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2000年3月31日

輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究(特別研究)
平成8〜10年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-30-2000

1.はじめに

表紙
SR-30-2000 [3.1MB]

 環境基本法の基本理念として「環境への負荷の少ない持続可能な社会の構築」が掲げられるなど、「環境への負荷」の低減は環境政策の根幹である。そのための具体的な施策立案にあたって、さまざまな人間活動について、環境への負荷発生の実態を具体的に明らかにし、これらが人間や生態系にどのような影響を与えるかを総合的に評価する手法を整備することが急務である。一方、製品や技術システムについて、原料採取から生産、使用、廃棄に至る一連の過程における環境への影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)手法が、内外で関心を集めているが、どのような項目を優先的に把握し、環境負荷がもたらす影響の総合的な評価をどのような方法で行うかについては、今後の研究に待つべきところが大きかった。
 こうした背景に立って、本研究では、今日の社会を特徴づける「人やモノの流れ」を支える技術である自動車交通等の輸送システムおよび廃棄物処理・リサイクル等の循環システムを対象とした具体的な事例研究を軸にして、環境負荷およびこれによる環境影響を総合的に評価する手法を開発することを目的とした。

2. 研究の概要

(1)環境負荷項目の同定と環境影響の総合化手法に関する研究

1) 海外のLCA手法において、異なる環境影響カテゴリー間の統合評価(Valuation)のために提案されている係数とその設定根拠をレビューし、問題ごとの影響の種類や大きさの想定の相違に起因する係数の大きな相違があることを明らかにした。

2) LCAのインパクト評価において、Valuationの一手法として、専門家などの判断を用いるパネル法があげられる。本研究では、米国環境保護局(EPA)による比較リスク評価(CRA)の考え方を取り入れて、研究期間中に毎年度1回ずつワークショップ形式の会議を開催し、環境問題領域と保護対象のマトリクスからなる環境影響の総合評価の枠組みを提案するとともに、影響カテゴリー間の重み付けの試行を行なった。
 第1回、第2回のワークショップによって、多岐にわたる環境問題を15の環境問題領域リストに整理するとともに、保護対象(環境問題の影響が行き着く先)を、「健康・生存基盤」、「生活・生産基盤」、「生物」、「精神的影響」の4種類に分類した。また、これらの問題領域と保護対象の組み合わせについて、投票による重み付けを行った(図1)。第3回には、第2回までと共通の専門家および公募によって集めた市民約50名の参加を得て、15の問題領域のうち、第2回会議参加者による重要度評価の高かった6つの問題領域と、4つの保護対象の組み合わせについて、一対比較法を用いた重要度比較を行った。その結果、個人間では大きなばらつきがみられたが、集団としてみた場合には、専門家と市民との間で大きな差異はみられなかった。これには、投票前に行なった専門家の講演、最初の投票と再投票の間の小グループでの討論・質疑応答、評価結果の即時集計・提示などの情報提供を行ったことが寄与していると見られる。環境影響の総合的な評価を、専門家による自然科学的知見のみに依拠するのではなく、多様な主体の参加による討議を交え、情報を共有しながら実施する手法として、こうしたワークショップの有効性が確認された。

(2)地域性を考慮した環境負荷とその影響の評価手法の開発に関する研究

1) 原油、石炭、鉄鉱石等の輸入資源の採掘、輸送やこれらの精製段階での環境負荷について分析した結果、海外から原料を輸送する船舶から排出される大気汚染物質が、ライフサイクルでみた排出量に大きく寄与することが明らかとなった。従来のLCAで行われてきた排出量を合算した後に影響評価を行う方法ではなく、どの地域に排出されるかを考慮した影響評価を適用すべきと考えられる。

2) 汚染物質の排出要因となる人間活動、汚染物質の排出量、環境中の汚染レベル、汚染による健康リスクの分布に関する地理的データと、これら各段階の関係を記述するモデル群からなる総合的な情報システム(仮称:バーチャルワールド)のプロトタイプを構築した。このシステムを用いたケーススタディとして、工業地帯を含む首都圏の一地域をとりあげ、ベンゼンなど数種類の有害大気汚染物質について、固定発生源および自動車からの推定排出量に基づく濃度シミュレーションを行った。実測結果との照合から、このシステムが有害大気汚染物質のリスク評価に適用できる見通しが得られた。

