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健全な水環境保全のための水質・湖底環境に関する研究(平成 30年度)
Study on water quality and lake-bottom environment for protection of the soundness of water environment

予算区分
MA 委託請負
研究課題コード
1720MA002
開始/終了年度
2017~2020年
キーワード(日本語)
湖沼環境,有機物収支,底泥溶出,底泥酸素消費,溶存有機物,栄養塩
キーワード(英語)
lake environment, mass balance of organic matter, sediment release, sediment oxygen demand, dissolved organic matter, nutrients

研究概要

琵琶湖の水環境は、現在、必ずしも健全な状態にあるとはいえず、異臭味の発生、内部生産の影響、水草の異常繁茂等により水環境の悪化および生態系の脆弱化を招くに至っている。
 上記のような諸課題に対応し、健全な琵琶湖の水環境の保全・管理・再生してゆくためには、水環境を総合的に把握するための新たな水質評価手法や生物資源・生態系保全の評価手法を構築し、されに改善手法を見出していくことが求められている。
 本研究では、(1)琵琶湖湖内の有機物収支を把握して生態系に配慮した栄養塩や有機物管理を行うことを目標として、湖水柱における食物連鎖モデルや底質モデルを組み込んで有機物収支当をモデルで解析することを目指す;(2)水質や生態系に多大な影響を及ぼす湖底泥について、新たな底泥解析手法を導入し、湖底泥・間隙水の成分分析、底泥溶出や底泥酸素要求量の定量評価法の開発と環境因子との連動関係を検討する;(3)湖沼の水質・底質改善のために、底泥の酸化還元状態を変化させる技術(微生物燃料電池等)を応用して、栄養塩等の底泥溶出の抑制・湖沼水質の改善等につながる底泥環境改善手法を検討する。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

 本研究では三つの課題に取り組む:(1)有機物収支に関する研究、(2)底泥環境の評価と底泥溶出に関する研究、(3)湖沼の水質・底泥質改善に関する研究。
(1)有機物収支に関する研究:
 琵琶湖湖内の有機物収支を把握して生態系に配慮した栄養塩や有機物の管理を行うことを目標として、湖水柱における食物連鎖モデルと底質モデルを既に開発されている琵琶湖流域水物質循環モデル(以下「モデル」という。)に必要に応じて組み込んで、有機物収支等をモデルで解析することを目指す。
 琵琶湖における一次生産速度や細菌二次生産速度の測定法を開発して測定を行い、生態系モデルの高度化のためのデータ及び各生物間の関係性を把握する。現在の琵琶湖モデルには栄養塩や有機物(溶存有機物)に係る底泥溶出データが払底している。当該溶出データの測定・蓄積を図るとともに関連環境因子との連動関係を明らかにして、底泥層モデルの構築に役立てる。
 琵琶湖湖水では有機物の大部分を占める溶存態の有機物(溶存有機物、DOM)の化学的特性や起源、微生物利用性について未だ不明な点が多い。定量的な水質指標である全有機炭素(TOC)を組み込むためにも、DOMに係る知見の蓄積が必要である。そこで琵琶湖湖水・底泥間隙水および様々な起源水試料に対してこれまで開発・確立した分析法・評価法(DOM分子サイズ分布、励起蛍光マトリックス等)を駆使して、DOMの特性・起源解析を行う。
(2)底泥環境の評価と底泥溶出に関する研究:
 水質や生態系に多大な影響を及ぼす湖底泥について、新たな底泥解析手法を導入し、湖底泥・間隙水の成分分析、底泥溶出や底泥酸素要求量の定量評価手法の開発と環境因子との連動関係を検討する。
 底泥柱状サンプルを採取して、底泥間隙水を採取して、間隙水の表層近辺の深さ方向濃度勾配から、栄養塩や溶存有機物の底泥溶出フラックスを算定する。無機態栄養塩に加えて、栄養塩フラックスとして有機態窒素やリンのフラックスを算定する必要がある。有機態窒素やリンは溶存有機物として溶出すると考えられる。溶存有機物の溶出はその分子サイズに直接的に関係するため、窒素やリンが結合している溶存有機物の分子サイズを測定する手法を開発する。当該手法開発後に、溶出フラックスと環境因子の関係を検討する。
 底層溶存酸素(DO)は、近々に環境基準項目として導入される。底層DOを制御する現象として底泥の酸素消費はとても重要である。底泥酸素消費量(SOD)を定量的に測定する手法を開発して当該データの環境因子(特に、マンガン等の還元性金属)との関係を検討する。さらに、SODと栄養塩や有機物の底泥溶出の関連性について詳細に検討する。
 野外で採取した底泥試料の分析に加えて、人為的に貧酸素化、無酸素化した室内底泥溶出試験を実施して、その分析結果も合わせて考察することで、湖水環境の大きな変化(貧酸素化や富栄養化)が底泥溶出に与える影響を評価する。それに基づき、将来の富栄養化の進行にかかる影響把握という観点から、琵琶湖の底泥環境についての基本的情報を提供する。
(3)湖沼の水質・底泥質改善に関する研究
 湖沼の水質・底質改善については、従来の流域対策に加えて、湖内での原位置改善技術を進める必要がある。底泥の酸化還元状態を変化させる技術(微生物燃料電池等)を応用して、栄養塩等の底泥溶出の抑制・湖沼水質の改善等に繋がる底泥環境改善手法を検討する。
 原位置改善技術が湖沼水質・泥質に与える影響は多岐にわたり、湖沼ごとに場所ごとに異なることも予想される。そのため、具体的な検討項目としては、栄養塩濃度以外の主要イオン濃度や微量金属イオン濃度への影響評価も同時に進め、改善技術の改良とより効果的な設置場所や設置方法に関する知見の集積を行う。

