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研究者に聞く!!

Interview

㓛刀正行の写真
㓛刀正行
化学環境研究領域 動態化学研究室 主任研究員

 これまで、海洋汚染の拡大スピードや汚染物質が最終的に集まる場所における定量的な調査・分析は、ほとんど行われてきませんでした。地球規模における海洋汚染の実態解明、汚染源の推定、長期的な汚染変動要因の分析等が求められている今、1995年から商船を使って海洋汚染の現状を定量的に調査・分析してきた㓛刀(くぬぎ)さんに、地球規模における海洋汚染の実態をお聞きしました。

極域にまで拡大した有害化学物質による海洋汚染を明らかに

1: フェリーを使い海水を連続的に採取

  • Q: まず最初に、海洋汚染の研究に取り組まれたきっかけをお聞かせください。
    㓛刀: 私は、もともと大気汚染の測定法について研究していたのですが、ふと考えてみると、〈地球の表層の7割は海である〉という単純な事実に思い至りました。ならば、地球規模の汚染を考えた場合、この広大な海についても研究する必要性があるのでは、と思考したのです。そして1990年、国立環境研究所に地球環境研究グループという組織ができまして、その海洋研究チームに入ったことが、海洋汚染の研究に取り組む直接のきっかけになりました。
  • Q: 大気汚染から海洋汚染の研究へと変わられたのですね。
    㓛刀: 海洋研究チームは私を含め3人でスタートしました。それ以前の当研究所の海洋研究は赤潮という沿岸海域が中心の問題を対象としており、なかなか広域の海洋汚染の研究を行う機会がありませんでした。
  • Q: そうした状況を変えたきっかけは、何だったのでしょうか。
    㓛刀: 同じ海洋研究チームに、神戸—釜山(韓国)間を往復するフェリーに機材を積み、海水の温度や植物プランクトンの量などを測定している研究者がいたんです。私もさっそく乗船させてもらって、航行中のフェリーで海水を連続的に採取して、海中の有害化学物質を測定する研究を考案したのです。
  • Q: ところで、海はどのようにして有害化学物質に汚染されるのですか。
    㓛刀: 有害化学物質は主に3つのルートを経由して海を汚染します。まず1つ目のルートが河川です。工場や家庭の排水、農薬が河川に流れ出せば、海が汚れるのは理解できるでしょう。2つ目のルートは大気です。農薬などが大気の流れに乗って移動すると、やがて海に溶け込んでしまいます。そして3つ目のルートが航行中の船舶です。船底に塗られている塗料が溶けたりはがれたりするほか、洗浄したときに出る排水が海に捨てられることで汚染されるのです。
  • Q: 研究を始めるにあたって、周囲の反応はいかがでしたか。
    㓛刀: 研究のためのグループをつくり、予算を申請したところ、「無謀だ」と言われました。初年度なんとか認められた予算が、400万円。この少額な予算で、なんとか観測を立ち上げ1995年から2000年にかけて研究に取り組むことになりました。
    研究は、1995年〜1997年が大阪—那覇間を往復するフェリー「くろしお」、1998年〜2000年が大阪—別府間を往復するフェリー「さんふらわあ あいぼり」に、海水を濃縮して有害化学物質を捕集する装置を積んで行いました。捕集装置といっても、完成した市販製品はなかったので、自分で設計して組み立てたオリジナル装置です。
  • Q: どのようにして、海水から有害化学物質を捕集されるのですか。
    㓛刀: 捕集装置は船の一番下、船底に置きます。海水に含まれる有害化学物質は濃度が非常に低いため、採取した海水を船の中で濃縮するようにしました。まず、1995年11月と1996年2月に、フェリー「くろしお」に自作した装置を積み込んでテストを行い、コスト面などいろいろな角度から捕集方法を検討した結果、大気中のダイオキシンを測定するときに使用するポリウレタンフォームを使用した固相抽出法が効果的であるとわかったんです。テストを繰り返すうちに、装置に海水を流すスピード、流す海水の総量、検出できる物質や装置の改良点なども、だんだん見えてきました。

