独立行政法人として,環境研のこれまでの5年,これからの5年 〜第2期中期計画の開始に向けて〜
村川 昌道
1 独立行政法人としてのこれまでの5年
国立環境研究所は,平成13年4月に特定独立行政法人(いわゆる公務員型の独立行政法人)となってちょうど今年で5年になります。それまでは,環境省の付属の研究機関でしたので,毎年度予算を要求し,それを執行するという1年間のサイクルで業務を行ってきましたが,独立行政法人になり次のように変わりました。
始めに環境大臣が5年間に達成しなければならない中期目標を示します。国立環境研究所では,これを受けて中期計画を立てこれが環境大臣から認可されると,その後5年間かけてその達成に努めます。そして,5年間が終わった後に評価を受け,その結果によって組織のあり方(廃止,統合なども含まれます。)を判断されることになります。
中期計画のうち4年を終えた昨年の8月に,その4年間の評価が行われました。そして,その評価をもとに組織のあり方についても検討がなされました。その結果,最終的には,環境分野における中核的な研究機関としての取組みを一層強化する観点から「研究の選択と集中」,「業務運営の改善」そして「非公務員化」を行うこととされました。
この原稿の執筆時点で,「非公務員化」を実現するための独立行政法人国立環境研究所法の改正が国会で審議されています。また,「研究の選択と集中」及び「業務運営の改善」を盛り込んだ第2期中期計画も環境省の評価委員会で審議が進められています。おそらく,3月末日までに法案は成立し,第2期中期計画も認可されて,4月1日から新しい法に基づく組織で新しい中期計画がスタートしていることと思います。
2 これからの5年
国立環境研究所のこれからの5年間については,第2期中期計画にその内容が詳しく書かれています。中期計画は法律に基づいて作られるものなので,そこに書かれる事項は厳密に定められていますが,そのまま並べると少しわかりにくいのでおおざっぱにまとめると,次のようになります。
a.どんな業務を行うか
(国立環境研究所の場合,環境研究と環境情報の収集・提供 等)
b.どのようにして業務を効率化していくか
c.予算(運営費交付金その他)
d.施設・設備の維持管理
e.人事の計画(常勤職員数の指標)
f.その他(環境配慮等)
となります。これらのうち,a.にあたる業務の内容について,以下にもう少し詳しく述べ,最後に新しい組織についても触れたいと思います。
(1)重点研究プログラム
これまでの中期計画では,社会的要請が強く,研究の観点からも大きな課題を有している研究を重点特別研究プロジェクトとして6つの分野を定めていました。第2期中期計画では,一層の重点化を図って研究資源を集中させ,研究内容とその実施体制を4つの重点研究プログラムに再編することにしています。
重点研究プログラムの設定に当たっては,環境基本計画,科学技術基本計画,「環境研究・技術開発の推進戦略について」等が推進を求めている分野及び環境省等の環境政策から求められている分野を踏まえ,さらに,全地球的な環境の健全性を確保し,持続可能な社会を構築するために,10年先にあるべき環境や社会の姿及び課題を見越して取り組むべき研究課題として,以下の4つを設定しました。
各プログラムには,3~4の中核研究プロジェクトが含まれており,これらを中心に重点的に予算と研究者の配分を行うこととしています。
地球温暖化研究プログラム
a.温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
b.衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
c.気候・影響・土地利用モデルの統合による地球 温暖化リスクの評価
d.脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
循環型社会研究プログラム
a.近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価
b.資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価
c.廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発
d.国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築
環境リスク研究プログラム
a.化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
b.感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
c.環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
d.生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
アジア自然共生研究プログラム
a.アジアの大気環境評価手法の開発
b.東アジアの水・物質循環評価システムの開発
c.流域生態系における環境影響評価手法の開発
(2)基盤的な調査・研究活動
重点研究プログラムに資源を集中する一方,さらにその先を見通したより先見的な環境研究や,今後新たにそして突然に発生する重大な環境問題に対しても,国立環境研究所は対応していくことにしています。このため,基盤的な調査・研究,創造的・先導的な研究についてもこれまでどおり行っていきます。
(3)知的研究基盤の整備
国立環境研究所の内部だけでなく,外部の様々な研究に資するため,以下の知的研究基盤を整備します。これらの知的研究基盤については,可能な範囲で関係の研究機関を始め広く一般の利用に供することにしています。
a.環境標準試料及び分析用標準物質の作製並びに環境試料の長期保存(スペシメンバンキング)
b.環境測定等に関する標準機関(レファレンス・ラボラトリー)としての機能の強化
c.環境保全に有用な環境微生物の探索,収集及び保存,試験用生物等の開発及び飼育・栽培並びに絶滅の危機に瀕する野生生物種の細胞・遺伝子保存
d.地球環境の戦略的モニタリングの実施,地球環境データベースの整備,地球環境研究の総合化及び支援
e.資源循環・廃棄物管理に関するデータベース等の作成
f.環境リスクに関するデータベース等の作成
(4)環境情報の収集と提供
国民や事業者が環境問題に関する理解を深めていく上でも,また自発的な環境保全活動等をさらに促進する上でも,環境に関する正確な情報の提供は不可欠です。このため,国立環境研究所は,国内・国外の環境情報を体系的に収集・整理し,インターネット等を通じて,できるだけわかりやすく提供します。
(5)新しい組織
国立環境研究所は,これまでの5年間は,6研究領域を縦糸とし,6重点研究プロジェクト+3センター等を横糸とするいわゆるマトリクス型の組織構成をとってきました。これからは,第2期中期計画に基づきさらに集中と選択を進め,このマトリクス型をさらに発展させることにしています。
4重点研究プログラムのうち,温暖化,循環,環境リスクの各重点研究プログラムについてはそれぞれ地球環境研究センター,循環型社会・廃棄物研究センター,環境リスク研究センターの3センターが実施することにします。これら3センターはこれまでのセンターの業務に加えて重点研究プログラムを担っていくことになるため,その組織を大幅に見直しています。また,アジアの重点研究プログラムについては,新たな組織であるアジア自然共生研究グループを設け重点研究プログラムを担当することになります。
6研究領域は基盤的な調査研究・活動を行うとともに,重点研究プログラムにも関与していきます。これら新たな研究に対応するため,各研究領域とも組織を見直しています。
また,主任研究企画官室は企画部と名称を変更するとともに,これまでの2室体制から3室体制とし機能を強化していくことにしています。
以上により,国立環境研究所は新たな法の下で,新たな組織により,新たな中期計画の達成を目指して今後も活動していきます。
執筆者プロフィール:
平成17年7月に環境再生保全機構から国立環境研究所に赴任し,9月から主任研究企画官,そして18年4月から現職。山口県生まれ。昭和49年に環境庁に入り,化学系の技官として大気,水質,アセスなどを担当してきました。一度は国立環境研究所に勤務してみたいとずっと思っていたのですが,ようやくその望みがかなったというところです。趣味はジョギングと映画を見ること。ただ,このところいそがしくてどちらもそこそこというところです。