科学技術庁関連予算等による研究の現状(国立環境研究所における平成10年度の実施状況を中心として)
宇都宮 陽二朗
我が国は21世紀における「科学技術創造立国」を目指し,「科学技術基本法」を制定し(平成7年11月15日),科学技術の振興に関する施策を総合的・計画的に推進するため,「科学技術基本計画」を策定した(平成8年7月2日閣議決定)。同計画では,今後10年程度を見通した研究開発の推進に係る総合的方針や平成8年度から5年間に講ずる科学技術政策の具体的措置を定めている。ここには,1)研究者・研究支援者の養成・確保,研究開発システムの整備,各種評価の実施,2)研究開発,設備施設の整備,情報化の促進,知的基盤の整備,3)競争的資金及び重点的資金の拡充,基盤的資金の充実,4)私立大学の研究充実,5)民間の研究開発促進,国等の研究開発成果の活用,6)国際共同研究開発の推進,開発途上国等との科学技術協力の拡充,国際的科学技術活動強化の環境整備,7)地域の科学技術の振興,8)科学技術に関する学習の振興,理解の増進・関心の喚起などが掲げられている。
科学技術庁は,我が国の発展の基盤としての基礎研究の強化の重要性を認識し,I.科学技術振興調整費,II.国立機関原子力試験研究費,III.海洋開発及地球科学技術調査研究促進費等の研究費を国立試験研究機関及び大学等に助成してきた。科学技術振興調整費は,前記の基本法及び基本計画を受けて,近年増大・拡充されてきたが,当研究所の多くの研究者もこれに関与してきた(表1)。以下に,科学技術振興調整費を中心として,当研究所における科学技術庁関連予算による研究等の現状を紹介する。
科学技術振興調整費は,我が国の科学技術に関する最高審議機関である科学技術会議の総合調整機能を具体化するために昭和56年に創設された制度で,各省庁,大学,民間などの既存の研究体制の枠を超えた横断的・総合的な研究開発の推進を主たる目的としている。主な内容は,(1)境界領域,複合領域の基礎的・先導的研究の推進,(2)国立試験研究機関等を中心とする基礎研究の強力な推進,(3)科学技術面での国際貢献に資するための国際共同研究の推進,(4)従来にない新しい研究制度の試行的実施,(5)年度途中に発生した突発的事態等への柔軟かつ機動的な対応,(6)適切な研究評価の実施,研究開発の推進に必要な調査・分析の実施などである。
平成10年度の具体的運用としては,I.産学官連携プログラム(総合研究,生活・社会基盤研究),II.国際プログラム(国際共同研究総合推進制度 1.交流育成,2.国際ワークショップ,3.二国間型,4.多国間型),III.制度先導プログラム(知的基盤整備推進制度,目標達成型脳科学研究推進制度,流動促進研究制度),IV.国研活性化プログラム(中核的研究拠点育成,重点基礎研究),V.その他(調査・分析,緊急研究)が行われた。なお,科学技術振興事業団を通じて制度化されている科学技術特別研究員及び重点研究支援協力員制度を活用した研究を実施している。
総合研究では,重要な研究テーマについて産学官の研究ポテンシャルを結集し,複数機関の有機的連携の下に総合的な取り組みを推進する。研究期間はI期3年間,II期2年間であり,当研究所では7課題(I期4課題,II期3課題)に参加した。このうち,「バイカル湖の湖底泥を用いる長期環境変動の解析に関する研究」は,当研究所が中心となり,ロシアと共同で実施している大規模研究である。「炭素循環に関するグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究」は,平成10年度に開始された新規課題である。
生活・社会基盤研究では,国研,大学,地方自治体,民間の研究ポテンシャルを活用し,生活の質の向上及び地域の発展に資する目的志向的な研究開発を総合的に推進する。当研究所では,(1)生活者ニーズ対応研究5課題に参加した。研究期間はI期3年間が原則であるが,必要に応じ,II期3年間の延長がある。平成10年度から,「内分泌撹乱物質による生殖への影響とその作用機構に関する研究」および「環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究」を開始した。
