割れ目性岩盤の透水特性−単一割れ目の形状について−
経常研究の紹介
木村 強
大深度地下開発、エネルギーの地下貯蔵、有害廃棄物の地層処分など、近年の地下は、宇宙、海洋に次ぐ第3のフロンティアの対象として期待されている。これは、地下が隔離性、耐震性、3次元性などの利点を有しているためであるが、このような地下の開発、利用に際して、地盤環境の観点からは地下水の流動特性が極めて重要となる。
地盤は深くなるにつれて土質地盤から岩盤へと移行し、そこでの透水性は土質地盤に比べると無視できるほど小さくなる。しかし、これは岩盤内にほとんど割れ目がない場合であり、外力として地殻応力あるいは地下の開発によって割れ目が生じると、土質地盤と同程度にまで透水性は高められ、このとき土質地盤と異なって局所的で異方性の強い性質を呈するようになる。岩盤の透水性は、割れ目の方向性、連続性、頻度、連結性などの分布特性と、単一割れ目の表面粗さ、開口幅、充填物に支配されるが、ここでは後者の単一割れ目の形状について述べる。
従来より、単一割れ目を水理学的に表現するために、ヘレ・ショウの流動モデルが用いられてきた。このモデルでは、割れ目表面は完全に滑らかで平行であると仮定しており、その結果、割れ目内の流量は、割れ目の開口幅の3乗に比例する。しかしながら、一例として図に示した割れ目の形状から分かるように、この仮定は明らかに簡略的である。本図は、人工的に作成した1組の引張り性割れ目について、レーザー変位形を用いて計測したもので、この方法では触針式の計測に比べて表面に損傷を与えることがなく、また迅速な計測が可能である。
図(a)にみられるように表面粗さは、長波長の大きなうねりの中に短波長の小さな凹凸が包含されている。表面粗さについてスペクトル解析を行い、パワースペクトル密度と周波数の関係を両対数上にプロットすると、負の勾配の直線で表すことができる(ただし、今回の計測では、計測間隔及び計測長さが有限であり、直線の範囲も限定される)。このことは、表面粗さにはフラクタル性があることを示唆しており、このフラクタル性がすべての周波数域にわたって存在するならば、統計的な処理を行うには都合が悪くなる。すなわち、調査によって得られるデータの平均値、標準偏差などは、そのデータのみで有効となり、サンプリング間隔によってはそれらの値はまったく異なったものになりうるからである。これに対して開口幅に関しては、図(b)に示しているように、割れ目の両面がお互いにかみ合うことにより長波長の成分が消失している。その結果、スペクトル解析では、低周波数域でパワースペクトル密度の増大が抑えられたかたちとなり、フラクラル性も存在しなくなる。
最後に、図に示した1次元のプロファイルと違って、2次元の広がりを有する割れ目の透水性を考える場合、割れ目内の水は、その平面上で開口幅の狭い部分を避けて開口幅の広い部分のみを選択しながら流れることに留意しなければならない。このため、平均値や標準偏差だけでなく、自己相関関数やジオスタティスティックスのセミバリオグラムを導入して空間的変動を表すパラメータを求めることが必要であり、このパラメータによって初めて単一割れ目の形状と透水性の関係を理解できるようになる。