     でも、装置はよく水漏れを起こしたので、何度もパッキンを交換したり、パイプを締め直しながら、水漏れとの戦いに明け暮れました。海水採取中は心配で心配で、上層階の客室でゆっくり休む余裕もなく、航海中、行ったり来たりしながら捕集を続けました。
  • Q: 分析の結果、どういった有害化学物質が検出できましたか。
    㓛刀: 農薬のHCHs(ヘキサクロロシクロヘキサン)や白アリ防除剤のクロルデン、ノナクロルなどが検出されました。1996年12月に行った調査では、すべての観測地点でHCHsが検出されました。HCHsは製造過程で4つの異性体(化学式は同じでも化学的性質や物理的性質が異なる物質)ができますが、そのうちのα-HCHとβ-HCHという異性体が、必ず検出されました。なかでもβ体はα体よりつねに高い値を示し、海域によって濃度が異なることもわかりました。とはいえ、濃度は非常に低く、一番高いところでも大阪湾の400pg/L(1pgは1兆分の1g)でした。クロルデンもほとんどの採取地点で検出されましたが濃度はさらに低く、検出可能ぎりぎりでした。

     さらに、1997年3月の調査では、α-HCHは気象条件によって濃度が変動することがわかり、β-HCHは気象の影響をあまり受けないことなどがわかりました。
  • Q: 非常に低濃度ということですが、どれくらいの濃さをイメージすればよいのでしょうか。
    㓛刀: 例えば10pg/Lであれば、ティースプーンで4分の1杯の砂糖を長野県にある諏訪湖に入れて、均一に混ぜた濃度をイメージしてください。400pg/Lでもこの40倍ですから、人間が味を感じるという濃度では、まったくありません。そんなに低い濃度ならば問題ないし、わざわざ苦労して測る必要もなさそうに思われるでしょうが、海水中で低濃度であっても、植物プランクトンからほ乳類への食物連鎖の過程で濃縮が起きます。例えば、北極のシロクマでは数億倍に濃縮されると考えられていますので、こうした極めて低い濃度でも測っておく必要があるのです。
  • Q: 「さんふらわあ あいぼり」というフェリーの調査は、「くろしお」と同じ方式だったのでしょうか。
    㓛刀: フェリー「さんふらわあ あいぼり」では、ブリッジの上に専用の装置を設置して、海水のほか大気の汚染も同時に調査しました。装置はフェリー「くろしお」に搭載したものより小型化して、新たに製作しました。秋葉原で部品を買い込んで、装置の制御部と制御プログラムを自作し、海水を採り入れるためのバルブ開閉を自動化しました。
  • Q: より進化した装置を使用した調査結果はどうでしたか。
    㓛刀: 1998年12月から10回にわたり本格的な調査を実施し、200ものサンプルを集めることができました。前のフェリー「くろしお」の調査ではβ-HCHの値はほとんど一定でしたが、このときはβ-HCHの値が大きく変動しました。逆にフェリー「くろしお」の調査で大きな変動を見せたα-HCHが、今回は小さいという結果が出ました。また大気を調べたところ、1999年9月の調査において、クロルデンとノナクロルが突出して高い値を示しました。これに呼応するように、海水のクロルデン、ノナクロルも高い値を示したのです。
図 汚染物質はどのような経路で海洋に届くか
汚染物質はどのような経路で海洋に届くか
写真2 大阪−那覇間の調査で使用したフェリー「くろしお」
大阪−那覇間の調査で使用したフェリー「くろしお」
写真3 濃縮捕集装置に使用したカラムホルダーとポリウレタンフォーム
濃縮捕集装置に使用したカラムホルダーとポリウレタンフォーム
写真4 フェリー「さんふらわあ  あいぼり」に搭載したパソコン制御方式の濃縮捕集装置(第三世代)
フェリー「さんふらわあ あいぼり」に搭載したパソコン制御方式の濃縮捕集装置(第三世代)

