ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

有害廃棄物および有害物質対策をめぐる研究の動き

研究をめぐって

 石綿、PCBなど有害廃棄物の処理をめぐる近年の状況を見渡すと、ものの流れの最下流である廃棄物の範疇だけで説明するのは現在の世界の動きを反映しているとはいえません。

 これらの問題解決に向け世界は、化学物質、有害物質の流れ全体を視野に入れた管理方策づくりへの動きを活発に進めています。ここでは、2000年以降始まった有害物質対策の新たな国際潮流を概観します。

世界では

 化学物質は生活を便利にまた豊かにした一方で、有害な化学物質による健康被害や環境汚染が生じました。新規に製造される有害な化学物質は、届出、審査、製造等の規制などで管理されていますが、これまでに使用されてきた多種・多様な化学物質への対策は、主に各種の環境汚染防止法による環境排出濃度の規制でした。毒性情報が集積していくに従い、規制物質数を増やして管理してきたのがこれまでの流れです。

 21世紀に入り、化学物質管理に関する全世界的な取組みが急速に進んでいます。2002年に開催された持続可能な開発に関する世界サミットにおいて、2020年までにすべての化学物質を健康や環境への影響を最小化する方法で生産・利用する目標が合意され、目標達成に向けた取組み推進のため2006年には国際化学物質管理戦略がまとめられました。これは化学物質に対して、問題が起きてから規制するのではなく大枠としての管理体系をつくり製造段階で化学物質情報を把握しようというものです。この考えを踏まえ2007年に欧州を中心に新たな化学物質管理制度「Registration, Evaluation and Authorisation of Chemicals(略称「REACH(リーチ)」がスタートしました。化学物質(Chemicals)の総合的な登録(Registration)・評価(Evaluation)・認可(Authorisation)・制限(Regulation)に関する新しい制度です。市場に出回るすべての化学物質およびそれらを含む製品に対して、1)環境中での分解性、2)生物への蓄積性、3)ヒトや動植物への毒性の観点から評価・分類し、リスクの高い物質の管理を行おうというものです。製品中の化学物質使用量については、製造者の責務として公開することがようやく緒についたといえます。

 一方、すでに市場に出回っているさまざまな製品に化学物質がどれだけ含まれているのか十分にわかっていませんし、分析法も十分に整備されていないという課題があります。

 このように、近年の先進国における有害物質対策は、従来の下流側対策(エンドオブパイプ対策)としての有害廃棄物処理から未然防止の観点からの上流側対策に重点が移ってきているといえます。

 また地球的規模で汚染している「残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants, POPs)」に対応するための「ストックホルム条約(POPs条約)」では、新たな対象物質群を検討しています。現在対象物質はPCBを含めて12物質ですが、2009年に臭素系難燃剤、有機フッ素化合物、農薬等5物質が追加される予定です。これを踏まえて、環境中や製品の廃棄・処理過程での挙動把握の必要性が出てきています。また、水銀などの無機物質も含めて「残留性化学物質(Persistent Hazardous Substances, PHS)」として包括的、グローバルな汚染物質対策が進められています。

 石綿の研究も2000年以降に新たな展開があります。職業暴露に加えて、それ以外で生じた健康被害に関連する課題、たとえば不純物として天然鉱物に含まれる石綿の問題です。岩石中の石綿鉱物は飛散しやすい状態ではありませんが、使用過程あるいは再利用する過程で飛散する可能性があります。アメリカのバーミキュライト(土壌改良材、石綿代替品)鉱山跡地近隣の中皮腫患者の発生、タルク(滑石の微粉末、パウダーとして化粧品などに利用)等中の不純物として含まれていた石綿による暴露等です。これらに端を発して精力的な研究が行われ、汚染された土壌等から、飛散しやすい石綿繊維の分析法も示されています。また、石綿の毒性が化学物質としてではなく、繊維状であることから人工鉱物の毒性も課題です。これらは石綿と同様の毒性があることは明確にわかっていません。世界保健機構(WHO)や欧州連合では人工鉱物繊維(Man-made mineral fiber)を有害物質ととらえており、今後の毒性研究が待たれています。

国立環境研究所では

 POPsの研究は、国立環境研究所ではPCBやダイオキシン類をはじめとして多くの物質についてさまざまな環境中での挙動、排出インベントリー、環境リスク、分析法開発等に関して精力的な研究が行われてきています。

 新たなPOPs候補物質である臭素系難燃剤は臭素化ダイオキシン類の発生源でもあり、製品からの発生挙動、廃製品の解体・破砕・燃焼処理過程での挙動では、世界を主導する研究成果をあげてきました。現在は、臭素系難燃剤の暴露経路を追う研究を始めています。また、有機フッ素化合物についても環境挙動の把握が行われており、循環型社会・廃棄物研究センターにおいても、廃棄物処理過程における挙動の解明に携わっています。

 石綿に関する研究は、1980年代半ばの石綿問題の後は稀少であり、一般環境大気のモニタリングや解体現場等の発生源調査が中心でした。それが「静かなる時限爆弾」が爆発した2005年以降、喫緊の課題としてとりあげられました。当センターでの研究は廃棄物処理を中心としていますが、一般環境(底質、土壌)も電子顕微鏡法によってデータ蓄積を行っています。これらの分析結果は日本では皆無でした。また媒体によって異なる分析法(たとえば一般環境大気ではクリソタイルのみ、発生源では総繊維数等)は混乱を招くおそれがあることから、私たちは前処理や繊維の計数ルールの統一や精度管理の実施に向けた研究を進めています。

循環型社会を見据えた廃棄物の安全管理研究を担って

スタッフ紹介の写真
上段左から、小口正弘、肴倉宏史、小瀬知洋、渡部真文、
中段左から、山本貴士、川口光夫、本田守、梶原夏子、
下段左から、戸次加奈江、野馬幸生、貴田晶子、滝上英孝

 現在、当センターで行っている有害物質の適正な管理に関する主な研究テーマと、そのスタッフを紹介します。

(1)循環・廃棄過程における有害化学物質のバイオアッセイ/化学分析を用いた挙動評価(滝上英孝)
(2)再生製品の環境安全品質管理手法の確立と指針化、廃ブラウン管ガラスの環境影響評価(肴倉宏史)
(3)廃棄物処理・リサイクル過程における微量有機物質の挙動(渡部真文)
(4)資源循環過程からの有害化学物質の発生とそれに伴う環境や生物の汚染実態把握に関する研究(梶原夏子)
(5)製品の使用・廃棄過程における有機リン系可塑・難燃剤の挙動に関する研究(小瀬知洋)
(6)耐久消費財に係る資源性・有害性物質のフロー・ストック分析と管理方策に関する研究 (小口正弘)
(7)廃棄物関連試料中アスベストの試験法の開発および評価(山本貴士)
(8)廃製品中の金属量把握および回収残渣の環境影響に関する研究(川口光夫)
(9)多環芳香族炭化水素誘導体についての化学分析/バイオアッセイ手法を用いた環境毒性学的研究(戸次加奈江)