- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1315CD012
- 開始/終了年度
- 2013~2015年
- キーワード(日本語)
- 哺乳類,状態空間モデル,最適管理,ベイズ推定
- キーワード(英語)
- mammal, state-space model, optimal management, Bayesian estimation
研究概要
本研究では、近年日本各地で増加しているシカ、イノシシ(在来種)、アライグマ(外来種)の個体群の成長率や分布域の拡大、農作物の被害を空間明示的に予測し、哺乳類3種の費用対効果の高い管理戦略を探索し、その結果を行政に提示することを目的とする。具体的には、新たな統計手法(粒子フィルターと逐次モンテカルロ法)を用いた空間明示ベイズ推定モデルにより精度の高い個体群動態や被害の予測を行うとともに、シミュレーテッド・アニーリング法を用いて限られた予算や人的資源を複数種に最適配分する管理戦略を導出する。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
本研究は、以下の4つのプロセスから構成される。(1)農作物被害や駆除個体についての経年的な空間分布情報の整備、(2)哺乳類3種の個体群動態に関わるパラメータの推定、(3)各種作物の被害率を予測する統計モデルの構築、(4)複数のシナリオをもとにした哺乳類3種の最適管理戦略の探索。
(1)千葉県が収集してきた各種哺乳類による農作物の被害データ、駆除データを電子化するとともに、新たなデータをアンケート等により収集する。さらに綿密な被害予測を可能にするために、農地利用区分などの基盤データを整える。
(2)哺乳類の被害分布、駆除個体数分布、ベイズ推定を用いて個体群の密度と増加率、移動率を推定する。具体的には、図2で示す状態空間モデルを用いて個体群パラメータを推定する。
(3)景観構造と農地利用区分・作物名をもとに、各種作物の被害率を予測するモデルを開発する。ここでは、(1)で得られた動物の密度分布に加え、密度と被害率の関係性、さらに詳細な農地利用区分、の3者を統合し、各種農作物の被害の予測モデルを作成する。
(1) (4) (2)で得られた個体群パラメータと、(3)で構築された被害予測モデルをもとに、駆除努力に投資できる予算や人的資源に制約がある中で、駆除努力の最適な空間配分を導出する。
(1)農作物被害や駆除個体についての経年的な空間分布情報の整備
千葉県は10年以上前からシカ、イノシシ、アライグマをはじめとする野生動物の駆除に関するデータを所有している。しかし、データの電子化、GIS化等の基盤整備は十分に行われているわけではなく、解析に取りかかるために準備が必要である。また農作物被害については、個体群の分布中心域であり、以前から被害の多い南部地域では、データの蓄積は多いが、北部地域では比較的最近分布が拡大したため、空間データ自体も不十分である。そこで、研究協力者である浅田(千葉県生物多様性センター)の協力のもと、千葉県自然保護課との連携を取り合いながら、既存データの整備と最新の被害分布等のデータの取得を行う。また、農林統計から農地の利用区分・作物名に関するできるだけ詳細な基盤情報を地域ごとに入手・整備する。
平成25年度に、まずは、各種哺乳類による駆除データの収集と電子化を行う。農作物の被害データを、農林統計から農地の利用区分・作物ごとにできるだけ詳細な基盤情報を地域ごとに入手する。
平成26年度以降は、新たに必要なデータをアンケート調査等により収集する。地域ごとに得られた農作物の被害データを電子化し整理する。農作物被害や駆除個体の空間分布情報を一般に公開し利用できるように整備する。
(2)哺乳類3種の個体群動態モデルの構築と将来予測
上記で整備された情報をもとに、状態空間モデルにより 、それぞれのパラメータ推定を行う。
[個体群パラメータの推定] 。駆除個体数の変遷は3種全てについて利用可能であり、密度と増加率の推定の中核をなすデータである。また、被害率についてもシカとイノシシについては、少なくとも10年間で2時期以上の空間データが存在するため、推定に資することができる。さらに、シカについては、房総シカ調査会らが長年蓄積してきた糞粒の空間分布データがあること、また宮下らが行ったシカ遺伝子の多型情報に基づく空間構造の解析による移動率推定の実績に基づき、より精度の高いパラメータ推定が可能である。パラメータ推定では、階層ベイズモデルを用いて年次間、種間で共通する事前分布(超分布)を想定して推定を行った場合と、各種別個に推定した場合で推定誤差の大きさを比較し、より小さいものを採択する。さらに、生態や農作物被害の形態が類似しているシカとイノシシについては、分布を先導しているように見えるイノシシが、被害の増加による耕作放棄を通して、シカの分布拡大の促進している可能性があるため、この因果経路も含めて検討する。
[個体群の空間動態の予測]上記から推定された個体群パラメータをもとに、2013年から10-20年間程度の個体群動態を予測する。森林被覆率や市街地など、分布に重要な影響を与えると思われる情報を組み込む。予測の不確実性を考慮するため、パラメータ値を無作為抽出したシミュレーションを繰り返し、2×2kmメッシュにおける局所密度の予測値の信頼区間を算出する。
