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アジア地域におけるチャンバー観測ネットワークの活用による森林土壌CO2フラックスの定量的評価(平成 27年度)
Evaluation of Soil CO2 Efflux of Asian Forest Ecosystems based on an Automated Chamber Network

予算区分
AO 所内公募A
研究課題コード
1517AO001
開始/終了年度
2015~2017年
キーワード(日本語)
チャンバー,土壌呼吸,地球温暖化
キーワード(英語)
chamber, soil respiration, global warming

研究概要

最近のNature誌の報告によれば、2008年における全陸域の土壌呼吸量は約980億 tCと推定されており、1989〜2008年の20年間で、地球温暖化によって土壌呼吸量は年間約1億 tCの速度で上昇していたという。なお、この土壌呼吸の年間増加分は、90年代の森林を中心とする全陸域生態系の正味の炭素吸収量(約17億 tC y-1)の約0.5割に匹敵する。また、生物圏炭素循環プロセスモデルCASAの計算によれば、2008年時点の地球全体の微生物呼吸量は約696億 tC y-1と推定されている。この土壌有機物の分解により発生するCO2は人為起源の放出量(78億 tC y-1)の約9倍にも相当し、全陸域の炭素吸収量の約40倍に相当する量である。従って、土壌有機炭素の分解速度が地球温暖化によって僅かでも変動すれば、地球上の炭素収支は著しく影響を受けることになる。また、IPCC第5次評価報告書(AR5)によれば、地球温暖化に伴う土壌呼吸の正のフィードバック効果により、熱帯と中緯度の陸域CO2吸収能は低下すると予測されている。一方、最近のScience誌に発表された論文によれば、特にアジア地域の亜熱帯林及び熱帯林において、土壌CO2フラックスに係わる観測データが圧倒的に不足していることから、全陸域炭素循環における推定結果の誤差が大きいことが指摘されている。したがって、これらの長期予測を検証できる実測データはほとんど無いというのが現在の状態である。これらの観点から、長期的な温暖化環境下での生態系の応答予測のため、広域的なデータ集積を早急に開始する必要性がある。
そこで、本研究では、北海道の最北端から本州・九州・台湾・中国及び赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトに沿って、代表的な冷温帯林・温帯林・亜熱帯林及び熱帯多雨林において、(1)地球環境研究センターが開発・推進している世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを用いて、土壌呼吸の連続測定を実施する。その実測結果に基づいて、気候変動や台風・伐採・土地利用変化などの攪乱が、異なる地域の陸域生態系炭素循環に与える影響を定量的に把握する。(2)一部のサイトにおいて赤外線ヒーターを用いた温暖化操作実験を行うとともに、土壌有機物の14C分析から、土壌の画分毎の有機炭素の蓄積歴及び分解のタイムスケールを検出する。それによって、異なる地域での土壌有機炭素の蓄積プロファイル及び長期的な温暖化環境下での分解メカニズムを解明する。(3)多面的かつ整合性の高いデータに対し、陸域生態系モデルVISITを適用して、アジアを中心としたグローバルな陸域炭素循環の推定及び将来予測の高度化を図る。上記(1)-(3)を、本研究の目的とする。

【達成目標】:
(1) 北海道の最北端(北緯45°)から本州・九州・台湾・中国及び赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトを網羅する多様な森林生態系において、統一した手法から、代表的な冷温帯林・温帯林・亜熱帯林及び熱帯多雨林における土壌有機炭素動態を明らかにする。
(2) 北海道の苫小牧と天塩の森林CO2フラックス観測地において、これまで長期的に観測されている土壌呼吸量データから、自然的撹乱(台風)と人為的撹乱(伐採)の影響を評価するとともに、土壌有機物分解速度の環境因子の変動に対する応答を検出する。また、台湾南部のサトウキビ畑から植林に転換したサイト及びマレーシア半島部とボルネオ島の熱帯湿地フラックスサイトでの観測により、アジア亜熱帯と熱帯泥炭地における土地利用変化が、CO2/CH4放出に与える影響の評価を行う。
(3) 多面的な実観測データに基づいて、生態系や地域ごとに土壌炭素放出の温度・水分・植生応答メカニズムを解明する。さらに、温暖化に際して、アジアを中心としたグローバルな森林生態系が今まで以上に吸収源として機能するのか、逆に放出源に転換するのかという議論に関し、陸域生態系モデルVISITを用いて定量的な評価を行う。
(4) チャンバーネットワークによる海外における観測体制の維持にあたっては、現地研究者のキャパシティ・ビルディングを行い、日本のアジア地域におけるイニシアティブを発揮する。
(5) 上述した観測データやモデル結果に基づいて、今後の生態系および生物多様性の保全や気候変動緩和策、MRV、REDD++などの環境政策を策定する上での基礎的なデータを提供する。

研究の性格

  • 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

H27年度:
日本国内(7ヶ所)及び海外(8ヶ所)のフラックス観測地に設置された土壌呼吸測定装置を改良し、チャンバー観測ネットワークによる長期観測の体制を確立する。また、海外サイトから土壌サンプルを採集し、分画処理を行った上で、AMSを用いて14Cを測定するまでの前処理作業を開始する。さらに、陸域生態系モデルVISITに必要な基礎パラメータを取得する。
H28年度:
強化したチャンバー観測ネットワークによる国内及び海外のフラックス観測地における土壌呼吸の定常観測を継続する。また、14Cの測定結果による海外森林土壌と日本森林土壌の有機炭素の質を比較する。さらに、海外サイトから得られたパラメータを陸域生態系モデルVISITに入力し、VISITの海外適用に向けて改良を行う。
H29年度:
チャンバーネットワークで結ばれた国内及び海外サイトにおいて、課題終了に向けて、フラックス観測結果をまとめる。また、海外サイトの14C測定結果を、これまでに国内サイトで得られた結果と比較し、異なる地域における土壌有機炭素の蓄積プロファイル及び長期的な温暖化環境下での分解メカニズムを評価する。さらに、陸域生態系モデルVISITによって、アジアを中心とした全球規模の陸域炭素循環の推定及び将来予測の高度化を行う。

今年度の研究概要

日本国内(7ヶ所)及び海外(8ヶ所)のフラックス観測地に設置された土壌呼吸測定装置を改良し、チャンバー観測ネットワークによる長期観測の体制を確立する。また、海外サイトから土壌サンプルを採集し、分画処理を行った上で、AMSを用いて14Cを測定するまでの前処理作業を開始する。さらに、陸域生態系モデルVISITに必要な基礎パラメータを取得する。

外部との連携

北海道大学、弘前大学、広島大学、宮崎大学、マレーシア森林研究所(FRIM)、マレーシアオイルパーム研究所(MPOB)、中国科学院、台湾大学

関連する研究課題

課題代表者

梁 乃申

  • 地球システム領域
  • シニア研究員
  • 学術博士
  • 林学
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担当者