ダイオキシン類の新たな計測手法に関する開発研究(ダイオキシン類対策高度化研究)
平成12〜14年度
国立環境研究所特別研究報告 SR-49-2003
1.はじめに
(1) 研究の背景
ダイオキシン対策関係閣僚会議は、平成11年3月24日にダイオキシン対策推進基本方針をとりまとめた。その中でダイオキシン類に関する検査体制の整備や、調査研究及び技術開発の推進がうたわれている。対策を講ずる上で、簡易測定分析など、新たなダイオキシンの分析法の果たす役割は大きいと考えられ、そのような分析法の開発の需要は、非常に大きいといえる。
ダイオキシンは毒性が高い、また存在量の極めて少ない汚染物質であり、その分析は最も難しい超微量分析である。圧倒的に多量に存在する共存物質を除き、且つ極めて微量を測定しなければならない。1970年代より発達してきたダイオキシン微量分析は、電子捕獲型検出器付ガスクロマトグラフ、パックドカラム/ガスクロマトグラフ/低分解能質量分析法、キャピラリカラムガスクロマトグラフ/低分解能質量分析法を経て現在のキャピラリカラムガスクロマトグラフ/高分解能質量分析法に到達し、環境試料の微量測定ができるに至っている。また高分解能質量分析法をもってしても、その選択性は十分ではなく、試料の分析にあたっては装置にかける前に、多段階のクリーンアップ操作によって夾雑物を除去しなければならない。これは、分析にかかる時間と人手を必要としており、結果として分析コストの1/3以上を占めていると推定される。ダイオキシン分析を複雑にしているもう一つの要因がある。それはダイオキシン類の異性体は多数あり、有毒なダイオキシンはその一部であるが、その各異性体を測定しなければ正確な毒性評価が定まらないことである。
このように、現状の分析法は多くの試行の上で研究されてきたものであり、今後も基準的な公定分析法として残るものと考えられる。新しい分析法は、現行分析法の欠点を補って、ダイオキシン対策をすすめる上での実践的な分析法として期待される。
(2) 目的
ダイオキシン類の分析の簡易化は、分析時間の短縮、分析者の負担低減、分析コストの削減に大きく寄与し、ダイオキシン類モニタリングの定常化を可能にする。このことによって、きめ細かいリスク管理と非常時における迅速な対応が可能になる。また、ダイオキシン分析技術の高水準化は、分析精度とデータの信頼性の向上に寄与し、ダイオキシン類の正確な分布と挙動、汚染源と経路の解明に貢献するものと考えられる。それによって、ダイオキシン類汚染に対する迅速、的確な対応が可能になると期待される。
2.研究の概要
本研究は、当初ダイオキシン類の微量分析技術の開発とダイオキシン類を迅速に計測する手法の開発を、産官学の協力のもとで行うことにより、ダイオキシン類問題の全体像及び詳細な分布(汚染)状況を明らかにし、それらの対策を促進することで進められた。以下のサブテーマに分けて研究を推進した。
サブテーマI.ダイオキシン類分析に関わる標準物質に関する研究
ダイオキシン類の標準物質の調整と種々の濃度評価と標準試料の安定性について行う予定であったが、市販の標準液が種々に販売され、濃度の保証されているたま本研究では、安価な標準物質という考えのもと現行の分析法より、標準物質の種類を少なく、検出法も簡便な方法に関して可能性を検討した。よって、ダイオキシン類分析に関わる内標準物質の種類による分析値の評価に関する検討を行った。
サブテーマII.ダイオキシン類の簡易計測法の開発に関する研究
II-1.低分解能GC/MSを用いたダイオキシン類の同定手法に関する研究
低分解能GC/MSによる計測法と高分解能GC/MSと比較し、適用可能な試料の種類及び範囲、必要な前処理方法等を検討し、必要に応じて装置及び計測法を改良した。
II-2.分離濃縮導入システムGC/MSを用いたダイオキシン類の測定に関する研究、新規開発及び既存の手法の前処理を含めた最適化を通じて、迅速・簡便なダイオキシン類の検出に有効な手法について検討した。
II-3.前処理の簡易化に関する研究
分析前処理の簡易化を行い、前処理における問題点、改良点などを明確にし、その実用性、適用範囲等について検討を行った。
サブテーマIII.ダイオキシン類のオンサイト測定法に関する研究
III-1.排ガスのリアルタイムモニタリング手法の開発に関する研究
焼却施設などの排ガスのリアルタイムモニタリング手法の開発(ダイオキシン連続モニタリングシステム概略図を参照)・改良を行い、現場での応用を目指した。本テーマは移動型ダイオキシン類測定手法の開発に関する研究に続くものであり、移動型ダイオキシン分析手法の開発として改良を行い、現場での応用を目指ことしている。
3.今後の検討課題
低分解能GC/MSを用いたダイオキシン類の同定手法に関する研究においては、低分解能GC/MSの更なる高感度化により、高濃度試料だけでなく、超微量の環境試料に対応する機器の開発が必要である。また、GC/MSのシステムの全自動化を依り推進する必要がある。
前処理の簡易化に関する研究においては、分析前処理の簡易化を行い、前処理における問題点などを明確にしたが、種々の環境試料に対する実用性、適用範囲等を検討し改良すると供に、新しい技術を導入するべきと判断される。
ダイオキシン類のオンサイト測定法に関する研究においては、焼却施設などの排ガスのリアルタイムモニタリング手法の開発・改良を行なったが、現時点では、一応の装置が組み上がった状態であり、標準物質を用いての分析適用が可能であることが明らかとなった。今後さらに装置開発を継続し、OCDD,OCDFでのピークの広がりを解消すること等の改良、また実際の煙導と接続して、応用実験データを積み重ねることにより、実用性の向上及びダイオキシン類計測への適用性の検証を行う予定である。本テーマは移動型ダイオキシン類測定手法の開発に関する研究に続くものであり、移動型ダイオキシン分析手法の開発として各サブテーマの開発との連携により、改良を加え、現場での応用を目指ことが検討課題である。
独立行政法人国立環境研究所
化学環境研究領域計測管理研究室 伊藤裕康