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コラム「PSC(極成層圏雲)と脱窒のメカニズム」

 成層圏では秋から冬にかけて,緯度60度付近を境に極を回る大規模な渦(極渦)が形成され,高度20km付近では極渦の内と外の空気は一般に混合しにくくなります。また極渦の内部では空気の下降運動が生じます。このような大気の動きの中で気温が−80℃くらいまで冷やされると,それまでガス状だった大気中の水蒸気や硝酸・硫酸などが粒子化し,雲を形成します。これがPSCです。PSC表面での不均一反応(気体中では起こりにくい反応が,固体や液体の表面上では起こりやすくなること)によって安定な塩素化合物は不安定な塩素化合物に変換され,引き続く光解離(分子が光エネルギーを吸収して2つ以上の原子・ラジカル・イオンなどに分離すること)によってオゾンを直接破壊する不安定な塩素原子(活性塩素)を生じます。

 この活性塩素は,硝酸の光解離で生じる窒素酸化物の存在下では気相反応によって再び安定な塩素化合物に戻ります。ところがPSC粒子が数μm以上まで十分に成長すると重くなり,落下することによって大気中から除去されてしまいます。このとき,PSCに取り込まれた窒素酸化物も同時に失われる(脱窒)ので,活性塩素の安定化が阻害され,オゾン破壊が促進されることになります。

 また,温室効果ガスの増加に伴う成層圏の低温化によってPSCは増加するおそれがあり,オゾン層の回復が遅れるのではないかと懸念されています。したがって今後引き続きオゾン破壊に及ぼす脱窒の影響を監視していく必要があります。

図:PSC(極成層圏雲)と脱窒のメカニズム