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2013年4月30日

放射能・ベクレル・半減期 -放射線研究をめぐるまぎらわしい用語-

特集 震災放射線研究
【環境問題基礎知識】

田中 敦

 東日本大震災以後、放射能をめぐるニュースや報道はおびただしいものがありました。その中には、明らかに誤解に基づいたような解説も含まれていたようです。今回、いくつかの誤解しやすい用語をなるべく平易に述べてみたいと思います。

= 放射性物質・放射線・放射能 =

 3つの似かよった用語-放射性物質・放射線・放射能-については、ホタルや花火のような例えを使って説明されることが多いようです。ホタルの場合で言うと、ホタル自身が放射性物質、ホタルから出る光が放射線、ホタルが光を出す性質(能力)が放射能に相当します。このような例えと実際の放射性物質との決定的な違いはどこにあるでしょうか。ホタルは、闇夜を飛び回りながらぽっぽっと一晩中光り続けることができるのですが、1個の放射性物質は一度しか光る(放射線を出す)ことができません。正確に言いますと、一度放射線を出して、別の放射性物質に変化するケースもあります。放射性セシウムの場合は、放射線を出す(崩壊する)ことで、セシウムではない物質に変化してしまいます。加えて、放射性物質は自分から飛び回る(移動する)ことはありません。屋内に土壌が入らないように工夫すれば、室内に放射性物質はなくなり、壁を通して入ってくる放射線だけになります(図1)。

図1
図1 ホタルに見立てた放射性物質・放射線と室内の防護

 屋内に入ってくる放射線は、線量計(サーベイメータ)で測定します。壁などによって放射線が吸収される結果、木造家屋で屋外の4割、コンクリート製の場合で屋外の2割程度まで減少するとされています。

= 単位の重要性 =

 国立環境研究所には木工室があり、研究者の依頼によりさまざまな器具を作ってくれます。ある時、実験台の作製をお願いしたところ、手のひらに乗るような小さなものを渡されたことがありました。頼む側はcm単位で図面を引いたのですが、作る側はmm単位で工作したため、1/10スケールのミニチュアができあがってしまったのです。これなどは、単位を省略したための誤解にあたります。

 放射能の量の単位はBq(ベクレル)を用います。1秒間に1回崩壊を起こす放射能を1Bqと呼びます。このことは直感的に理解しやすく、5000 Bqの土壌は1秒間に5000回崩壊を起こし、それにともなって放射線を放出していることになります。ところで、食品中の放射性物質の基準などの場合、Bq/kgの単位を用います。こちらは1kg(単位質量)あたりの放射能なので、放射能濃度とでも呼ぶべき単位です。5000 Bq/kgの土壌1kgと1000 Bq/kgの土壌5kgは、同じ放射能を持ちます(図2)。一方、土壌への放射性セシウムの沈着を評価するような場合、単位面積あたりの放射能で、例えば5000 Bq/m2のように表現します。これは1m2の土壌表面に5000 Bqの放射能が存在することを意味するのではなく、ある深さまでの土壌全体に5000 Bqの放射能があることを示します。5000 Bq/kgの土壌が5000 Bq/m2となる訳ではありません。

 一方、先ほどの屋内での線量測定などの場合、人への影響を考慮した線量率μSv/h(マイクロシーベルト毎時)で数値を表します。例えば、0.1 μSv/hの場所に10時間滞在していたならば、10倍して1μSvの被ばく線量と計算されます。また、放射性物質からの距離が離れたり、先ほどの屋内の例のように遮へい物があると線量は低くなります(図2)。放射能を表すベクレルと、線量を表すシーベルトの2つの単位が使われることは避けられません。なお、場所の測定から実効線量を推定するのに対して、線量計を着用する個人線量当量も測定可能です。

図2
図2 土壌中の放射性セシウム濃度と線量の模式図

= 半減期で放射能はなくなる? =

 半減期という言葉もよく耳にします。文字通り、放射能(放射性物質の量)が半分になる期間という意味で、セシウム137が約30年、セシウム134が約2年の半減期を持っています。仮に1億個のセシウム134があった場合、2年後には5000万個まで減少していることになります。4年後には2500万個のように半分ずつに減少して行き、半減期の10倍の時間がたつと、約千分の一まで減少します。しかし、半減期が経過すると放射能がなくなってしまうわけではありません。このことが、放射能とのたたかいを長期化させる要因と言えるでしょう。

 先ほど1億個のセシウム134と書きましたが、1億個のセシウム134はいったい何ベクレルなのでしょうか。この計算はやや複雑なので、結果だけを示しますと、1億個のセシウム134は約1Bqになります。もし、1Bqが1個のセシウム134のことだと思っていたとしたら、大きな誤解です。当然のことですが、放射能濃度1Bq/kgの土壌1kg中には、約1億個のセシウム134が含まれていることになります。これを通常の汚染物質のような濃度(正しくは質量分率)で表すと、0.02ppq(ppqはppmの10億分の1)に相当します。このように低い濃度の物質は通常の分析手法では測定できません。放射能測定がいかに鋭敏な分析手法であるかが理解いただけると思います。

 すでに原発事故から2年が経過していますので、セシウム134の放射能は物理的な崩壊により半分になっています。それに加えて、生物からは体外への排出プロセスにより、環境中では除染効果や移動等により、物理的な半減期よりも早く減少することが期待されます。このような生物や環境中での放射性物質の移行過程を詳しく調べ、将来予測へとつなげて行くことを、国立環境研究所の研究課題の1つとして行っています。

(たなか あつし、環境計測研究センター
  同位体・無機計測研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

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震災そして原発事故以後、研究対象が大きく変わってしまいました。市民の方々と接する機会も増え、研究結果の伝え方について頭を悩ますことも多い昨今です。

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