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2012年4月30日


受容体結合活性を指標とした in vitro バイオアッセイの開発と環境モニタリングへの適用

研究をめぐって

 様々な内分泌かく乱作用が問題となっております。それらの指標として注目される受容体結合活性の in vitro バイオアッセイに関する研究動向と今後の取り組みについて紹介します。

内分泌かく乱作用を検索するための in vitro バイオアッセイの開発

 1996年、シーア・コルボーンらにより、「奪われし未来」が上梓され、多数の内分泌かく乱作用による異常が報告されました。内分泌かく乱作用はこれまでの環境毒とは異なり、繁殖機能や知能の低下といった継世代的影響であり、ホルモン様物質がホルモン受容体に結合することで引き起こされることが主な原因であると言われています。一次スクリーニングにホルモン様物質のホルモン受容体との結合活性を調べるため、様々な in vitro バイオアッセイが開発されました。

世界では

 米国は、1996年に内分泌かく乱物質スクリーニング及び試験法諮問委員会(EDSTAC)を米国環境保護庁内の諮問委員会として設置して、第1段階(Tier1 Screen/Test)としてエストロゲン受容体結合とアンドロゲン受容体結合試験の検証を開始しました。また、経済協力開発機構(OECD)は、1996年に内分泌かく乱化学物質の試験及び評価法に関する特別作業に着手し、2002年にはレベル2としてエストロゲン、アンドロゲン、甲状腺受容体結合試験の3種類をメカニズムのデータを提供するための in vitro 試験として策定しました。注目された in vitro 試験法として、米国のA.M.SotoらのMCF-7細胞の増殖促進を指標とするエストロゲン作用を調べる「E-SCREEN アッセイ」があります。また、環境試料にも適用された試験法として、イギリスのE.J. RoutledgeとJ.P. Sumpterの開発したエストロゲン活性を調べる「YES法」(Yeast Estrogen Screening assay)という遺伝子組換え酵母を用いたレポータージーンアッセイもよく知られています。

日本では

 1998年に環境庁(現;環境省)は、「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」を策定し、さらに2005年には、「化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省の今後の対応方針について -ExTEND2005-」を策定して、受容体結合活性試験などの in vitro 試験と、 in vivo 試験の結果との関連性を検討することが必要であると提案しています。我が国では初期には、米国やイギリスなどからE-SCREENやYES法などの様々な in vitro 試験が導入され、それらを用いて化学物質のスクリーニングや環境試料中のエストロゲン活性が測定されてきました。一方、1999年に大阪大学の西川淳一博士らは、酵母ツーハイブリッド・システムという手法を用いて、酵母にエストロゲンやアンドロゲンなどの核内受容体とコアクチベーターの両遺伝子を導入することで受容体結合活性を迅速、高感度に計測できる酵母ツーハイブリッド・アッセイ法を開発しました。私たちは西川博士から提供を受けた酵母株を用いて酵母ツーハイブリッド・アッセイ法の改良を行い、1日に多検体を高感度かつ簡便に検索できるハイスループットの試験システムを構築しました。私たちは、ヒトエストロゲン受容体(ER)、メダカエストロゲン受容体(medER)、ヒトアンドロゲン受容体(AR)、ヒト甲状腺ホルモン受容体(TR)、ヒトレチノイン酸X受容体(RXR)、ヒトレチノイン酸受容体(RAR)、ヒト構成的アンドロスタン受容体(CAR)の7種類の核内受容体とC.A. Millerの開発したヒトアリルハイドロカーボン受容体(AhR)導入酵母株の in vitro バイオアッセイを構築しております。一方、培養細胞を用いるレポータージーンアッセイも広く行われており、例えば、AhR結合を介して発現するルシフェラーゼ発光を計測するなどの様々な環境媒体や生体試料のダイオキシン類の定量を行う試験法が数多く開発されています。これらの in vitro バイオアッセイ法は2005年に環境大臣が定めるダイオキシン類の測定方法として指定されています。

国立環境研究所では

 近年、工場排水や下水処理水などが流入する河川では法規制をクリアした低濃度の化学物質や分解生成物などの複合曝露による生態系生物への影響が危惧されています。要因の1つとして、生殖機能や免疫系の低下・抑制などを引き起こす受容体を介する内分泌かく乱作用が疑われています。私たちは、これまで内分泌かく乱作用としてメス化の問題がクローズアップされたことから性ホルモンに関連する受容体であるERやmedERの酵母アッセイを用いて、化学物質のスクリーニングや環境媒体のモニタリングを行ってきました。一方、他の受容体導入酵母アッセイを用いた試験では、RXR がイボニシ(巻貝の一種)のインポセックスに関与することを明らかにしました。さらに、催奇形性との関連が示唆されるRARは、アオコなど藻類から遊離される化合物と強い結合活性を示すことを見いだし、活性物質がレチノイン酸の異性体であることを報告しました。

 環境媒体に含まれる汚染化学物質の受容体結合活性がどのようなレベルにあるかを in vitro バイオアッセイによるモニタリングで数値化することは、内分泌かく乱作用による生体影響を予測する指標の1つとなると考えております。私たちは、2007~2009年にかけて、地方環境研究所との共同研究により全国16都道府県の110カ所の河川水について、ER、medER、RAR、AhRの受容体導入酵母アッセイによる環境モニタリングを実施しました。全国の河川水データの平均値を100%として評価すると、例えば、東京都や愛知県などの都市部を流れる河川水ではER結合活性が4、5倍高く、上流部に多く存在する下水処理場排水のエストラジオール関連物質の影響を受けていることがわかりました。また、製紙工場排水など工場排水が流入する河川水ではAhR結合活性が3~5倍高く、工場排水に含まれる化学物質の影響を受けていることがわかりました。また、同様に2007~2009年の夏季と冬季に、全国11都道府県の大気粉じんのサンプリングを行い、in vitro バイオアッセイによる環境モニタリングを実施しました。AhR結合活性は夏季には、茨城、群馬、東京、福岡などで高い傾向にあり、特に近隣で火災が発生した福岡のサンプルでは全国平均の10倍以上高い活性を示す試料もありました(図10)。河川水や大気試料の地域ごとの平常時の in vitro バイオアッセイによる環境モニタリングデータは、有害汚染化学物質の総合的な監視指標となるとともに、緊急時の環境モニタリングデータの比較解析に役立つことが期待されます。

図10 全国11都道県夏季の大気粉じん試料のAhR結合活性

 私たちは、東日本大震災の震災対応研究として、宮城県の被災地の大気粉じんのサンプリングと震災がれき置き場からの排水など環境水のサンプリングを経時的に行っており、緊急時の環境モニタリングと位置づけ、特に、津波堆積物が混入した震災がれきの撤去や処理作業で発生する大気粉じんの in vitro バイオアッセイによる環境モニタリングデータの継続的収集は今後の被災地における健康への影響指針になると考えております。

宮城県石巻商業高校屋上での大気粉じんのサンプリング風景と震災がれき置き場(奥)の写真
宮城県石巻商業高校屋上での大気粉じんのサンプリング風景と震災がれき置き場(奥)

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