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広域高頻度高精度観測から紐解く海洋植物プランクトンの動態変化(令和 6年度)
Changes in the dynamics of microalgae unraveled by wide-area, frequent, high-precision observations

研究課題コード
2328TA001
開始/終了年度
2023~2028年
キーワード(日本語)
二酸化炭素,北太平洋,海洋生態系
キーワード(英語)
Carbon Dioxide,North Pacific,Marine Ecosystem

研究概要

人為起源二酸化炭素の増加により、海洋表層の温暖化や酸性化が顕在化してきている。これら海洋環境の変化により海洋の主要一次生産者である植物プランクトン群集の動態が大きく変化し、それらに伴う生態系や生物地球化学過程への影響が強く危惧されていることから、これら現象の解明が急務である。本研究課題では、協力商船と研究船を用いた前例の無い高頻度観測を通して、北太平洋中高緯度域の海洋生物による炭素隔離能力(生物ポンプ)に対して特に重要な働きをするケイ藻類、円石藻類、窒素固定ラン藻類の動態に注目し、海盆スケールでの植物プランクトン群集の現存量、組成、生産力に関する季節変化と10年スケールの経年変化を定量的に把握し、これら変動の環境支配要因を特定する。この目的達成のため、上記の海洋観測で得られる試料を用いて、植物プランクトンの分類および炭素・窒素固定活性の指標分子(色素、遺伝子)を最先端分析技術で定量解析し、同時に取得する環境データとの関係を統計学的手法で明らかにする。また、大量の高品質現場データの利点を最大限に活かし、機械学習(数理モデル)を用いた海洋環境変化に伴う植物プランクトン群集動態変化の解析と将来予測を行う。さらに、最長14年間に及ぶ高品質データセットをインターネット上で公開する。世界の海の中でも生産力が特に高い北太平洋中高緯度域の生態系の基盤を支える植物プランクトン群集に対する環境応答の理解が本研究により劇的に進むことが期待できる。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:モニタリング・研究基盤整備

全体計画

国立環境研究所が日本−北米間を航行する協力商船で実施している海洋表層CO2分圧(pCO2)、全アルカリ度、栄養塩の高頻度観測(年間9往復程度)を活用し、北太平洋における海洋表層化学環境の時空間変動とその要因を明らかにするとともに、海洋熱波による海洋環境変化検出と大気海洋間CO2交換量に与える影響評価などに課題期間を通して取り組む。
海洋はこれまで人為起源CO2の吸収源として地球温暖化の進行を緩和する働きを担ってきたが、近年では海洋の温暖化のみならず酸性化や貧酸素化といった問題が顕在化し、将来的なCO2吸収能の劣化が危惧されている。国立環境研究所では、1995年より継続している協力商船を用いた洋上大気・海洋表層CO2の連続観測を通して大気海洋間CO2交換量評価に貢献するとともに、エルニーニョ南方振動や太平洋10年規模振動といった気候変動要素が海洋物理場の変化を介して炭酸系や栄養塩といった化学場にも大きな影響を与えていることを明らかにしてきた。すなわち、海水温の上昇(低下)は海水に溶存するCO2分子とイオンの存在比を上昇(低下)させpCO2が増加(減少)する、混合層の深化(浅化)は無機炭酸濃度や栄養塩濃度の高い水塊を亜表層から表層へ供給するのを促進(阻害)する、といった諸現象がエルニーニョ南方振動や北太平洋10年規模振動といった気候変動要素によって引き起こされている。海洋の温暖化や近年頻発する海洋熱波は、pCO2の増加による海洋のCO2吸収能力の劣化や亜表層から表層への栄養塩供給を阻害することによる一次生産の低下を招くと考えられることから、pCO2や栄養塩濃度のモニタリングが重要である。また、海洋酸性化に関する議論を行うため、表層pCO2とともに全アルカリ度を測定する。これにより、海水のpHと全炭酸濃度の算出が可能になる。
そこで本研究では、協力商船による高精度な表層物理観測とpCO2観測、全アルカリ度および栄養塩のサンプリング観測を実施して海洋物理化学環境の時空間分布を把握することを目的とし、特に海洋熱波による海洋化学環境の変化や大気海洋間CO2交換量の変化を検出することを目指す。協力商船であるトヨフジ海運(株)の自動車運搬船「New Century 2」は主に田原港(愛知県)とバンクーバー港(カナダ)やサンフランシスコ港(米国)などの間を4〜8週間で往復しており、北太平洋を横断する観測を年間9航海程度実施している。本船には高精度CO2計(LI-7000, Licor社製)を組み込んだ観測システムや取水口等の海水温を測定する高精度水温計(SBE-38, Seabird社製)、主に塩分を測定するための高精度水温塩分計(SBE-45, Seabird社製)、CO2計に導入する濃度レンジの異なる4本のCO2標準ガス等を搭載しており、国際的な海洋表層CO2観測ネットワーク(Surface Ocean CO2 Reference Network)が推奨する高精度(2 µatm以内)なpCO2観測を実現している。栄養塩については1日3回取得する海水試料を-70ºC以下の超低温で保管して研究室に持ち帰り、オートアナライザ(QuAAtro39, BLテック社)で硝酸塩(NO2-, NO3-)やリン酸塩、ケイ酸塩、アンモニアの濃度を測定している。全アルカリ度試料については、2019年5月より1日1回の頻度で取得しており、紀本電子工業の全アルカリ度滴定装置(ATT-15)を用いて測定を行っている。
 本船が航行する北太平洋中央部から東部にかけて海洋熱波源である高水温域が定在しており、本船による高頻度観測で海洋熱波域内のデータを蓄積することで海洋物理化学環境の変化を検出しその影響を評価することが可能となる。具体的にはpCO2と栄養塩濃度の長期平均分布と海洋熱波域内の観測データを海洋物理データと合わせ比較することで、海洋熱波が出現した際の上記パラメーラの分布特性を明らかにする。さらに、観測で得られたpCO2データと栄養塩濃度データ、海洋物理データや衛星グリッドデータ等を研究グループ間で迅速に共有し議論することで、海洋物理化学環境と生物環境の変化について課題期間内に明らかにすることが期待できる。

今年度の研究概要

北太平洋の協力商船New Century 2(トヨフジ海運株式会社)を用いて、航海中、船底(約5m深)から船内実験室まで汲み上げられた表層海水を現地時間の正午頃に毎日1回採取する。栄養塩および全アルカリ度試料については、それぞれ、陸上分析まで冷凍および冷蔵保存する。色素試料と遺伝子試料については、海水の濾過を行い、得られたフィルター試料を–70℃以下で保存する。水温、塩分、光合成有効放射量、硝酸塩濃度、海水中の二酸化炭素分圧については、同船に備えた各種センサーで連続測定する。観測データは速やかに同課題研究グループ内に共有し、海洋物理化学環境と生物環境の変化について解析を進める。

外部との連携

北海道大学(課題代表機関)、京都大学

課題代表者

中岡 慎一郎

  • 地球システム領域
    大気・海洋モニタリング推進室
  • 主任研究員
  • 博士(理学)
  • 理学 ,地学,物理学
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