国際共同研究総合推進制度は,個別重要国際共同研究等を基に,8年度に創設された制度である。重点協力分野において,将来の国際共同研究の芽の育成から様々なニーズに対応した国際共同研究までを一体的,総合的に推進する。科学技術協力協定等に基づいて,当研究所では,国際研究交流育成1課題を実施するとともにワークショップ2件について開催した。さらに二国間型9課題(イギリス,フランス,カナダ,ブラジル,中国,韓国)を行った。さらに,多国間型1課題「アジア地域の微生物研究ネットワークに関する研究」に参加した。
重点基礎研究では,各国研において,将来の技術展開の柱として期待される革新的技術シーズ創出のための基礎的研究を推進する。課題選定は各所長の裁量による。当研究所では,所内ヒアリングを経て,7課題を実施した。10年度は,本研究及び国際共同研究により,外国旅費等の手当が充足し,国際研究集会における研究発表および国際交流が推進された。知的基盤整備推進制度は,研究情報のデーターベース化に関する調査研究の推進制度で,平成10年度は「生物系研究資材のデータベース開発に関する総合的研究」を推進した。
重点研究支援協力員制度では,重点研究領域に研究内容や研究者ニーズに合わせて,高度な知識・技術を有する研究協力員のチームを手当し,的確な研究支援を行う。当研究所では7年度開始の「環境モニタリング手法開発のための基盤技術研究」として,衛星観測研究チーム等の研究業務を中心に6人,平成9年度開始の「東アジア地域の持続的発展に関する環境総合診断システムの構築に関する研究」に5人の研究支援協力員の派遣を受けて研究を推進した。さらに,国立試験研究機関におけるプロジェクト研究の活性化のため,平成9年度に開始した,高度な研究能力を有する中堅研究者を国立試験研究機関に派遣する特別流動研究員制度による特別流動研究員3名を加えて,「人類生存と地球環境保全のための環境リスクの評価および管理手法の確立」を実施した。ちなみに,重点研究支援協力員制度及び特別流動研究員制度は,科学技術振興事業団が科学技術庁の委託により実施している事業である。
なお,原子力試験研究費では,当研究所は環境対策(分解除去技術,影響解明,計測技術)に関する7課題を実施した。また,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費では,地球環境遠隔探査技術等の研究1課題,地球科学技術特定調査研究2課題に参加した。このうち「地球温暖化に影響を及ぼす原因の解明に関する研究」は,2~11年度の10年間に及ぶ長期観測研究である。
前述のように「科学技術基本計画」では「競争的資金の拡充」が指摘されている。こうした動きの一環として,平成7年度より開始された科学技術振興事業団による戦略的基礎研究推進事業は,戦略目標・研究領域における研究課題を公募しており,研究チームが年間予算,最高2億円で5年間実施する大型プロジェクトである。研究領域には,「環境低負荷型の社会システム」が含まれており,当研究所でも平成10年度の時点で11課題に参加している(表2)。このうち「微生物を活用する汚染土壌修復の基盤研究(平成8~13年度)」は当研究所が中心となり,有機塩素化合物や重金属等で汚染された土壌のバイオレメディエーション技術の構築に関する研究を実施している。また,平成10年度からは,新たに3課題が開始された。特に「リスク評価のためのダイオキシンによる内分泌撹乱作用の解明」は,当研究所が中心となって実験動物により受精卵から出生までの期間にダイオキシンを暴露させ内分泌撹乱作用を把握するとともにそのメカニズムを解明する研究である。
このほかに,NEDOの推進に係る独創的産業技術研究開発促進事業にも2課題に参加した。さらに,生物系特定産業技術研究推進機構(農水省所管)や医薬品機構(厚生省所管)等でも,競争的資金による公募型研究が推進されている。このような研究は,科学技術振興調整費とは異なる性格のため,現時点では多少運用に混乱が見られるが,今後拡充される同様の競争的研究資金を活用することにより研究資金の充実を図る必要があろう。
平成9年度から開始した地球フロンティア研究システム等による地球変動予測に関する研究,知的基盤整備推進制度,目標達成型脳科学研究推進制度,任期付研究員導入のための流動促進研究制度,平成10年度開始の計算機科学技術活用型特定研究開発推進事業等の新しい研究制度の活用も図られている。また,科学技術振興事業団等の特殊法人を介した競争的研究資金の導入増大が,他の国立研究機関と同様に,当研究所における研究資金の構成を大きく変えつつある。これらの研究資金の活用は,当研究所の研究の将来に益々重要となるであろう。