- 予算区分
- BA 環境-地球推進 D-092
- 研究課題コード
- 0911BA006
- 開始/終了年度
- 2009~2011年
- キーワード(日本語)
- 東シナ海,長江流域,統合環境管理
- キーワード(英語)
- East China Sea, Changjiang River basin, Integrated environmental management
研究概要
本研究の目標は、近年急速に経済発展した長江デルタに代表される新たな負荷発生源が東シナ海の海洋環境に及ぼす影響を評価すること、陸域からの汚濁負荷削減による効果的な海洋環境・生態系サービスの持続性確保のための環境政策オプションを提案すること、また海洋環境に対するこれらの実施効果を事前予測することである。具体的には、(1) 栄養塩過剰供給による長江沿岸域の環境劣化の時系列的検討と、東シナ海生態系への影響の構造解明と定量化、(2) 人文科学と自然科学を融合した視点に立脚した上海経済圏からの栄養塩発生量の高精度な推定、(3) 前記の(1)と(2)の成果を基礎とする、長江デルタ、特に上海経済圏から海域への栄養塩負荷量の適正さを評価するモデル(陸域影響診断モデル)の開発を実施する。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
上記の目標を達成するため、次の4つのサブテーマによる研究を実施する。サブテーマ(1)「長江起源水による東シナ海生態系の変調把捉に関する研究」では、既存観測データの解析や海洋観測による実態調査を通じて、陸域負荷と陸棚域環境の関連性の評価を行い、長江起源水による東シナ海海洋生態系の変調の有無を検討する。サブテーマ(2)「長江デルタの農業構造転換に伴う陸域負荷構造の変化に関する開発地理学的研究」では、上海経済圏の農業構造の変化を、生活レベルと地域経済レベルの視点から、現地調査と統計解析的な手法を融合した方法を用いて検討し、農業系からの負荷発生量推定手法を開発する。 サブテーマ(3) 「長江中下流域都市活動起源の栄養塩負荷量の推定に関する研究」では、定期水質観測データにより検証したSWATモデルを用いて長江デルタ上流からの汚濁負荷量を定量する。また長江デルタ、上海経済圏を中心とする都市活動、工業生産活動、都市生活からの栄養塩負荷量および負荷構造に関するデータベースを都市における経済活動と生活様式の変化の視点を元に構築する。サブテーマ(4) 「東シナ海生態系保全に向けた長江流域圏及び海域環境管理手法の開発」では、栄養塩負荷の削減対策を目標とする総合的な流域−沿岸−海洋管理手法を整理・検討し、沿岸域・流域統合的管理への基本的な枠組みを提示する。
今年度の研究概要
(1)東シナ海環境につき、これまでに取得した中国側データを整理し、日本側のデータとの比較検討および変遷解析に着手する。また、日本国経済水域西端の定線調査を行い、長江希釈水の影響を及ぼす範囲において沿岸赤潮原因種の陸棚での出現の有無を確認するとともに海洋環境基礎データを収集する。
(2)現地における生活空間というミクロなレベル(農家・集落)の観察を進め、農業構造変化の実態に関するイメージ、仮説を確立する。また、景観観察、農業・農村の今昔および現在の地域問題等に関する聞き取り調査を実施し、同時に、郷鎮政府関係者から行政サイドの地域問題への対応に関する資料収集を行う。
(3)中国科学院と共同で長江デルタ上流の大通水文観測点において定期的な栄養塩等の水質観測を実施する。そのデータに基づき長江流域(デルタを除く)を対象として開発を進めている水物質循環モデルの高精度化を図り、長江デルタ上流からの汚濁負荷量を定量する。さらに、上海および周辺域において入手可能な統計情報を収集・整理するとともに聞き取り調査を実施し、負荷量推計と負荷構造把握に必要なデータベースの構築に着手する。
(4)中国浙江海洋大学との共同による中国沿岸の赤潮発生状況、生態系遷移に関する情報を整理し、データベースを構築する他、長江河口域、杭州湾、大陸棚の海底地形データ等を整備し、東シナ海を対象とした三次元流動モデルを開発する。