年度別研究計画を以下に記す。
2017:
(1)藻類一次生産速度、細菌二次生産速度の測定法の開発・データ蓄積;(2)有機態窒素とリンの底泥溶出算定手法の開発;(3)溶存有機物(DOM)の特性・起源解析;(4)底泥溶出フラックスや底泥酸素要求量(SOD)のモニタリングシステムの構築;(5)底質改善技術装置の設置・評価システムの構築
2018:
(1)前年度(1)の継続と微生物生産速度と環境因子との連動関係の評価;(2)前年度(2)の継続と底泥溶出データの取得;(3)前年度(3)の継続;(4)前年度(4)の継続とSOD測定と環境因子との連動関係の評価;(5)前年度(5)の継続と底泥改善技術の影響・効果等のデータ集積;(6)貧酸素化や富栄養化に対する琵琶湖の底泥の挙動解析
2019:
(1)前年度(1)の取りまとめ;(2)前年度(3)の取りまとめ;(3)前年度(6)の取りまとめ;(4)底質改善技術の改良と効果的な設置場所・方法の検討および効果と影響の評価;(5)底泥の特性に基づく湖水環境へのリスク評価;(6)琵琶湖における有機物収支に係るモデル解析と起源解析
2020:
(1)前年度(5)の継続および取りまとめ;(2)前年度(5)の継続および取りまとめ;(3)琵琶湖有機物収支と対策効果に係るモデル解析および取りまとめ;(4)底層水の酸素環境と底泥の特質との関係評価;(5)底泥改善技術の社会実装に向けた費用対効果に係る検討および取りまとめ;(6)健全な琵琶湖の水環境の保全・管理・再生に向けた総合的な湖沼管理手法および改善手法の提案

今年度の研究概要

「有機物収支に関する研究」では、新規に導入した手法の検証や改善を引き続き進めていく。FRR法による一次生産速度については、濁度による測定への影響評価を組み込むことにより、現在は琵琶湖北湖のみに適用されている当該手法を琵琶湖南湖へ適用することを目指す。栄養塩類や有機物特性解析においては、新規導入したイオンクロマトグラフやTOC-SECによる手法が実用段階にあることから、分析を実施してデータ蓄積・解析を進める。
「底泥環境の評価と底泥溶出に関する研究」および「湖沼の水質・底質改善に関する研究」においては、間隙水中の溶存有機物の分子サイズの測定を実施して、溶存有機物や溶存有機態栄養塩の底泥溶出フラックスの算定を試みる。底層環境の評価では、溶存酸素 (DO)ロガーによる底層DOの通年および季節ごとのSODの測定を行う。現在、SODの測定は手動で行っているが、測定のために長期間(最大5日間)拘束される。人的負担が大きく地方環境研究所等でSODを測定していく上で大きな障害となると推察される。そのため、測定時に自動的にSODを測定できるシステムの開発にも着手する。底質改善に関しては、琵琶湖の底泥を使って、微生物燃料電池による底質改善効果の検証予備実験データの解析を行い、その効果を評価する。

外部との連携

滋賀県琵琶湖環境科学研究センター

課題代表者

今井 章雄

担当者