ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

粒子状物質中の炭素成分について

環境問題基礎知識

長谷川就一

 大気中に浮遊している粒子状物質(Particulate Matter, PM)による大気汚染が大都市を中心として問題となっており,呼吸器や循環器などの人体への影響が懸念されています。粒子状物質にはさまざまな物質が含まれていますが,大都市地域で最も主要な成分は炭素成分で,重量濃度にして全体の3~4割を占めています。この大部分は粒子の直径(粒径)が2.5µm以下の微小な粒子(1µmは1000分の1mm),すなわちPM2.5に含まれており,また,その中には人体に影響があると考えられる物質が含まれているため,炭素成分の構成とその濃度を分析することは非常に重要です。

 炭素成分は,無機炭素と有機炭素に大きく分けられます(図1参照)。無機炭素は,元素状炭素(エレメンタル・カーボン)と炭酸塩炭素からなります。元素状炭素は,炭化水素が高温で不完全燃焼する際などに生成します。元素状炭素は人間の目には黒く見え,光を吸収することから,黒色炭素(ブラック・カーボン)とも呼ばれ,主にボイラーやエンジンなどでの化石燃料の燃焼によって排出されます。中でも,ディーゼル排気由来の粒子,DEP(Diesel Exhaust Particles)には,“黒煙”や“煤(すす)”という言葉からもわかるように,元素状炭素が多く含まれています。また,炭酸塩炭素は炭酸イオン(CO32-)に含まれる炭素で,土壌に含まれる炭酸カルシウムなどがその例です。通常の大気環境では,この炭酸塩炭素が含まれる割合は非常に小さくなっています。

図1
図1.粒子状物質中の炭素成分の分類

 一方,有機炭素は,有機物に含まれる炭素を指します。粒子状物質に含まれる有機物は数百種類以上あることが知られていますが,未把握のものも多数あると考えられています。有機炭素の由来は様々で,発生源から直接排出される一次生成粒子だけでなく,大気中での反応などにより,気体の揮発性有機物(Volatile Organic Compounds, VOC)が凝縮して粒子化したり,元々浮遊している粒子に吸着してできる二次生成粒子もあります。一次生成粒子には,元素状炭素と共存してボイラーやエンジンから排出される粒子や,森林火災やたき火の煙のような有機炭素が主体のものなどがあります。これらに含まれる代表的な物質には,多環芳香族炭化水素とそのニトロ化誘導体,半揮発性の鎖状炭化水素などがあります(図1)。これに対して二次生成粒子には,例えば自動車排ガスに含まれる炭化水素が光化学反応により粒子となるものがあり,これが光化学スモッグを構成するものの1つとなっています。このような二次生成粒子に含まれる代表的な物質には,カルボン酸や芳香族カルボン酸などがあります(図1)。

 ここで図2に都市域で採取された粒子状物質の電子顕微鏡写真を示します。糸くずのような不規則な形をしているのが煤粒子です。この煤粒子を物質的に見ると,この特徴的な形状から元素状炭素であることがわかりますが,その表面に多環芳香族炭化水素などの有機物や硫酸などの分子が吸着していることが多いと考えられています。

図2
図2.都市域で採取された粒子状物質の電子顕微鏡写真

 こうした元素状炭素と有機炭素の重量濃度を測定するにはいくつか方法があります。まず,有機炭素は,図1に示したような個々の物質について,ベンゼンやメタノールなどの溶媒に抽出してGC(ガスクロマトグラフ)やHPLC(高速液体クロマトグラフ)などの装置で分析する方法があります。しかし,上でも述べたように有機物は数百種類以上にも及び,このような方法を用いてもひとつひとつの物質を同定できるのは一部に過ぎません。そこで,元素状炭素と有機炭素の揮発温度の違いを利用して分析する熱分離法が広く用いられています。この場合,有機炭素は個々の物質としてではなく,有機炭素全体として分析されることになりますが,元素状炭素と有機炭素の両者を比較的簡便に分析することができます。具体的には,ろ紙上に集めた粒子状物質を段階的に温度を上げて加熱していき,揮発してくる炭素を二酸化炭素やメタンに変換して測定します。通常,室温から900℃程度まで加熱しますが,まず有機炭素が揮発し,続いて元素状炭素が揮発します。ただし,どの温度で有機炭素と元素状炭素の境目とするかは統一されておらず,国内でも研究者によって見解が異なっています。これは,加熱する際の酸素濃度にも依存し,また,加熱速度などが用いる装置によってちがうという理由で,分析条件を統一するのは難しい状況です。

 ところで,元素状炭素は,上でも述べたように黒く見える(光を吸収する)ことから,レーザー光を使ってろ紙上の粒子状物質の黒さ(黒化度)を測定して濃度を求める光学法があります。この方法は経時変化のモニタリングに適していることから,最近注目されています。また,この黒化度を利用して,熱分離法の有機炭素と元素状炭素の分離点を,黒化度が初期値に比べて小さくなる直前として定義すれば,明確に決定することができます。これを熱光学法と呼んでいます。この方法は国内ではまだ普及していませんが,国立環境研究所ではこの熱光学法による装置を導入し,標準的な測定法として確立すべく,さまざまな比較や検証を行っているところです。

(はせがわ しゅういち,PM2.5・DEP研究プロジェクト・NIESポスドクフェロー)

執筆者プロフィール

 1973年生,北海道・札幌出身。初めての道外での生活もまもなく2年となり,少しは慣れてきたが,まだ夏の暑さと雪の恋しさに耐えるのは少々つらい。しかし,まだ半人前の私にとって,国立環境研究所での経験が血となり肉となると信じて研究に打ち込む。趣味:風景写真撮影・鑑賞,汽車旅。