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2013年4月30日

人間活動に伴う放射性セシウムの処理処分システムへの移行と廃棄物への蓄積

特集 震災放射線研究
【放射性物質・災害環境研究の紹介】

小口 正弘

 福島第一原子力発電所の事故に伴って、東日本の広範囲地域において放射性セシウム(以下、放射性Cs)を含む廃棄物焼却灰や下水汚泥、浄水発生土(浄水過程で原水から取り除かれた土砂や処理薬品類などの沈でん物を脱水処理したもの)などの廃棄物が発生しています。放射性Csを含む廃棄物の処分を適切、円滑に進めていくためには、発生する廃棄物の放射性Cs含有レベルや量についてその空間的な分布や推移の見通しを示しておくことが必要です。また、環境中へ放出された放射性Csのリスク管理のためには、社会システムの一部である各種処理プロセスを通じてどれだけの放射性Csがどこへ行っているのかを理解しておく必要があると考えられます。そこで私たちは、廃棄物焼却や下水処理、浄水処理などの施設で発生する廃棄物について放射性Cs汚染の地域的な特徴や時間的な変化を解析し、各処理プロセスへの放射性Csの流入、蓄積挙動の把握を行っています。この記事では、一般廃棄物(都市ごみ)焼却を対象とした研究成果を紹介します。

 まず、東日本16都県の一般廃棄物焼却施設について、地方自治体等で測定・公表している焼却灰の放射性Cs濃度データを収集整理し、その傾向を把握しました。一般廃棄物焼却灰の放射性Cs濃度はデータのある2011年7月以降全体的に低下傾向にあることがわかりました。放射性Csの自然減衰の影響を差し引いてもその濃度は低下しており、一般廃棄物への放射性Csの混入自体が減っていると考えられました。しかしながら、焼却灰の放射性Cs濃度には季節変動があり、多くの施設で初夏(5月頃)と秋(9月頃)に上昇していることもわかりました。一般廃棄物焼却灰の放射性Cs汚染は剪定枝や雑草などの草木類およびそれらに付着した土に含まれる放射性Csが由来と言われており、初夏や秋の草木類排出量増加が放射性Csの混入量を増やしている可能性が考えられました。このように、焼却灰の放射性Cs濃度は一旦低下しても再び上昇することが考えられ、濃度レベルによっては定期的・長期的なモニタリングが重要と考えられます。

 次に、一般廃棄物焼却灰の放射性Cs汚染レベルの地域的な特徴を解析しました。東日本の各施設について飛灰(焼却灰のうち集じん装置などで排ガスから捕集されたもの)を例としてその放射性Cs濃度レベルを地図にしてみると、福島県内に加えて岩手県一関周辺、栃木県那須周辺、千葉県東葛地域などで比較的高濃度に汚染された飛灰が生じていたことがわかります(図1)。これらの地域は空間線量率(対象とする空間の単位時間あたりの放射線量)も高く、飛灰の放射性Cs濃度と地域の空間線量率には一定の相関があると考えられます。そこで、各施設のごみ収集対象区域の平均空間線量率と飛灰の放射性Cs濃度の関係を見てみると、やはり地域の空間線量率レベルが高い施設ほど飛灰の放射性Cs濃度が高い傾向があることがわかりました(図2)。しかし、空間線量率が同程度の地域でも飛灰の放射性Cs濃度は施設によって1桁から2桁程度異なっている場合があることもわかりました。

図1
図1 一般廃棄物焼却飛灰の放射性Cs濃度の空間分布 (2011年7月のデータ)
灰溶融併設焼却施設の溶融飛灰のデータを含む。空間線量率データは文部科学省航空機モニタリングによるもの(2011年11月5日換算値)。
図2
図2 一般廃棄物焼却飛灰および焼却ごみの放射性Cs濃度 (2011年7月のデータ)
灰溶融併設焼却施設の溶融飛灰のデータを含む。空間線量率データは文部科学省航空機モニタリングに基づく集計値(2011年3月22日換算値)。

 飛灰の放射性Cs濃度は、焼却前のごみの放射性Cs濃度と焼却処理による放射性Csの飛灰への濃縮倍率(飛灰にどの程度濃縮されるか)によって決まるはずです。そこでこれらの2つについて地域や施設による傾向を分析しました。

