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国際的に期待されるマテリアルフロー研究

 循環型社会は,単にモノのリサイクルを推奨するだけの社会ではありません。地球の限られた資源を有効利用しながら,廃棄物を減少させ,環境への負荷をできるだけ少なくする,という大局的な見地に基づいた社会です。「マテリアルフロー分析」はそうした社会を作り出すための大切な羅針盤となります。このため日本を始め,アメリカ,ヨーロッパなどでも,本格的な研究が行われています。

OECD環境大臣会合の写真
OECD環境大臣会合(2004年4月21~22日、パリ)

世界では

 今日のマテリアルフロー分析の源流は,1970年に出版されたEconomics and the Environmentという専門書に遡ります。その著者の一人であるロバート・エイヤーズ博士が2002年に編纂した「産業エコロジーハンドブック」には,マテリアルフロー分析についての世界中の主な取組みが網羅されています。「産業エコロジー」とは,物質やエネルギーの面での産業間のつながりを重視した新たな研究分野で,2001年に設立された産業エコロジー国際学会やそれ以前から発行されてきた英文論文誌Journal of Industrial Ecologyがマテリアルフロー分析の学術研究の中心となっています。

 1990年代後半から世界中でこの分野の研究が盛んになったのは,ドイツのヴッパタール研究所のワイツゼッカー所長,シュミット・ブレーク副所長(いずれも当時)が,資源生産性を現在の4~10倍に高めようとする「ファクターX」の提案を行ったことと軌を一にしています。

 ヴッパタール研究所は,国立環境研究所が国際共同研究に参加するきっかけとなった国際会議の舞台であるとともに,欧州を中心とするマテリアルフロー分析の専門家のネットワーク(ConAccountと呼ばれる)を構築してきました。また,ドイツ,オランダ,北欧諸国などでは,国の統計省も環境情報と経済統計を結びつける「環境勘定」に盛んに取り組んでいます。欧州全体では,国レベルのマテリアルフロー分析に関するガイドブックを出版した欧州統計局(EUROSTAT)や,「廃棄物・マテリアルフローに関する欧州トピックセンター」を設けた欧州環境庁(EEA)などのEUの行政機関が,加盟国の活動を支援しています。

 米国では,産業エコロジー研究の中核となっているイェール大学や非政府研究機関の世界資源研究所(WRI),政府機関では環境保護庁(USEPA)や資源統計に長い歴史を持つ地質調査所(USGS)などがこの分野に取り組んできました。最近では,米国科学アカデミー研究審議会(National Research Council)が,マテリアルフロー分析の手法や利用可能性をレビューし,米国における今後の取組みに対する助言をまとめる活動を行い,その報告が2004年2月に出版されました。カナダやメキシコでも,統計機関による環境勘定の研究が進んできました。

 こうした欧州,北米,そして日本における公的な取組みを結びつける場として重要な役割を果たしつつあるのがOECD(経済協力開発機構)です。2003年のG8(先進8カ国)環境大臣会合における日本からの提案がきっかけとなり,2004年4月にはマテリアルフローと資源生産性に関する理事会勧告が出されるなど,OECDが中核となる活動が活発になろうとしています。

日本では

 国立環境研究所以外でも,さまざまな研究が進められてきています。とくに,ある産業での廃棄物を他の産業で活用して廃棄物を限りなくゼロに近づけようとする「ゼロ・エミッション研究」でも,マテリアルフロー分析は重要な手法であり,特定の地域や特定の資源に着目した事例研究が行われてきました。また,製品を対象としたライフサイクルアセスメント研究とのつながりや,企業活動における環境パフォーマンス評価や環境会計などとのつながりも模索されています。また,マテリアルフロー分析と密接な関わりを持つ産業連関分析の環境面への応用が盛んであり,廃棄物産業連関表など,日本におけるこの分野の研究の広がりが世界的にも注目されています。

国立環境研究所では

 国全体のマテリアルフローを把握する研究を主に行っています。とくに,マテリアルフロー分析の方法論に関する研究を,持続可能な発展との結びつきを考慮しながら地球環境関係の研究費で進めているほか,循環型社会形成推進・廃棄物研究センターでは,廃棄物・リサイクル分野への適用を進めています。また,温室効果ガスや大気汚染物質のインベントリーの研究とも密接なつながりを持っており,これらとの関連研究も進めています。

循環型社会形成推進・廃棄物研究センター

 循環型社会形成推進・廃棄物研究センターは,循環型社会における適正な物質循環や廃棄物管理のあり方を研究・提案することを目的に,2001年4月に新設されました。センターには以下の7つの研究室が設けられています,

 (1)循環型社会形成システム研究室 (2)循環技術システム研究開発室 (3)適正処理技術研究開発室 (4)最終処分技術研究開発室 (5)循環資源・廃棄物試験評価研究室 (6)有害廃棄物管理研究室 (7)バイオエコエンジニアリング研究室

 また5年間の中期計画に基づき,

(1)環境低負荷型・循環型社会への転換支援のためのシステム分析手法と基盤整備に関する研究

(2)廃棄物の資源化・適正処理技術及びシステムに関する研究

(3)廃棄物処理に係わるリスク制御に関する研究

(4)汚染環境の浄化技術に関する研究

を行っています。

 ここでは循環型社会形成推進・廃棄物研究センターでのマテリアルフローに関連する研究の一端を紹介します。

○寺園淳主任研究員:アジア諸国,とくに中国との間での資源の再生利用のためのマテリアルフローとそれに伴う環境影響についての研究に取り組んでいます。

○橋本征二主任研究員:マテリアルフローに注目した「循環の指標」の提案や伐採後の木材の使われ方やその廃棄のされ方を廃棄物問題,温暖化問題の両面から評価する手法に取組んでいます。

○田崎智宏研究員:「循環の指標」の自治体での利用や家電・自動車などの耐久消費財の保有・廃棄に伴うマテリアルフローの解明を進めています。

○藤井実研究員:プラスチックのリサイクルなどを例に,資源の循環を地域スケールの観点からとらえるとともに,さまざまな循環の技術を評価するための客観的な指標の開発に取組んでいます。

○平井康宏研究員:製品に含まれる難燃剤や鉛などの特定の物質を追跡し(サブスタンスフロー分析),そのリスクを評価する研究に取組んでいます。

○南齋規介研究員:これまで構築・公表してきた産業連関表によるエネルギー消費量,CO2・大気汚染物質排出量の分析のためのデータベースについて,廃棄物など他の環境負荷への拡張を進めています。

研究者の写真