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富山国際学園 顧問 石井 吉徳

石井  吉徳の写真

 「汝,地の塩となれ」と言う譬えがある。これは塩の効力は,地味だが本質的に重要であると述べているのであろう。この言葉は,私には国家機関の心掛けを述べている様に思える。

 近年,国立研究機関,国研の改革が話題である。目標は2001年とされているが,現時点では,改革について具体的な方針が示されているわけではない。ナショナルセンターを目指せ,という意見も聞かれる。しかしナショナルセンターとは何か,定義があるわけでもない。このような状況では,国研は大学,企業の研究所など,日本の科学技術研究の枠組のなかで,どのように自らを位置づけるべきか,自分で論理構築するしかない。何故ならば,国研をいちばん良く知っているのは,国研自身だからである。

 一方,「国民のニーズ」という言葉がある。国研は「国民のニーズ」に沿った研究をすべきとの主張もある。これも,一見もっともだが,ここにも問題はある。それは日本において一般に,国家機関の持つ情報が,国民に正しく流されていない,という意見があるからである。

 このように,国家機関が国民からよく見えない,と言われる状況では,国民は重要な岐路に立つとき,適切に判断が出来ない恐れがある。近年の国民の閉塞感は,このような所にも原因があるのであろうか。しかし,あらゆることは,究極的には国民が全て負担するのだから,国民には,常に最新の情報を適切に伝える努力をする必要がある。国家機関は,「地の塩」になることが求められているのであろう。

 改めて,国立環境研究所の立場に立てば,国民が環境研究に何を求めているのか,真摯に考える必要がありそうである。環境研究にとっても大イベントであった,京都会議も終わった。これからは,科学技術の出番であるが,これも「人類の持続可能性」を探る,先の見えない困難な戦いの一つである。

 ダイオキシン,産業廃棄物なども社会問題化しつつある。環境研究は好むと好まざるとを問わず,政治と経済に挟まれる局面が多くなった。このような時,論理が特に重要である。その上,日本にはアジアの問題など,国際的な課題も少なくない。

 いずれも,答えのない問題ばかりであり,そこには手本は無い。これからは,今迄以上に,問題を直視し,深く「自分で考える姿勢」が求められる。「素朴な疑問」を持つことも大切である。それが独創的な研究の第一歩だからである。

(いしい よしのり)

執筆者プロフィール

 前国立環境研究所所長,東京大学名誉教授,東京大学理学部物理学科で地球物理学を専攻後,エネルギー論,リモートセンシング,そして地球学を提唱。