ISO14001
環境問題豆知識
森 保文
去る3月,環境優良企業と言われていたある企業が,河川に高濃度のダイオキシンを流していたことが明らかとなり,驚きを持って受け止められた。この企業が環境面に配慮していることの象徴がISO14001の審査登録(認証取得とも言う)であった。しかし,ISO14001を正しく理解するならば,この事件は特に驚くべきものではないのである。
ISO14001とは,環境負荷を継続的に改善できるシステムを規定した国際規格であり,これを構築した企業,自治体などの組織は審査に合格すると審査登録を得ることができる。国際規格とは,日本のJIS 規格の国際版と考えればわかりやすい。この規格は,環境方針を決め,計画を立てて,それを実施運用し,結果について点検および是正処置を実施し,経営層によりシステムの見直しを行うことを内容としている。ここで注意すべきことは,中身の決定が組織に任されていることである。そのため,改善すべき環境負荷についても組織が選択でき,環境負荷全般の改善が約束されているわけではない。さらに重要なことは,ISO14001はシステムについての規格であるから,環境負荷を改善するであろう計画などについては評価するものの,実際に環境負荷が改善されるという保証はないことである。
ISO14001は1992年のブラジルの地球サミットでの提案を受けて,ISO(国際標準化機構)が作成,または作成中の環境に関する一連の国際規格の一つであり, 1996年9月1日に発行された。これらの規格(ISO14000シリーズと呼ばれる)の背景には,産業界の環境に関する自主的取り組みが地球温暖化など深刻化する環境問題の解決に不可欠であるという認識がある。反面,自主的取り組みを先行させることで法規制の導入を防いで,活動の自由を確保したいという産業界のねらいがあるのも事実である。同時に,国際競争の上で,環境対策を実施しないことで商品を安く製造する,いわゆる環境ダンピングを防ぐ道具として,環境に関する国際規格が必要とされている面も否定できない。日本では2000年2月時点で3000を超える組織が,世界では1999年末で13,000を超える組織が審査登録している。
組織は審査登録機関による審査を経て審査登録を受け,審査登録機関は各国の認定機関から認定を受けていなければならない。日本では財団法人日本適合性認定協会(JAB)が認定機関となっている。審査登録機関に対する認定基準が重要となるが,認定は国単位で行われており,国際的な統一基準は作られていない。そのため今のところ国際規格としては不完全であるが,将来的には統一基準が制定されて,ある国で認定された審査登録機関の登録がすべての国で通用する相互認証が実現する予定である。
ISO14001を審査登録することの環境面での利点は,システムの継続改善により,結果として環境負荷が徐々に低減されることと考えられる。しかもその対象は法規制の範囲外におよび,また法規制対象についても規制よりも厳しい基準を企業が設定する可能性がある。また環境に被害を与える事故の未然防止によるリスク回避や組織内での環境担当者の権限強化という副次的な効果も指摘されている。
ところで,ISO14001は対象を企業に限らず,すべての組織としている。そのため,いくつかの自治体や公立の研究所なども審査登録している。自治体では,今のところ,適用範囲を事務作業などに限っているが,将来的にはISO14001が公共事業などを変化させるかもしれない。
このように,ISO14001は環境に関する自主的取り組みの規格であり,この規格が有意義に働くか否かは,組織のやる気にかかっている。冒頭の事件については,当の企業が作った目標などから見て,この企業が ISO14001に反したわけではない。しかし現在ISO14001審査登録を解消して,再取得にむけて環境管理の徹底をはかると述べている。やる気を引き出すという意味では国際規格ISO14001は役立っていると言えるだろう。
環境庁でのある会議で出た言葉が的を射ている。「ISO14001は環境優良組織へのパスポート,しかしパスポートを取得したからといって,外国に行った気になってはいけない。」