 まず前者について、施設ごとに焼却灰の放射性Cs濃度や発生量、焼却処理量のデータを用いて焼却前のごみの放射性Cs濃度を推定し、ごみ収集対象区域の平均空間線量率との関係を見てみました。ごみの推定放射性Cs濃度も空間線量率と正の相関がありましたが、飛灰のデータと同様に、地域の空間線量率のレベルが同程度であってもごみの推定放射性Cs濃度は施設によって1桁程度異なる場合もあることがわかりました(図2)。このことは、空間線量率が同程度であっても環境中からごみへの放射性Csの移行(混入)挙動が異なることを示していると言えます。

 前述のように一般廃棄物焼却灰の放射性Cs汚染は主に草木類やこれに付着した土に由来するものと考えられています。そこで、草木類排出量に関係する指標として人口密度や土地利用状況、住宅種類別の居住状況等のデータを合わせて分析したところ、これらの地域的特性によってごみへの放射性Csの移行挙動が異なることを見出しました。具体的には人口密度が高い地域、建物用地が多い地域、共同住宅に居住する世帯が多い地域ほど沈着した放射性Csがごみへ移行(混入)する割合が高い傾向があることがわかりました。このことは、居住している人が多い地域ほど、日常生活に伴って放射性Csが沈着した草木類や土壌が(非意図的にではありますが)除去されやすいことを示していると考えています。

 後者の焼却処理による飛灰への放射性Csの濃縮倍率については、焼却前のごみの推定放射性Cs濃度と飛灰の放射性Cs濃度から推定しました。これを施設の種類別に見てみたところ、飛灰への放射性Csの濃縮倍率は施設の処理方式によって大きく異なることがわかりました。代表的な都市ごみ焼却方式にはストーカ式焼却、流動床式焼却、ガス化溶融があり、これに焼却灰溶融設備(焼却灰を高温で溶かして減容化する設備)を併設した灰溶融併設焼却を加えた4つが焼却施設の主な処理方式と言えますが、飛灰への放射性Csの濃縮倍率は灰溶融併設焼却、ストーカ式焼却およびガス化溶融、流動床式焼却の順に高い傾向があることがわかりました。すなわち、空間線量率が同程度の地域であっても、飛灰の放射性Cs濃度は灰溶融併設焼却施設で高く、流動床式焼却施設では低くなる傾向にあることを示しています。この違いは、焼却ごみ量に対する飛灰発生量の割合や、ごみに含まれる放射性Csのうち飛灰へ分配する割合が処理方式によって異なることが原因であることもわかっています。

 これらの成果は、放射性Cs汚染焼却灰の今後の発生量と汚染レベルの推定に活用できると考えられます。今回は一般廃棄物焼却を例に研究成果を紹介しましたが、終末処理場や浄水場などで発生する下水汚泥や浄水発生土などの廃棄物についても同様の解析を行っています。

 ところで、上記の解析結果をもとに土壌沈着量のうち一般廃棄物焼却処理へ移行(混入)した放射性Csの割合を推定すると、東日本全体で見れば大きく見積もっても年間あたりで1%に満たないと考えられました。焼却灰は放射性Csが濃縮されて比較的高濃度となるためその保管や処分にあたって注目が集まってしまいますが、放射性Csの総量で見れば焼却処理への移行量は決して多くはないと考えられます。環境中へ放出された放射性Csのリスク管理に向けては特定の箇所だけに注目するのではなく、環境と人工圏における放射性物質の存在と挙動を全体的に把握した上で個々の処理処分システムの位置づけを理解することが必要です。今後は今回紹介した研究成果を活用しながらそのような研究へさらに展開していきたいと考えています。

(おぐち まさひろ、資源循環・廃棄物研究センター
         ライフサイクル物質管理研究室)

執筆者プロフィール

小口正弘の写真

最近第二子が誕生しました。公私ともにどんどん忙しくなってきましたので、体調管理の目的も込めて酒断ちをしてみました。お酒を飲むのは大好きでしたが、飲まなくても何とかなるものだなとわかりました。いつまで続くか自分でも楽しみです。

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