ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

「シリカ欠損仮説」と海域生態系の変質
- フェリーを利用してそれらの因果関係を探る

環境儀 NO.39

原島省
 ケイ素の循環は地球環境にとって重要な役割を担っています。フェリー観測によって窒素、ケイ素等の栄養塩とケイ藻の動態を探り、赤潮発生などの海域生態系変質との関連を探ります。

 地球環境の変動として、CO2増加などの問題が注目されていますが、ケイ素からなるシリカ(ケイ酸)が減りつつあることが生態系に及ぼす影響も指摘され始めました。すなわち、人為的な影響で窒素とリンの負荷が増加するの対し、ケイ素の流下は大ダムの増加等で世界的に減る傾向にあります。このため、沿岸海域で、ケイ素を必要とするケイ藻よりも、ケイ素を必要とせず、しかも有害赤潮を引き起こす非ケイ藻類植物プランクトンのほうが有利になることが懸念されます(シリカ欠損仮説)。さらに、海洋生態系の基盤であるケイ藻が非ケイ藻類に遷移すると、クラゲなど生態系の上位生物組成への波及も考えられます。この仮説を検証するためには、海洋の栄養塩や植物プランクトンの分布と長期傾向を観測することが必要です。この仕事は大気観測などよりも技術的に難しい要素がありますが、国立環境研究所ではフェリー会社の協力によってこの問題を克服し、研究を継続しました。その結果、この仮説が琵琶湖-瀬戸内海の水系に概ね適用可能なことがわかりました。この水系では社会経済的状況の変化によってむしろシリカ欠損からの回復傾向がみられますが、東アジア地域のように経済活動やダム建設が増大途上の地域では、今後なんらかの対策が必要になるだろうと考えられます。

 今回は、「シリカ欠損仮説」を検証するために行った研究について、フェリーを利用した長期高頻度の海洋モニタリングを中心に紹介します。