- 予算区分
- AA 中核研究
- 研究課題コード
- 0610AA402
- 開始/終了年度
- 2006~2010年
- キーワード(日本語)
- 水環境,物質循環,持続的環境管理,技術オプション
- キーワード(英語)
- WATER ENVIRONMENTS, MATERIAL CYCLES, SUSTAINABLE ENVIRONMENTAL MANAGEMENT, TECHNOLOGY ALTERNATIVES
研究概要
長江、黄河等東アジア地域の流域圏では、急速な経済発展に伴う水需要量や水質汚濁負荷の増大によって、陸域の水不足と水汚染、沿岸域・海域生態系の劣化が深刻化すると共に、流域圏に支えられかつ流域圏に負荷を及ぼしている都市におけるエネルギー・水資源制約および水質の問題がいっそう深刻化している。これらの問題は、中国のみならず、日本および東アジア各国に直接的、間接的に影響を及ぼしている。これらの影響およびそれの対策技術・政策の適応性と効果を定量的に評価し、持続可能な水環境管理に向けた科学的基盤の確立が緊急の課題になっている。本研究プロジェクトでは、国際共同研究による東アジアの流域圏、沿岸域・海域および拠点都市における水環境に関する科学的知見の集積と持続可能な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組合せ、水・物質循環評価システムの開発を目的とする。特に、都市、農村と流域生態系の共生の視点から、都市・流域圏における技術・施策の導入によるケーススタディの結果に基づく、適切な技術システムと政策プログラムの設計を含む流域の長期シナリオ・ビジョンを構築するための方法論の開発を目指している。
研究の性格
- 主たるもの:技術開発・評価
- 従たるもの:行政支援調査・研究
全体計画
広域的な水・物質循環を評価するためのリモートセンシング観測技術、新しい計測手法等による観測システムを活用し、衛星データ、GIS、観測データ等に基づく、水・熱・物質循環を考慮した東アジア環境情報データベースを構築する。次に、上述のデータベースに基づき、広域的な気象・地形・土地被覆の条件が互いに影響し合う複雑な過程、相互関係を調べていくことにより、水・物質循環を評価するモデルを開発する。それによって、人間活動による土地改変や気候変化などが、水不足・流出等の水循環、炭素・窒素等の物質循環、海洋生態系に及ぼす影響を評価する。さらに、地域における環境管理の技術インベントリを整備し、流域圏の持続性評価指標体系を構築することにより、技術導入効果に基づく適切な技術システムと政策プログラムを評価し、設計する。具体的に、(1)流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築、(2) 長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明、(3) 拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築など三つのサブテーマにおいて研究計画を立てている。
今年度の研究概要
(1) 流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築:
中国長江水利委員会との共同で南水北調の水源地である漢江で自動水質観測システムの維持管理および測定データのキャリブレーションを行う。また、最新の衛星データを用いて長江流域の高精度の地形図、水系図、植生指数、表面温度などのデジタルマップセットを作成し、さらに、流域の気象・水文・水質観測データや人間生活に関する調査データなどを収集し、長江流域水環境情報システムを更新する。次に、開発された流域圏水・物質循環評価モデルに必要となるパラメータや原単位などを調査し、陸域から河川への炭素・窒素負荷量の推定を行う。上記の評価モデルを、長江水利委員会の生態修復テストサイトである漢江支流域に適用し、人間生活の変化や土地改造などの生態修復事業が流域の水環境に与える影響について数値シミュレーションで検討する。最後に、日中水環境パートナーシップにおいて農村地域等に適した分散型生活排水処理技術を選定し、中国の農村地域に導入し実証モデルの構築事業に取り組む。
(2) 長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明:
東シナ海の環境劣化評価を目的として、長江河口・沿岸における赤潮発生状況や陸棚域の衛星クロロフィルデータ等の収集整理を行う。陸棚域の航海観測、試料分析を通じて、陸棚低次生態系構造の特徴の抽出を行う。具体的には(1)安定同位体比を用いた硝酸塩起源の評価、(2)微細乱流構造が藻類群集形成・維持機構に及ぼす影響解析、(3) 陸棚域で優占的に出現する渦鞭毛藻の増殖特性の解析等を大型培養槽(海水マイクロコズム)を用いて行う。上記研究に基づいて昨年度までに構築した水・熱・物質動態及び低次水界生態系モデルの改良に取組むとともに、長江デルタの都市化に伴う陸域からの汚濁負荷量の変化と東シナ海における藻類種変化の関連性について数値シミュレーションで検討する。
(3) 拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築:
アジアの資源経済の拠点都市を対象として、広域な環境制約下での都市スケールの技術・施策の効果を評価できる、水・物質・エネルギーの統合型環境アセスメントモデル(NIEC-Urbanモデル)の開発を進め、中国瀋陽市、遼寧省、中国環境科学院応用生態研究所との連携のためのプラットフォームを展開する。瀋陽市と遼寧省を対象として、水資源、大気汚染、物質循環を含む統合的環境データベースの構築を進め、統合型のモデルを用いて立地・移動特性を解析する。産業化・都市化の中核拠点都市として、瀋陽市に焦点をあて、大連市と武漢市の比較調査を実施する。国内では、包括的研究協力協定を締結した川崎市との連携により、日本の技術をアジアに展開する産官学連携研究を推進する。これらの研究を踏まえ、環境技術導入の政策シナリオの評価及び水資源の循環利用都市産業技術システム導入シナリオの評価研究を進め、さらに、中国研究機関と連携する複数の国際会議の開催により、国際的なベンチマーク構築に向けての情報発信を行う。
備考
海外共同研究機関:長江水利委員会,中国科学院地理科学与資源研究所,浙江海洋大学,上海水産大学,中国科学院瀋陽応用生態研究所,日中友好環境保全センター,中国環境科学院,清華大学,大連理工大学,武漢大学,南開大学,瀋陽大学,遼寧省環境科学研究院,国連環境計画国際環境技術センター,瀋陽市環境保護部,韓国蔚山大学等