2: 想定していない結果が出た日本—オーストラリア間の海洋汚染

  • Q: この後、2000年から外国航路を使った観測をされていますが、日本近海での調査と違って、苦労されたことも多かったのではないでしょうか。
    㓛刀: 外国に行く商船を使って海洋汚染を研究したかったのですが、なにしろ研究に協力してくれる船がなければ、研究は始まりません。ちょうど、そんなときでした。高校の同窓会に行ってみると、偶然日本郵船で船長をしている同級生に再会したんです。そこで、私が海洋汚染研究のことを話したら、とんとん拍子に商船の協力が得られました。その後は予算もだいぶ増額されましたから、これで装置を自分で作らずに済むと、ホッとしたことを覚えています。
     最初の船は2000年6月に完成したタンカーでした。このタンカーはペルシャ湾に向けて航行するもので、建造中から装置を置く場所を決め、配管工事も済ませました。自分で設計した高さが2mもある装置を外部に製作依頼し、採取地点の位置を判明させるために、ブリッジからGPS(全地球測位システム)情報を受け取れるように改良したんです。航海日数もフェリーでは3日間でしたが、初めて乗船したタンカーでは往復48日間もかかりました。調査観測作業はもちろんですが、初めてのことでトラブルも結構あり対応に追われましたし、調査のために乗船しているのは私一人ですから、健康管理には気を使いました。

     タンカー以外では日本—オーストラリアを往復する石炭運搬船や日本—アメリカ間を往復するコンテナ船、世界中をクルージングする客船を使用することができました。石炭運搬船については、ドックでの修理期間中に装置を設置する基礎工事と配管工事を済ませ、より小型化した装置を積み込むことができました。
  • Q: 外洋での調査では、どのような結果が出ましたか。
    㓛刀: まず、日本とペルシャ湾を往復する航路では、海水を採取した地点のほとんどでβ-HCHが検出されました。アラビア海やペルシャ湾ではそれほど高い値が出なかったのですが、陸地に近いインドやベトナム沖、日本近海では比較的高い値が出ました。α-HCHとγ-HCHは捕集が十分にできませんでしたが、インド沖やベトナム沖、日本近海で検出しています。

     一方、日本—オーストラリア間の航路では、想定していない結果が出ました。まず、β-HCHの値が日本から遠ざかるにつれて次第に低くなっていったのです。何回測定しても、結果は同じでした。
  • Q: コンテナ船を使った調査はいかがでしたか。
    㓛刀: 2005年3月と8月に乗船し、調査を行いました。コンテナ船はタンカーや石炭運搬船に比べエンジンルームが狭くて甲板もなく、既存の装置を使うことが不可能なため、専用の新装置を作りました。

     新装置の特徴は、装置を8ユニットに分け、1つのユニットの大きさを段ボール2個分程度にして運びやすくしたことです。航路は日本を出発して中国—香港—ロスアンゼルス—オークランドを回り、日本に帰るコースです。調査結果については論文発表前ですので詳細は省略しますが、北米に近づくにつれてαおよびγ- HCHの濃度が上昇し、また高緯度になるほど濃度が高くなる傾向などが観測されています。
  • Q: 豪華客船を利用した調査も行われたようですが。
    㓛刀: コンテナ船の調査は、2003年に日本郵船と交渉して実施が決まりましたが、その交渉に行く日の新聞に、日本郵船の客船「飛鳥」が北極圏に行くという記事が掲載されたのです。それを読んで、「この客船を利用できれば、極域の海洋汚染研究ができるかもしれない」、と心が勇躍しました。すぐに船会社に交渉してみると、「部屋が空いていればOK」という思いがけない返事です。さらに2004年に客船「飛鳥」が南極に行ったときも、乗船調査が許可されました。
写真5 客船「飛鳥」乗船時の濃縮捕集作業の様子
客船「飛鳥」乗船時の濃縮捕集作業の様子。船底のエンジンルームに設置された装置(第六世代)を使い、海水を採取した。(写真提供:青木 勝氏)
図 側面から見たタンカー。船尾の底にあるエンジンルームに濃縮捕集装置を設置している
側面から見たタンカー。船尾の底にあるエンジンルームに濃縮捕集装置を設置している。
写真6 石炭運搬船に捕集システムを搬入している様子
石炭運搬船に捕集システムを搬入している様子。エンジンの機材やパーツを搬入するクレーンを借用し、まずエンジンルームに機材を搬入、そこから再度、設置するフロアーに移動した。中央に見えるのがエンジン。