3) また、上記のような地域ごとの詳細なリスク評価モデルに加えて、大気への排出について、発生源の形態と周辺の人口分布を考慮した拡散・暴露評価モデルを構築した。このモデルは、大気中に放出された汚染物質の拡散予測計算を行ない、周辺の人口集団が呼吸で吸い込む量の割合を予測濃度と呼吸量から求めるものである。火力発電所の煙突からの排出(日本全国平均)と、東京都内を走る自動車からの排出による累積暴露量を排出源から100kmの範囲で比較すると、この割合は前者では8×10-6であるのに対し、後者では10-4を上回り、後者のほうが、人口集団が吸いこむ空気に含まれる割合が1桁以上大きいとの計算結果が得られた(図2(c))。
 これらの結果は、LCAにおいて排出量を影響の量に換算するプロセスの実用的な手法として利用可能であり、とくに発生源と人口集団の位置関係という暴露評価の考え方を反映させた点に特色がある。(2.3.1)

(3)自動車等の陸上輸送システムに関する事例研究

1) 自動車の生産および走行に係る大気環境負荷の算定を行った結果、CO2では走行段階で生じる負荷が8割以上を占めるが、他の物質では走行段階以外にも大きく寄与するプロセスが見出された(図3)。たとえば、NOxでは車両生産のための資源や燃料の原産国からの海上輸送が無視しえない寄与を示した。また、NMVOC(非メタン揮発性有機化合物)については、走行時の排ガスよりも、給油時の揮発など燃料供給に関わる排出の寄与が大きく、車両の塗装による影響も無視できないことが明らかとなった。

2) ガソリン車、ディーゼル車、電気自動車といった異なる車種間の比較において生じるトレードオフ関係を整理した結果、少なくとも、地球温暖化など燃料消費効率に関わる問題、車両生産のための資源に関わる問題、排ガスを中心とする大気への排出物の健康影響、の3つの問題を考慮した評価が必要と判断した。

3) 路面電車のライフサイクルにおける大気環境負荷を算定した結果、軌道建設や車両製造など、走行段階の直接エネルギー消費以外の間接的な寄与が自動車に比べて大きいこと、その結果、直接エネルギー消費のみで比較する場合よりも路面電車の自動車に対する優位性は相対的には小さくなるものの、輸送人・kmあたりのCO2、NOxについて、数十%の削減効果が得られることを明らかにした。

(4)廃棄物処理・リサイクル等の物質循環システムに関する事例研究

1) LCAにおいて廃棄物を取扱う場合の手法上の問題点についてレビューし、同時に焼却処理される廃棄物中の多様な構成物に対して、処理に伴って排出される汚染物質量を対応づけるための配分(アロケーション)方法に特に注意を要することを指摘した。

2) リサイクル促進による環境負荷削減可能性評価の事例研究として5種類の飲料容器(スチール缶、アルミ缶、ガラスびん、紙パック、PETボトル)をとりあげることとし、まずこのうち3種類(スチール缶、アルミ缶、ガラスびん)について、ある自治体における飲料容器廃棄物の発生、収集、再利用、処理処分等のマテリアルフローの実態調査を行った(図4)。その結果、従来「リサイクル率」と呼ばれてきた指標の定義が容器の種類によりかなり異なること、定義を揃えた場合には、従来の数値とかなり異なる場合があることを明らかにした。

3) また、これらの飲料容器の廃棄物としての処理処分プロセス、リサイクルプロセス、新容器生産プロセスの各々について環境負荷量のインベントリを作成した。リサイクル促進についてのシナリオを設定し、これらのデータをもとにリサイクル促進によるライフサイクルでの環境負荷の増減を定量化した。また、飲料容器に関わる環境負荷量を、負荷の項目ごとに当該自治体全体における環境負荷量で除した後、CRA手法で得た環境影響カテゴリー間の重みを与えることによって、総合的な観点から結果を比較した(図5)。飲料容器のリサイクルは、大量生産・消費・廃棄に伴う問題の改善という点での効果が大きいことを明らかにした。

4) 自動車バンパのリサイクルを事例研究の対象の一つとして取り上げ、①そのまま廃棄するケース、②再びバンパ材料として利用するケース(バンパtoバンパリサイクル)、③スプラッシュシールド(床下の泥よけ)と呼ばれる他の自動車部品の材料として利用するケース(カスケードリサイクル)の比較を行った。リサイクルにより廃棄物量は減少するが、エネルギー消費や大気環境負荷に関しては、②のバンパtoバンパリサイクルでは、材料の性質維持や成形工程の複雑化等の技術的問題のために効果が減殺され、③のカスケードリサイクルのほうが有利との結果を得た(図6)。

