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水循環と流域圏研究 世界の視点と動向

研究をめぐって

 “流域圏環境管理”の研究が進むほど生態系における「水の循環」が果たす役割の重要性がしだいに明らかになってきました。アジアの人口増加と経済発展は水の需要を増大させ、世界中の海域や国際河川では水をめぐる環境問題の発生が後を絶ちません。流域の生態系をおびやかす水の問題の解決を目ざす国際的な取り組みが始まっています。

世界では

 「持続可能な開発」を模索するために流域圏が持つ生態系機能を総合的に観測して指標とする動きは、世界においても組織的に進行しています。特に2001年6月よりスタートしたミレニアムエコシステムアセスメント(MA)は「世界の生態系の変化がもたらす人間生活や環境に関わる影響について、政策決定者に対し総合的な科学的知見を提供することによって、管理を改善する」ことを目的としており、世界中から注目されています。世界銀行などの支援を受ける国際連合環境計画(UNEP)のプロジェクトでもあるMAは、世界の草地、森林、河川、湖沼、農地及び海洋などの生態系に関して水資源、土壌、食糧、洪水制御など生態系機能が社会・経済にもたらす恵み(財とサービス)の現状と将来の可能性を総合的に評価する機能を備えており、発足に際しての総予算は2100万ドルに及びました。2005年までに、世界の1500人に及ぶ代表的な自然科学及び社会科学の研究者が参画して実施されます。生態系が持つ水や食糧を持続的に供給する能力に関して地球規模でアセスメントを行う世界初めての試みですが、APEISとも多くのテーマを共有するこれらのプロジェクトが国際協調のもとに展開されていることはきわめて意義深いといえます。

図:水問題に関する世界の主な動き

日本では

 平成15年度より、総合科学技術会議が提唱する「地球規模水循環変動研究イニシャティブ」のテーマのもとに水循環に関わる環境変化について重点的な取り組みがスタートしました。同年9月には「地球観測調査検討ワーキンググループ」が結成され、世界気候研究計画(WCRP)や地球圏生物圏国際共同研究計画(IGBP)などへの参画とともに、地球観測の推進に関する府省横断的な取り組みが始まっています。特に急激な人口増加と社会の変動が予想されるアジア地域を対象に、日本との関係を水循環の観点から考察する活動はめざましく、「アジアモンスーン地域を対象とした水循環モデルの構築」や「自然の水文循環と社会変動の相互作用を考慮した水循環モデルの構築」といったテーマのもとに研究機関の協力体制づくりが進行中です。アジアの淡水資源の利用可能性とリスクを定量的に評価・予測するという観点から、自然環境と開発のバランスを模索する研究が日本で成果を上げる基盤が整いつつあります。

国立環境研究所では

 このような現況の中で「開発」を支える環境の基本ユニットである“流域圏”の受容力が注目され、その研究が推進されています。長江を舞台としたプロジェクト概要はここまで記したとおりですが、さらに東アジアを見わたして、環境管理についてもさまざまな試みを行っています。たとえば人間活動による栄養塩や有害化学物質などの環境負荷が増大している東シナ海では、長江河口域を中心として河川を通じて流入する土砂等を詳細に検証しています。1980~90年代にかけて、この海域における赤潮の発生頻度は4倍前後まで増加しました。海域全体の栄養塩の種類の変遷が原因と推測されますが、その裏づけとなる水質などの重要な変化を多角的に追跡しています。これらの状況の推移は魚類のエネルギー源となる植物プランクトンの異変を呼び起こし、結果的に生態系を通じた食物連鎖に重大な影響を及ぼすことも懸念されるからです。こうした観点から、生物生産及び生物多様性が高い東シナ海の海洋環境調査を、2001年より長期計画で実施しています。

写真:第3回APEIS総合モニタリング国際ワークショップ
図:アジア太平洋地域総合モニタリングシステム