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2020年3月27日

科学コミュニケーションツール「論文詩」

コラム4

 科学者は、市民との対話と交流(社会対話)による科学コミュニケーションが求められています。一方、環境問題にかかわる課題に市民が納得する科学的な解決方法を見つけるためには、市民は知識を超えた「科学的なものの考え方(科学リテラシー)」を身につける必要があります。ところで科学も詩(人文学的教養)も人と人をつなぐ文化です。そこで科学論文は、詩と融合することで新たな科学文化を生みだし、詩は論文と融合することで文学の新たな詩のジャンルを創造することになります。さらに論文をもとにした論文詩は、科学者と市民の理解と共感のための科学コミュニケーションツールにもなります。このような論文詩は、市民の科学リテラシーを形成し、ならびに向上させる一助になると考えられます。ここでは、原著論文の基本的な構成(IMRaD)をもとに、科学者の「経験的な論理」と「個人的な論理」から定型的な論文詩の作成について提案しました(参考文献)。

 すなわち、投稿論文(原著論文) の形式(IMRaD:Introduction、 Method、 Result and Discussion)をもとに「非経験的な論理」(原理や法則など)に基づく調査や実験、理論のデータから導かれる事実を論拠とする「経験的な論理」による論文(IMRaD)の科学的な論述性と、研究(調査や実験、理論)の日常体験に基づく直感や信念などを論拠とする「個人的な論理」による心情的な物語性から詩の作成を行います。具体的には、科学論文の緒言(I)から考察(D)にいたる一連のつながりに詩情性(比喩、韻律、対句、省略など)を加えて論文詩を完成させます。詳しくは下記の参考文献をご覧ください。

論文詩「奥日光外山山麓の繁殖期の鳥類群集」(2018年)の一部(終連)抜粋

ハイキング道を抜けると
やわらかな光に溢れていた
ピーリーリーホイヒーピピピールリピールリ ジジッ
オオルリ一羽!
車道の左端 高い木のてっぺんの梢に
「青」を輝かせるよう高らかに宣言する
歌声は多様性の空気を貫いた
ふり返ると薄暗いハイキング道の奥へと消えた
さあ、歌い続けよ!

参考文献
多田満(2018)論文詩─科学コミュニケーションツール. 日本生態学会誌、 68、 59-63.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/68/1/68_59/_pdf/-char/ja