が起こりえるか」を検討するこのアプローチでは、どういったライフスタイルが増えてくると、環境負荷が増大するのか、減少するのかが見えてきます。これを基礎情報として、ライフスタイルを誘導・転換する方策を検討することにつなげていきます。

 3つ目は「創発アプローチ」というべきもので、将来のライフスタイルに適合する新たな商品・サービスを具体的に検討・提示するものです。ライフスタイルを創るのは人々であり、その実現をサポートする立場をとります。特定のニーズに特化して検討が行われ、それをもとに将来のライフスタイルが描かれます。「何が起こりえるか」と「何が起こるべきか」という問いの両方に立脚していて解釈が難しいですが、「何を起こすか」という問いに関わるアプローチと私は理解しています。

将来のライフスタイルを発想する

 将来は、これまでの延長である面と新しい変化が生じる面がある割合でミックスしたものと考えられます。変化が大きい時代ほど、また、長期に将来を見通す場合ほど、後者を考慮しなければなりません。我々の研究プロジェクトでは、図1に示すように、「1」でこれまでの延長上の将来を見通したうえで、「2」で変化の兆しを以下に述べる発想法で抽出し不連続な変化を伴う将来を予見しました。これまでの多くの将来発想は、このような区別をしてきませんでした。区別をすることで、何が将来の分岐点になるかを理解しやすくなるというメリットがあります。

図1 将来のライフスタイルを描くための2 つの着眼点
この模式図では、次の経時変化が示されています。まず、黄色の太矢印で示されるライフスタイルの主要トレンドは、外部要因の影響を受けて起こりうるライフスタイル幅を拡げ、これまでの延長状の将来である「1」のライフスタイルを形成します。また、緑色の丸で示される小数派に見られていた変化の兆しが主要層にも影響し、茶色の太矢印のように「1」とは異なる「2」のライフスタイルを台頭させます。小さな矢印で示されるように、なかには「2」が主流化する場合もあります。また、変化の兆しが小数派に留まり、それが消滅に至ることもあります。

 延長的な将来であれば、過去の法則から演繹(推測)したり、過去の出来事から帰納的にどういった法則で出来事が起きているかを推察して、将来を導出することができます。しかしながら、不連続な変化はそれらの思考方法の外側から与える必要があります。完全な想像の産物で与えることも可能ですが、我々は2030年までの将来、近未来を想定したので、そのような変化の兆しは現在の地球のどこかで起き始めているという立場をとりました。博報堂が整備している「スキャニング・マテリアル」と呼ばれる将来の変化の兆しと思われるニュース記事等をデータベース化したたくさんの情報のなかから、ライフスタイルの変化以外の変化、例えば、新しい技術や技術利用の変化、新しいビジネスや公共サービス、日本社会や国際社会の動向を報告している166のマテリアルを用いて、将来起こりうる変化を想起しました。そして、これに「1」の生活者やライフスタイルを掛け合わせると何が起こるかを検討しました。発想法においては重要な要素が2つあります。一つは発想者自身、もう一つは発想の刺激です。上記のマテリアルは後者の刺激として使いました。前者については、ライフスタイル・消費に関する有識者・専門家に依頼して発想作業を行っていただくこととしました。同じ情報でも、ある分野に深く関わっている方ほど、より的確な発想を行えるという前提をとったということを意味します。

描かれた将来のライフスタイルと今後の研究展開

 このようにして描かれた本プロジェクトの成果は、こちらのホームページ(http://www.nies.go.jp/program/psocial/pj2/)に掲載してあります。16のライフスタイル変化、「将来、こういった人々が増えているのではないか」という8つの未来仮説(「未来イシュー」と呼んでいます。)、4つの未来シナリオが主な成果です。また、読みやすさも考慮したパンフレットも用意してあります。今後は、描かれたライフスタイルが人々にどのように受け止められるのかという研究、ならびに、描かれたライフスタイルを実現するための方策やそのようなライフスタイルがもたらす環境負荷の大きさを推計する研究を進めていく必要があると考えています。

(たさき ともひろ、資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長)

執筆者プロフィール

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ライフスタイルという難課題と向き合って数年。未来を創っていく能動的な立場と未来の潮流に身を任せる受動的な立場とで見えてくる将来が違ってくることを強く認識しました。あなたはどちらですか?

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