3. 今後の検討課題

 本研究は、LCA自身の手法開発を念頭におきながらも、より広範な目的に利用可能な、汎用性、応用性の高い手法開発を進めてきた。たとえば、地域性をとりいれたインパクト評価手法に関する本研究の成果は、リスク評価のための情報システムのツールとして、平成11年度から開始した新たなプロジェクト研究において継承、発展させている。
 一方、本研究では「輸送システム」「循環システム」を評価対象のケーススタディとして取り上げたが、これらの分野でより「環境によいシステム」を提案、普及させていくことの重要性に触れておかねばならない。本研究でこうした手法に取り組んだのは、「環境によい」ことに合意が得られるような評価尺度を作ることが、これらの開発・普及に不可欠と考えたためである。本報告書では、路面電車と自動車の比較、飲料容器リサイクルの効果、バンパリサイクルの効果などの例を通じて、評価手法が実務に活用しうることを示したが、こうした実証的分析をより多くの具体的事例について積み重ねることにより、真に環境改善効果の高い対策が実行に移されるよう、今度とも研究・実践の蓄積が必要である。
 むろん、LCAの手法開発についても、引き続き研究を深めるべき点が多く残されている。課題名に掲げた「環境影響の総合評価手法」についての本研究の成果は、初期的段階のものであって、利用者から期待される手法の一部にすぎない。「総合評価」を具体化する手法の開発について今後ともさらなる研究の発展・蓄積を図ることが、環境政策の支援ツールとしてLCAを発展させる上でとくに重要な課題である。

〔担当者連絡先〕
国立環境研究所社会環境システム部 森口祐一
Tel 0298-50-2540, Fax 0298-50-2572

用語解説

  • LCA(ライフサイクルアセスメント)
     製品やサービス、技術システムなどについて、原料採取から、材料生産、製品製造、使用、維持管理を経て廃棄に至るまでの一連の過程で、どのような資源をどれだけ環境から取りこみ、どのような汚染物質をどれだけ環境に放出するかを調べ、それらが環境に与える影響を総合的に評価する手法。
  • 異なる環境影響カテゴリー間の統合評価(Valuation)
     LCAでは、評価対象(製品など)が環境に与える影響として、地球温暖化、オゾン層破壊、大気汚染、水質汚濁などのさまざまな環境問題(LCAでは環境影響カテゴリーと呼ぶ)をとりあげる。このため、個々の環境影響カテゴリごとの評価を行なうのみでは、多くの数値が並ぶことになり、環境に「全体として」どれだけの影響があるのかがわかりにくく、AとBとではどちらがよいのか、といった問いに答えにくい。そこで、複数の種類の環境影響について、同じ尺度の上で重要度が比較できるよう、単一ないし少数の指標に集約するプロセスを「統合評価(Valuation)」と呼ぶ。
  • インパクト評価
     対象とする製品等のライフサイクルにおける資源の消費量や汚染物質の排出量を定量化(インベントリ分析と呼ばれる)した後、これらがどのような環境問題(影響カテゴリーと呼ばれる)と関係し、どれだけの寄与を与えるかを明らかにし、さらに必要に応じて複数の種類の環境影響について重み付けした上で加算して、環境への負荷の量を環境への影響の大きさに換算する手法。
  • 比較リスク評価(Comparative Risk Assessment)
     元々は米国環境保護庁(EPA)が未解決の環境リスクに対する対策の優先度を決めるために開発した手法。可能な限り科学的・定量的なリスク評価を行なってその情報を共有した上で、専門家や行政官だけでなく、さまざまな主体の参加のもとに、価値判断を加味して問題の重要度のランク付けを行なう方法。
  • 一対比較法
     多数の選択肢について、その中の2項目を組み合わせた「一対」ごとに「どちらがどの程度重要か(優れているか、好ましいかなど)」を比較する質問を繰り返すことによって、多く項目の間での重要度の大小や優劣、選好などの順序を調査する手法。
  • トレードオフ
     二律背反。ある側面ではAがBに優るが、別の側面ではBがAに優る、というような関係のこと。例えば、同じ車格のガソリン車とディーゼル車の走行距離あたりの環境負荷を比較した場合、単位距離走行あたりの大気汚染物質の排出量は前者のほうが小さく、二酸化炭素排出量は後者のほうが小さい、というような結果が得られる場合がある。LCAでは複数の側面から環境への影響を評価するため、こうした関係を生ずる場合の総合評価が特に手法上の大きな課題となっている。
  • 配分(アロケーション)
     一つの生産プロセスから複数の製品が生産される(たとえば、石油精製によってガソリン、灯油、重油などが生産される)場合や、一つの処理プロセスで同時に異なる種類の廃棄物を焼却処理する場合などにおいては、そのプロセスで生じた環境への負荷の排出原因を、複数の対象物(これらの例では各々、複数の製品、複数の種類の廃棄物)の間でどのように分け持つか、いわば責任分担を決める必要がある。この操作を「配分(アロケーション)」と呼び、質量、価格などによる配分が提案されている。

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