3: 南極や北極でも有害化学物質を検出

  • Q: 南極や北極の汚染は、ほかの地域の海洋調査と何か異なった点がありましたか。
    㓛刀: 客船「飛鳥」はこれまで観測に使用した船の中で最も小さな客船でしたので、今までの装置は入らず、再び専用の装置を製作しました。南極の調査ではニュージーランドから客船「飛鳥」に乗船し、タヒチ—イースター島—チリ—南極—アルゼンチンを30数日間かけて調査しました。

     この調査では100カ所から海水を採取した結果、南半球の海は有害物質の濃度が北半球に比べて非常に低く、α-HCHやβ-HCH、γ-HCHの値も海域によってかなり変動していることが判明しました。
  • Q: 北極の調査はいかがでしたでしょうか。
    㓛刀: 2005年に客船「飛鳥」に乗船して調査を行いました。調査結果については現在まとめているところですが、南半球に比べHCHs類の濃度は一般に高く、また海域によって異性体の分布がきわめて異なる、などといったことがわかってきています。
  • Q: 最後に、これまでのすべての研究成果を踏まえて、明らかになった知見をまとめて下さい。
    㓛刀: 実際に世界中の海を観測したことで、以前から「大気の動きが海の汚染に大きく作用している」と言われていたことを確かめることができました。大気と海は密接に関連しています。一度海に入った有害化学物質が再び大気に移動することで、両者は相互に作用しあっているのです。今までは大気か海という二者択一の研究が主流でしたが、今後は両者をベースにした総合的な汚染研究をしていかなければなりません。

     また、以前から北半球と南半球間の汚染物質の移動は遅いと言われていましたが、これもデータによって実証されました。測定装置の進化によって、新たに問題になりつつある化学物質に関しても調査することが可能になりました。
写真7 青色をした小型の氷山(南極海)
青色をした小型の氷山(南極海)。このほかにも群青色の氷山も確認できた。
写真8 コンテナ船に乗船したとき、下船数日前に開かれた歓送会
コンテナ船に乗船したとき、下船数日前に開かれた歓送会

コラム

  • 改良を重ねた観測装置の変遷
     これまで商船に搭載された観測装置は、観測を重ねるごとに改良されてきました。最初にフェリー「くろしお」に搭載された装置は、大きさが幅70cm×奥行70cm。このときは、海水を通すカラムを専用につくるとコストがかかるため、苦肉の策としてフィルターケースを買い、3種類の固相抽出剤を女性用ストッキングに詰めてテストしました。電源装置などエレクトロニクスの部品を秋葉原で買い求め、自分で組み立てました。

     1996年12月の調査のときにフェリー「くろしお」に搭載した装置では、専用のカラムを20本つなぐことができるようになりました。さらにパイプの固定をナットから締め付けが楽なへルールに変更し、柔軟さが必要なところにはステンレス製のフレキシブルチューブを採用しました。フェリー「さんふらわあ あいぼり」に搭載した装置では、外洋を航行する船舶への搭載を視野に入れて構成を自由に変更できるようにしたほか、海水の自動捕集が行えるようにしました。

     また、タンカーに搭載した装置は、組立がそれまでの自作から外注に切り換わりました。装置は海水採水装置、カラム濃縮捕集制御部および水質観測部、カラム濃縮捕集ユニットの3つで構成され、それまでの装置より高機能となり、かなり大型になりました。石炭運搬船に搭載した装置では、タンカーに搭載したものをベースに改良を加え、センサー類の構成などの見直しと小型化を図りました。

     そして、客船「飛鳥」に搭載した装置やコンテナ船に搭載した最新の装置は、設置スペースが非常に狭かったことから、コンパクト性に優れた設計になっています。とくにコンテナ船に搭載した装置は、船内で組み立てることができ、あらゆる船舶に搭載することを可能にしました。

     ヘキサクロロシクロヘキサン(HCHs)は、日本ではBHC(ベンゼンヘキサクロライド)という名前の農薬として1970年代前半まで使用されました。製造工程で4種類(α、β、γ、δ)の立体異性体が生成されますが、農薬として効力があるのはγ体だけです。4つの特性は表のように異なり、環境中での挙動が異なります。
写真9 はじめてフェリー「くろしお」に搭載した手作りの捕集装置(第一世代)
はじめてフェリー「くろしお」に搭載した手作りの捕集装置(第一世代)
写真10 フェリー「くろしお」に搭載した複数カラム搭載可能な捕集装置(第二世代)
フェリー「くろしお」に搭載した複数カラム搭載可能な捕集装置(第二世代)
写真11 コンテナ船に搭載したユニット化した捕集システム(第七世代)
コンテナ船に搭載したユニット化した捕集システム(第七世代)

