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「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究(中間報告)」から

Summary

 マテリアルフローの分析手法に関する成果として,需要者側から見た産業廃棄物発生構造の分析と,物質循環の目的と形態を踏まえた循環指標の開発を紹介します。

1.産業連関表と廃棄物統計との結合による廃棄物発生構造の分析

 私たちが日常生活から出す廃棄物以外に,暮らしを支えるさまざまな産業からも廃棄物が出ます。さらに各産業の廃棄物は,自らの生産活動から直接出るものと,使用するエネルギーや原材料などを供給する他の産業から間接的に出るものがあります。本研究の主な目的は,こうした廃棄物の発生構造を,需要の側から分析することにあります。すなわち,どのような消費財(日用品や家電など),資本財(産業用機械や建築物など)の生産活動が,原材料の使用などを通して産業廃棄物の排出量および最終処分量に直接・間接に影響を与えているかを定量的に明らかにすることです。分析の結果では,私たちの生活に関連した産業廃棄物の方が家庭から直接出しているごみよりも多いことがわかりました。

図4 最終需要別の産業廃棄物排出量・最終処分量への寄与

 図4は,経済活動のさまざまな需要が産業廃棄物排出量に与えた影響を調べた結果です。それによると,全産業廃棄物排出量(3.2億トン)のうち32%(約1億トン)が家庭の消費支出により,占められていることがわかりました。次いで設備投資などの国内総固定資本形成(民間)が28.1%,公共投資などの国内総固定資本形成(公的)が17.2%と続きます(図4)。なお,家庭消費支出の中では,水道・下水道を利用することによる汚泥の発生が半分近くを占めています。一方,産業廃棄物最終処分量を見ると,家庭消費支出の占める割合は,19.7%と減少しています。これは,汚泥の中間処理による減量が主に寄与していると考えられます。

方法および用いたデータ

 経済循環の構造を数量的に解明することができるSNA(System of National Account)型産業連関分析を応用し,廃棄物を分析できるように枠組みを拡張しました。1995年産業連関表基本表やその付帯表,本研究のために構築した部門別産業廃棄物データなどを使用しました。

図5 家計消費支出によって誘発する産業廃棄物最終処分量の鳥瞰図
(注:原単位が大きく消費支出額の小さい4部門を非表示としている)

 図5は,横軸に各商品の一人当たりの家計消費支出額,縦軸に各商品・サービスの消費支出千円当たりの産業廃棄物処分量(g)を表わしたものです。各商品の横幅と縦幅を掛けた面積が,当該商品・サービスの消費によって誘発した最終処分量を表わします。縦長の長方形になる場合は,家計消費の金額が小さい割に廃棄物の発生量が多く,横長の場合は逆となります。

 対応の方向を生産者側(技術的対応)に求めるのか,消費者側(消費スタイルの対応)に求めるのかによって対策の内容も大きく違ってきます。水道,パルプ,紙,電力などの消費財は前者に入り,一方,商業は後者の典型で需要額の絶対量が大きいこともあり,寄与も高い結果となっています。容器・包装の簡素化は,それ自身の廃棄量の軽減に加え,生産段階での廃棄物抑制という点でも,効果が大きいことが示唆されました。

2.マテリアルフローに基づく循環指標の開発

 資源の循環的利用に関して,現時点では把握対象となる「循環」の形態に一貫した定義はありません。異なる形態の物質循環が区別されておらず,量のとらえ方にも問題がありました。また,これまで物質循環の実態把握の多くは,廃棄物の発生を出発点としたものでしたが,目的の一つが天然資源の消費の抑制であるならば,人間社会への資源の投入を出発点としたマテリアルフロー全体の中で考えるべきです。

 一方,物質循環を促進するためには,その目安となる指標を設定し,施策の効果を客観的に把握する必要があります。現存するリサイクル率もそうした指標の一つですが,対象となる物質循環の形態,計測断面の違いによって,その計算根拠はさまざまです。

 そこで,本研究はマテリアルフローによって,資源の上流から下流への流れを漏れなくとらえることを意識しながら,とらえるべき物質循環の形態を分類したうえで,それぞれの形態の特徴を検討し,それをもとに物質循環の指標について提案を行いました。結果は以下の通りです。

図6 人間社会における物質循環の形態

 (1) 物質循環の形態の分類
物質循環の形態は,物質循環の対象となる物質の種類と利用方法から,図6の表の組み合わせが考えられます。このうち再使用は一度使用されたもの(使用済み製品)にだけ当てはまるもので,副産物には当てはまりません。また,自工程副産物の熱利用は他の工程で行われます。したがって,全部で6つの物質循環の形態があるといえます。

 (2) 物質循環の形態ごとの特徴
6つの物質循環の形態に関して,対象となる量をどのように計測するか,どのようにして天然資源の消費を抑制し,環境ヘの負荷を低減するのか,という2つの視点(物質循環の定量化の方法,物質循環の目的への貢献方法)から,その特徴を整理しました。2つの視点から6つの物質循環の形態は3つに集約されます(図6)。

 まず使用済み製品の再使用()は,たとえば中古家電の売買やリターナブル瓶の再使用などがあります。前者は売買時期や量などを計測することが困難ですが両者共に製品や部品の長期利用によって物質循環の目的に貢献ができます(図中A)。 次に副産物の再生利用では,自工程副産物の物質再生利用()として自家発生鉄屑を粗鋼生産の原料に利用する例,他工程副産物の利用では,物質再生利用()として製材工場の木くずを紙の原料として利用する例,熱再生利用()として製材工場の木くずを燃料として利用する例があります。この利用形態ではどこまでを副産物として定義づけるかによって再生利用量が変わる可能性がありますが,いずれの場合も物質利用効率の向上によって物質循環の目的に貢献できます(図中B)。3つめの使用済み製品の再生利用は,物質再生利用()として新聞紙を紙製品の原料として利用する例,熱再生利用()として廃プラスチックを燃料として使用する例があります。これらは計測がしやすく定量化が可能で,文字どおり再生利用により物質循環の目的に貢献できます(図中C)。

図7 物質循環の6つの指標の提案

 (2)で分類した物質循環の3つの形態(A~C)ごとに,その量を計測する上での特徴を踏まえた指標について検討し,これに目的に関する指標を加えて物質循環の6つの指標(①~⑥)を提案しました。1) 使用済み製品の再使用に関する指標①「物質利用時間」,2) 副産物の再生利用に関する指標②「物質利用効率」,3) 使用済み製品の再生利用に関する指標③「使用済み製品再資源化率」および⑤「使用済み製品再生利用率」,4) 物質循環の目的に関する指標⑤「直接物質投入量」および⑥「国内排出物量」。提案した以上6つの指標は物質のライフサイクルの要所要所をとらえたものになっています。

 なお,これらマテリアルフローに着目した「循環指標」は,あるべき指標の枠組みを提案するとともに,平成15年3月に閣議決定された「循環型社会形成推進基本計画」に盛り込まれた,マテリアルフローに着目した数値目標の策定に利用されました。