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オックスフォード雑感

海外調査研究日誌

米田 穣

 2003年2月から2年間,日本学術振興会海外特別研究員として,英国のオックスフォード大学で研究する機会を頂きました。派遣先は,Research Laboratory for Archaeology and the History of Art(RLAHA)の加速器質量分析(AMS)ユニットです。この研究室はAMSによる放射性炭素年代測定を世界に先駆けて実用化し,数多くの成果をあげてきました。キリストの遺骸をつつんだとされるトリノの聖骸布の年代測定などで一般にもよく知られた存在です。ところでオックスフォード大学の名前は多くの日本人に知られていますが,ロンドンにあると思っている方も少なくないようです。オックスフォード市(写真)はロンドンの北西に位置し,ロンドン中心部から高速バスで約1時間を要します。またヒースロー国際空港からもバスで1時間程ですので,ちょうど,つくばと東京,成田の位置関係と似ています。大学を中心とした学園都市というのもつくばに似ているかもしれません。15分も歩けば牧草地が広がっている田舎町です。

町並みの写真
写真.オックスフォードの町並み
左手が大学のシアター,右手が書店のブラックウェルズ。

 研究の詳細は別稿に譲ることにして,今回はオックスフォードとつくばの研究環境の違いについて考えてみたいと思います。とはいうもののRLAHAの分析装置については国環研のものと大きく異なることはありませんでした。技術者と研究者の役割分担が明確だという印象はありますが,仕事の進め方もそれほどの違いはありません。印象的だったのは,内外の研究者との交流が非常に活発だということです。RLAHAでは全員があつまるティータイムが毎日2回あり(午後はコーヒータイムだそうです),研究者間での情報交換が雑談の合間になされます。また,学期期間中は著名な研究者や政治家等による公開セミナーが毎週のように開催され,世界中からサバティカルや共同研究で第一線の研究者が次々とやってきます。論文化される前の情報が向こうからどんどん飛び込んでくるのです。

 オックスフォード大学は英国の伝統的なカレッジ・システムを守っており,大学の教育は独立したカレッジが中心となります。学生達は「ハリー・ポッター」の舞台のような古色蒼然とした建物で日常生活を送っています。カレッジでは専門の異なる研究者が同じテーブルを囲むことが日常です。また歴史のあるカレッジ群は街の一等地に位置しており,そこに訪問教授用の立派なゲストハウスを用意して,研究者を迎え入れています。建物の外観は趣あるのですが,内側は改装されインターネットなどの設備も整えられているそうです。図書館利用証や電子メールアカウントなども滞りなく準備されます。歴史と名前だけではなく,外からの滞在者をひきつけるための積極的な努力を惜しまない姿勢が感じられました。

 中世の趣を残した魅力的なパブが街の辻々にある点も,個人的には見逃せません。イギリス人の同僚の話によると,行きつけのパブには常連の飲み仲間がいるそうです。パブ・メイトと呼ぶそうですが,お互いの職業や肩書きをしらないこともあるとか。見知らぬもの同士で,政治や科学に関する議論がはじまったりすることもたびたびです。パブのカウンターは,紹介無しで知らない人に話しかけても失礼にあたらないイギリス唯一の場所なのです。

 オックスフォードの大学街が魅力的なのは,歴史があるからだけではありません。最先端のアイデアを持っている人々を積極的に招き入れるための投資がなされ,それが機能することよって先端を見つけるアンテナにますます磨きがかかる好循環が根底にあるようです。歴史ではかないませんが,様々な分野の研究者が暮らしているつくばにも新しい学問を生み出す潜在力があると思われます。残念ながら車社会のつくばではパブを作っても上手くありませんから,まずは研究所のゲストハウスから手をつけてはいかがでしょうか?

 (よねだ みのる,化学環境研究領域)

執筆者プロフィール:

1995年の入所以来,加速器質量分析装置をつかった環境研究に取り組んでいる。もともとの専門だった先史人類学もしぶとく研究しており,環境研究との統合を目指して奮闘中。