BHCの異性体存在量とその特性

異性体 存在量
(%)
溶解度(水)
(mg/mL,25℃)
蒸気圧
(mmHg,20℃)
沸点
α-HCH 68-70 1.9 1.6×10-4 159-160
β-HCH 9 0.21 0.23×10-4 309-310
γ-HCH 13-15 6.3 1.8×10-4 112-113
δ-HCH 8 11.5 0.76×10-4 138-139

海洋汚染物質の分類

分類 解説
有害化学物質 環境に何らかの悪影響を及ぼす人為起源の化学物質の総称。金属類から有機物まで広範な化学物質を含む。
残留性有機汚染物質 POPsと総称され、残留性(難分解性)、生物蓄積性、長距離輸送の可能性、毒性(悪影響)という4つの特性をすべて持つ化学物質。POPs条約では12物質(ディルドリン、アルドリン、クロルデン、マイレックス、DDT、HCB〈ヘキサクロロベンゼン〉、ダイオキシン類、PCB〈ポリ塩素化ビフェニル〉、など)がまず指定された。さらに、今後HCHsや臭素化難燃剤などが指定される可能性がある。
内分泌攪乱化学物質 いわゆる環境ホルモン。擬似的な内分泌(ホルモン)作用あるいは内分泌作用を妨害する可能性が疑われる化学物質。非常に多くの化学物質がその可能性を持つと疑われているが、まだ未解明な部分が多い。人為的な化学物質だけでなく天然物にもその作用があるものが存在する。
有機スズ化合物 主に船の防汚塗料として使用されたTBT(トリブチルスズ)やTPT(トリフェニルスズ)などのスズ化合物で、内分泌攪乱作用が認められている。現在は国際的に使用が禁止されている。
非意図的汚染物質 ダイオキシン類やHCBなどは、燃焼過程での生成あるいは化学物質の製造過程で不純物として(非意図的に)生成されてしまうため、こう呼ばれる。

  • 商船(篤志観測船)での海水捕集
     海洋の研究や調査を実施する際には、通常、調査観測船を使用します。しかし、広大な海洋を詳細に調査・研究するには、調査観測船の数が圧倒的に足りません。一方で、日本と世界の物流は、海運が90数%を担っていますので、こうした商船のごく一部であっても観測研究に利用できれば、海洋観測は充実したものになります。

     ところが、商船は海洋観測を考えて造られていないため、海洋観測を実施するには様々な問題があります。たとえば、商船は調査観測船のように停船して観測することができませんから、何らかの方法で海水を航行中の船内に引き込む必要があります。さいわい商船は様々な目的で海水を利用していることもあり、その一部を研究用に分けてもらえれば、観測や試料採取が可能です。本研究では、使用する船に応じて海水を分岐し、観測装置に導いています。

     したがって、この観測では、ある一地点の観測結果ではなく、ある程度の空間的な広がり(70〜150km)を持った全体像を捉えていることになります。
図 観測装置に海水を引き込む仕組み
観測装置に海水を引き込む仕組み
  • 南極観測がきっかけで絵本が誕生
     南太平洋−南極の観測で客船「飛鳥」に乗船中、2回ほどレクチャーを頼まれ、環境の話をする機会に恵まれました。このお陰もあり、多くの乗客の方々を始め、講師やエンターテイナーの方々とも知り合うことができ、帰国後も交流が続いています。このほかにも、様々な貴重な体験をすることができました。

     また帰国後、客船「飛鳥」で知り合いになった堤江実さんの紹介で、多くの方面の方々と知り合う機会にも恵まれました。その一つとして、たまたま一緒になった画家の出射茂さんと、絵本を作ろうという話が持ち上がり、同席されていた堤さんとのコラボレーションが即、決まりました。それから2年、2006年9月末に、絵本「水のミーシャ」が誕生しました。
写真12
文:堤 江実
絵:出射 茂
解説:㓛刀正行
発行:清流出版
ISBN 4-86029-168-9