平成25年度に、粒子フィルターと逐次モンテカルロ法を用いた空間明示ベイズ推定モデルを構築する。
平成26年度以降は、シカ、イノシシ、アライグマの密度と増加率、移動率を推定し、千葉県全域スケールでの個体群の将来予測を行う。イノシシとシカの種間相互作用を入れて、密度と増加率、移動率の推定を行い、推定精度を比較し、最適管理に反映させる。
(3)各種作物の被害率を予測する統計モデルの構築とその将来予測
(2)の解析で得られたパラメータにより、作物の被害率を、動物の局所密度と景観構造の関係から説明する統計モデルが作成できる。被害率の報告は、農家の主観による被害感情が大きく影響していると考えられ、実際の被害率と乖離している可能性がある。推定生息頭数と主観を含む被害報告からベイズ統計を用いて、実際の被害率を推定する。つぎに、(2)で得られた動物の密度分布、密度と被害率の関係性、さらに(1)で得られた農地利用区分の3者を統合し、2×2kmメッシュごとに各種農作物の被害の予測を2013年から10−20年間程度のスケールで行う。
平成25年度に個体数と被害率により動物の局所密度と景観構造の関係から説明する統計モデルを構築する。
平成26年度以降に、推定された個体数と被害率により動物の局所密度と景観構造の関係から説明する統計モデルを構築する。そして、2×2kmメッシュごとに各種農作物の被害の予測を2013年から10−20年間程度のスケールで行う。
(4)哺乳類3種の最適管理戦略の探索
(2)と(3)で構築された個体群動態モデルと被害率の予測モデルをもとに、管理を行った場合の被害の程度の将来予測を行うためのモデルを2×2kmのスケールで作成する。5×5kmの空間スケールごとに、どの種に対してどのくらい駆除努力を投資するのが最適なのかを、シミュレーテッド・アニーリング法により導出する。そのことによって、[1]分布域を抑える事を重視すべきか、[2]すぐに農作物の被害が大きくなりそうな地域を駆除すべきか、[3]3種均等に駆除すべきか、それとも1種に駆除努力を集中すべきか、またその種はどれか、などの問いに対する解を得る。また、最適管理努力量の空間配分の種間相互作用に対する依存性を確かめる事によって、種間相互作用を考慮する事のベネフィットを導出する。
平成25年度に、仮想データを用いてシミュレーテッド・アニーリングにより最適な駆除努力配分を計算するためのアルゴリズムを構築する。
平成26年度以降に、(2)と(3)で構築された個体群動態モデルと被害率の予測モデルをもとに、様々な制約条件(予算や人的資源)の中で、最適な駆除努力の配分を導出する。
今年度の研究概要
1. 捕獲ワナや駆除個体についての経年的な空間分布情報の整備
千葉県イノシシ管理事業の遂行状況報告によるイノシシの捕獲ワナの設置場所と捕獲頭数に関するデータと、アライグマの捕獲ワナ数と捕獲頭数に関するデータの収集を継続的に行い、それぞれ電子化とGIS 化を行う。
2. 哺乳類3種の個体群動態モデルの構築と将来予測
森林被覆率や市街地など分布に重要な影響を与えると思われる情報を組み込んだ個体群動態モデルを構築し、シカの成長率や移動率の推定を行う。推定された個体群パラメータをもとに、2015年から10-20年間程度の個体群動態を予測する。予測の不確実性を考慮するため、パラメータ値を無作為抽出したシミュレーションを繰り返し、2×2km メッシュにおける局所密度の予測値の信頼区間を算出する。アライグマとイノシシに関しては、市町村単位に個体数推定と成長率を推定し、10-20年間後の個体数の分布を予測する
3. 各種作物の被害率を予測する統計モデルの構築とその将来予測
農家に対する農作物被害に関するアンケートを新たに行い、推定生息頭数と主観を含む被害報告からベイズ統計を用いて、シカとイノシシによる実際の被害率を推定する。つぎに、動物の密度分布、密度と被害率の関係性、農地利用区分の3者を統合し、2×2km メッシュごとに各種農作物の被害の将来予測を10—20年間程度のスケールで行う。
4. 哺乳類3 種の最適管理戦略の探索
捕獲努力量と捕獲頭数に関するデータに基づき、捕獲努力量に対する捕獲頭数(捕獲効率)を推定する。捕獲効率は、銃や箱ワナなど捕獲方法ごとに求める。個体群動態モデルによる個体数の将来予測と、各種作物の被害率の推定結果に基づき、複数種の哺乳類を対象として、シミュレーテッド・アニーリング法により予算や人的資源に限りがある中での捕獲努力量の最適配分を導出する。捕獲努力量に関する情報は限られているために情報ギャップ理論により捕獲効率の不確実性に対して頑健な捕獲努力の空間配分を求める。
外部との連携
分担者: 宮下直教授、鈴木牧准教授(東京大学)
研究協力者: 浅田正彦博士(AMAC)、長田穣氏(地環研)、栗山武夫(東邦大学)、香川幸太郎(東京大学)
- 関連する研究課題
課題代表者
横溝 裕行
- 環境リスク・健康領域
リスク管理戦略研究室 - 主幹研究員
- 博士 (理学)
- 生物学