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自然外力の増加に適応する水環境保全に向けた有明海・八代海等の気候変動影響(令和 5年度)
Evaluation of climate change effects on Ariake-Yatsushiro Sea for water environmental conservation adapting increase of natural external impacts

予算区分
1-2303
研究課題コード
2323BA003
開始/終了年度
2023~2023年
キーワード(日本語)
気候変動,水環境,閉鎖性海域,貧酸素
キーワード(英語)
climate change,water environment,semi-enclosed sea,hypoxia

研究概要

有明海・八代海等は広大な干潟と特有の生物相を有する閉鎖性海域であるが、2000年代以降はノリの色落ちや有用二枚貝の斃死が相次ぎ、生物生産性の低迷が続いている。さらに、近年は気候変動の影響が顕在化し、九州地方では線状降水帯による記録的な豪雨災害が頻発化している。有明海・八代海等でも、底質の変化、流木等海洋ゴミの増加、過去最大規模の貧酸素水塊の発生など、水環境への影響が報告されている。

有明海・八代海等を里海とする地域循環共生圏の実現に向けて、気候変動への適応、特に治水と水環境保全の両立・調和は最重要課題と言っても過言ではない。これまでの閉鎖性海域の水環境保全は、過剰な人為的負荷の削減が中心であった。しかし、今般の瀬戸内海環境保全特別措置法の改正を機に、気候変動の影響、すなわち自然変動にも対応したきめ細やかな水質管理が必要な時代に移った。治水分野では、自然の降水変動を確率的に捉え、超過確率を基準とした防災・減災計画が体系化されている。しかし、水環境分野では、これまで人為的影響が中心であったがゆえに、自然変動を確率評価して対策に反映させる視点が欠けている。そのため、気候変動で増大する自然外力に対し、対応が不可能な現象か、対策を要する高頻度事象かを判断する根拠が乏しく、自然変動に対応したきめ細
やかな水質管理を行える状況にはない。

本研究では、有明海・八代海等を対象に陸域−海域モデルの開発と気候シナリオに基づく将来予測を行い、気候変動が水環境・生態系に及ぼす影響を評価するとともに、貧酸素水塊を事例として、豪雨出水などの自然外力から海域の物質循環を介して貧酸素化に至る過程の類型化と生起確率およびその将来変化を明らかにし、気候変動に適応する再生方策の検討に向けた基礎を構築することを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:行政支援調査・研究

全体計画

各機関のモデルを統合・マルチ化して、自然外力が有明海・八代海等の水環境・生態系に及ぼす影響を総合的に評価する陸域−海域モデルを開発し、気候変動予測データに基づく将来予測を行う。3つのサブテーマの連携のもと、豪雨・気象場、有機物・栄養塩循環と海水交換、貧酸素水塊について各要素の類型化と生起確率、要素間の同時・条件付き生起確率、これらの将来変化などを統計的に解析し、大規模貧酸素水塊が発生しやすい気象・海象パターンと気候変動の影響を明らかにする。

サブテーマ1:貧酸素化に影響する豪雨パターンの気候変化解析(京都大学)
近年頻発化している豪雨に着目し、継続時間や総降雨量など過去の豪雨事例の特性や気候変動の影響を解析する。貧酸素化への寄与が相反する前線性豪雨と台風性豪雨の気象成因について両者の同時生起や連続生起などの発生パターンを解析し、貧酸素水塊の消長を支配する豪雨の特徴や生起確率およびこれらの将来変化を明らかにする。

サブテーマ2:海水交換および有機物・栄養塩循環の将来変化と底生動物への影響(国立環境研究所)
外洋の海象場(対馬暖流由来の暖水渦)に着目し、有明海・八代海等の海水交換と有機物・栄養塩循環への影響とその将来変化を解析する。豪雨や台風、気温・水温等の気象場も踏まえ、海水交換の低下など貧酸素化に繋がる気象場・海象場の生起確率と将来変化を明らかにする。また、過去の底生動物と底層環境の関係を解析し、モデルの水質・底質予測値に基づいて底生動物への気候変動影響を予測する。

サブテーマ3:貧酸素の規模や発生確率に与える気候変動の影響評価(九州大学、大阪大学)
陸域−海域モデルの再現性、特に近年の豪雨出水時の水質に着目して検討し、モデルの改良を行う。気候変動予測データのバイアス補正を行うとともに、陸域−海域モデルを用いたアンサンブル予測計算を実施し、貧酸素水塊の時空間規模に対する発生確率と気候変動の影響を明らかにする。

今年度の研究概要

サブテーマ2
目標1:サブテーマ3と連携して有明海・八代海等の陸域−海域モデルを開発と検証を行う。対馬暖流を含む広域の計算領域を設定し、2000年代以降の現況気候の再現計算と、NHRCM05の現在気候と将来気候(RCP2.6と8.5、それぞれ20年間×4ケース)のそれぞれ20年間連続の予測計算を実施し、海水交換速度や物質滞留時間など、有明海・八代海等の有機物・栄養塩循環に気候変動が及ぼす影響を明らかにする。特に、近年頻発化している陸域の豪雨出水と、これまで影響が議論されていない外洋(対馬海流・暖水渦)に着目し、貧酸素水塊の消長に影響を及ぼす気象・海象場の特定と類型化、およびこれらの生起確率の将来変化を明らかにする。

目標2:有用二枚貝を含む底生動物の生息状況と底層環境について、既存の文献や調査データを収集・整理し、クラスター解析や出現頻度解析を通じて両者の関係性を明らかにする。また、瀬戸内海など日本の閉鎖性海域の先行解析事例と比較し、解析結果の妥当性や不確実性を検討する。これらの知見と水質・底質の予測結果に基づき、気候変動が有明海・八代海等の底生動物の生息分布に及ぼす影響を評価・予測する。

外部との連携

九州大学(代表:矢野真一郎教授)、京都大学、大阪大学

課題代表者

東 博紀

  • 地域環境保全領域
    海域環境研究室
  • 主幹研究員
  • 博士(工学)
  • 土木工学,農学,水産学
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担当者