電気自動車の開発と自動車の環境効率評価
Summary
大気汚染物質の排出がゼロでエネルギー効率に優れている電気自動車「ルシオール」を,民間企業13社と協力し1994年度から3年間かけて開発しました。それまであった「遅い,重い,走らない」という電気自動車のマイナスイメージを払拭させるために「電気自動車とは何か」のコンセプトづくりから構築し,まったくのゼロから車体の開発に取り組みました。
1.電気自動車の開発
(1) 技術の特徴
従来の電気自動車と大きく異なる技術として,モータとブレーキ,減速ギア,ベアリングを一体化し,直接タイヤを駆動する「インホイールモータドライブシステム」を採用しました。これによりトランスミッションなどの伝達装置が不要になり,伝達効率が向上するとともに軽量化を実現しました。
電気自動車では重くてかさばる電池をどこに配置するかがポイントになります。ルシオールでは,アルミの押し出し成形技術を利用して電池の収納空間とシャシー構造を兼用した「バッテリービルトイン式フレーム」を開発しました。この結果,電池を床下に搭載することが可能になり,室内空間が広くなるだけでなく低重心化により運転時の安定性が増すことになりました。
こうした技術に加え,航続距離を確保するために電池を安定した均等な状態に保つための「バッテリーマネジメントシステム」や,走行時のエネルギーロスをできるだけ少なくするために空気抵抗の小さいボディを開発しました。
(2) 性能
こうした独自開発の技術により,最高時速150km,0−400m加速17.9秒を実現することができ,従来の電気自動車のマイナスイメージを払拭しました。また1回の充電で走行できる距離は,時速40kmで走行した場合290km,時速80kmの場合140kmとなりました。
環境面での性能については,図2に示したように原油1ℓから得られる火力発電量に置き換えると,市街地(一般的に燃費を表わすのに使われる10・15モード)で1ℓ当たり50kmの距離を走行できます。これは同クラスのガソリン軽自動車に比べ3倍以上高い工ネルギー効率に相当します。
2.自動車の環境効率評価
(1) 分析の概要
自動車の環境負荷を総合的に評価するには,自動車を直接利用する際の環境負荷に加え,利用するために必要な燃料の生産から供給までの,いわゆるエネルギーチェーンサイクル全体の環境負荷を評価することが必要になります。この評価手法はWell-to-wheel 分析と呼ばれ,自動車関連の研究分野ではすでに数多くの評価事例が報告されています。研究では,この評価手法を用いて燃料と車輌の駆動方式ごとにエネルギー効率の評価を行いました。また地域によるエネルギー効率の違いを明らかにするため日本,北米,欧州の3地域別の評価も行いました。
最新の情報を文献などを基に集め,車輌の駆動方式ごとに利用可能なエネルギー源の種類とその生産・輸送プロセスについての関連図を作成しました。そして,一次エネルギーから車輌までのパスを「エネルギー輸送媒体」「中間エネルギー」「エネルギー源」「エネルギー貯蔵形態」に分類して設定しました(p8図1参照)。ここでは簡略化のため天然ガスだけを取り上げていますが,研究ではその他のエネルギーについても同様の作業を行っています。
続いて,これらのパスに含まれるエネルギー変換プロセスのエネルギー効率をデータベース化するとともに,このデータを扱いやすくかつできるだけ簡単に解析できるようにするため,環境効率解析ツールを構築しました。
(2) 分析結果(図3,4)
環境効率解析ツールを使ってWell-to-wheel 分析を行い,次のようなことがわかりました。なお分析に当たっては,Well-to-tank 効率の評価も合わせて行いました。
Well-to-wheel 分析の結果についてみると,ガソリン改質型の燃料電池自動車とハイブリッド燃料電池自動車がもっとも高いエネルギー効率を期待できることがわかりました。これはガソリンのWell-to-tankまでの効率の高さにTank-to-wheel 段階の効率の高さが加わった効果によるものです。
またTank-to-wheel 段階では,エネルギー効率が高い燃料電池自動車とハイブリッド燃料電池自動車も水素ガスを燃料にしたときに顕著なように,燃料によってはガソリン車やディーゼル車よりもエネルギー効率が低くなることがわかりました。